キーワード1:「大人数」
コロナ明けの初のゴールデンウイークを迎えた中国人が、旅行に強い意欲を示しました。中国文化と旅行部のデータによると、2023年4月29日から5月3日のGW5日間に、中国本土全域で約2.74億人が旅行し、コロナ前2019年GWの119%になりました。そして、中華圏最大の旅行情報サイト「馬蜂窩(Mafengwo)」が公開したGW統計データによると、GWの観光客のうち77.6%が女性で、2020年の56.2%と比べて女性観光客が大幅に増加しました。年齢層から見ると、25~35歳の比率が半分以上を超え、55%で1位になりました。つまり、現在中国で、20代と30代、特に女性が旅行の原動力となります。中国国内で「女性経済(她经济)」が流行語になって、観光市場でも女性による消費が期待されています。 旅行者人数の急増が観光スポットに大きな負担をかけたことは明確です。混乱を避けるため、有名な観光スポットはGW前に、「満席」や「チケット完売」などと情報を提供し、予約のない観光客に「来ないほうがいい」と伝えました。例えば、最も人気のある観光スポットの一つ、北京の八達嶺長城は、4月30日と5月1日のチケットがすでに完売したことを4月24日に発表しました。北京市文化観光局が発表したデータによると、GWの初日八達嶺長城の入場者数は3.7万人に達しました。同様に、知名度が高くない「小衆スポット」も密です。筆者は内モンゴルの小さな小衆スポット「紫蒙湖(ズーモンフゥ)」に行くつもりでしたが、出発する前にSNS上で調べてみたら、観光客が多すぎてすでに2時間の道路渋滞になっていました。今年の中国GW、観光客の急激な増加が旅の体験に大きな悪い影響を与えたと言えます。
※小衆スポット:中国の流行語。知名度がまだ高くない、観光客が少ない穴場を指します。
キーワード2:「値上げ」
中国GW「リベンジ旅行」の裏には、旅行資源不足の問題があります。まずは、観光地までの移動手段を確保するのが難しいです。中国の新幹線「高鉄」のチケット料金は変わりませんが、チケット枚数に上限があるので、連休期間のチケット購入がかなり難しくなりました。長距離移動に最も適した航空便については、中国の経済メディア財聯社のデータによると、GW期間の運航便数は8万回を超え、2019年同期の115%になりました。便数は増えましたが、航空券の値段も高騰。その結果、GW期間の平均航空券料金が1211元(約2.4万円)となり、2019年同期の139%に達しました。例えば、北京から雲南省大理市までの往復航空券は以前約2300元(4.5万円)でしたが、GW中は2倍以上の価格になりました。GW期間北京→大理往復航空券:往復5160元(約10万円)
もっとも議論になっていたのは、交通手段ではなくGWの宿泊費です。4月中旬から、中国のツイッター「Weibo」で「たくさんの地域でホテル料金が3~5倍に(多地五一酒店价格上涨3到5倍)」という話題が急上昇。コロナ以前も連休の宿泊料金は上がりましたが、今回のように3倍にも5倍にもなることは珍しいです。通常一泊200~300元(約4000~6000円)程度の旅館が、連休中はほとんど千元(約2万円)を突破し、その価格でも満室で予約できないケースが多かったです。そして、事前に連休中の値上げを予測し、2~3ヶ月前にすでに宿泊施設を予約した観光客も安心できません。なぜなら、宿泊施設側から突然値上げの連絡や、勝手に予約をキャンセルされたケースも大量に発生しました。市場規制がより緩やかな民宿のほうが、事故が多発したようです。「部屋を改装中」「オーナーが倒産」「2階で水漏れがあり現時点で泊まれる状態でない」など、様々な「不可抗力」を理由に、民宿側からキャンセル連絡が殺到して、顧客に迷惑をかけました。結局、「GWの民宿、突然の値上げや契約破棄が相次ぐ(五一民宿现涨价毁约潮)」と話題になって、ネット上にも批判の声がたくさん現れました。
図:Weiboで「GWの民宿、突然値上げや契約破棄が相次ぐ(五一民宿现涨价毁约潮)」話題に関する投稿が8.2万「いいね」を獲得しました。
キーワード3:「特殊部隊型旅行」
たくさんの問題が現れたと同時に、不景気や旅行料金の高騰に対する民間対策も出たようです。4月中旬から、「特殊部隊型旅行(特种兵式旅游)」というキーワードが注目されています。これは「体力と時間の限界に挑戦し、最小限の時間と金銭で最大限に観光スポットを巡る」という新たな旅行スタイルです。中国の若者層、特に大学生や新社会人たちが、「特殊部隊」の一員となり、強度の高い旅行スケジュールにチャレンジしています。例えば、「1日に4万歩歩いて、10カ所観光地を回る」、「30時間で1300キロ往復、6つの観光スポットを巡る」、「33時間で北京の8つスポットを観光」などの実例が、中国ネット上でよく見られています。その中で、中国の30歳男性柟多多さん(仮名)が、「特殊部隊型旅行」話題のクライマックスを作りました。彼はGWの5日間に、中国の「五岳」を制覇しました。
柟多多さんが各名山での記念写真をwechatに投稿しました
要するに、現在、体力はあるがお金がない若者たちが、こういう「高効率」の旅行形式に夢中になっています。短い時間により多くの観光地を訪問し、そして現地で写真や動画を撮ってSNSに投稿するのも大きな特徴です。一方、こういう「現地に着いて、すぐに離れてしまう」という旅行スタイルに疑問を持っている人も多いようです。ネット上では「このような方法が本当に旅行と言っていいのか」などの議論も多くみられます。
まとめ
なぜ「特殊部隊型旅行」が突然人気になったのでしょうか?「特殊部隊型旅行」の「なるべくホテルに泊まらない」ことが理由の一つかもしれません。彼らは高速列車ではなく、移動時間がかかっても宿泊できる列車を選び、ホテルではなく24時間営業のネットカフェ、カラオケ、銭湯で一夜を過ごして、費用を節約するとともに、特別な旅行の思い出も作りました。身体は疲れても、彼らはSNSで訪問した観光地の数や、いかに早く次の目的地に着いたかなどを投稿して、精神的な満足を得ることもできます。「急行軍」のような新しい形の観光方法は、明らかに社会的背景と結びついています。 中国の観光市場が、いまコロナの闇から抜け出したことは間違いないです。ただ、社会の経済がまだ回復していないため、個人の消費能力が追いついていません。全国的に「リベンジ旅行」のニーズが存在しますが、個人の年齢、収入などによって、旅行にかける費用や旅行の形式が異なります。今年のGW5連休は終わりましたが、中国観光客が、国内観光スポットの混雑状態やホテルや民宿などの宿泊施設の不備に不満や不信感を募らせ、そのため今後はまだ知られていない穴場「小衆スポット」を狙ったり、ブランドを持つチェーンホテルなどに泊まるようになるなど、新たなトレンドが現れる可能性も十分に考えられます。現時点(2023年6月)、日本はまだ中国団体旅行対象外のため、中国人旅行客が大挙して訪日することは不可能です。日本への団体旅行が再開する際に、以前と同様に中国人観光客の「爆買い」現象は再び起こるでしょうか?この質問の答えが非常に興味を持っています。
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執筆者:王 黛青(All About Japan 簡体字 編集リーダー)
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