1週間で帰ってはきたけれど
タダシさんはすぐに妻の実家に連絡をし、両親と話をして現状を把握してもらった。妻は両親にも諭されたのだろう。1週間ほどで戻ってきた。「『何かを取り決めしたいわけじゃない。仕事を辞めたきみを責めているわけでもない。一緒に家庭を作っていきたいんだ』と、僕は真摯に話しました。少しずつ話し合っていったんですが、妻はとにかく子育てがストレスでたまらないと。『だったら保育園に預けて仕事を始めてもいいんじゃないか』と言うと、『あなたに私の気持ちはわからない』と始まってしまう。『その言葉はやめておこうよ』と言ったけど、何かというと『あなたにはわからない』、が決まり文句として出てくる」
ちゃんと言葉で言ってよ、そうじゃないとわからないと何度も彼が言い、だが妻は言葉では伝えきれず、あなたにはわからないを繰り返す。不毛なやりとりだと彼は絶望的になったという。
「そんなとき助けてくれたのが妻の妹でした。義妹は『おねえちゃんはもともと被害者意識が強いから、たぶん子どもを産まされたから自分がひどい目にあっていると思っているはず。義兄さんを恨んでいるかもしれない』とアドバイスしてくれたんです。そこで、『きみがいかに大変だったかをわかってる』と常に言っていたら、妻はいくらか変わりましたが。義妹が言うには、妻は『子どものころから自分がお姫様でいないと気が済まないタイプ』だったそうです」
出会ったときはそんなふうには感じなかったし、結婚後もしっかりした女性だと思っていたのだが、子どもといういちばんの弱者ができたとき、妻は「自分こそ労られてしかるべき存在なのに」と理不尽な思いを抱えてしまったようだ。自分が思うほど、夫は労ってくれない。そこに不満があったのだろう。
「義妹が手伝いに来てくれたこともあったんですが、そういうときの妻は強気に幸せアピールをするんですよ。見ていて痛々しくなるくらい。義妹が帰るとぐったりしている。『見栄を張ることないのに』と言うと、変わらず『あなたにはわからないわ』って」
以前より落ち着いたとはいえ、今もそんな生活が続いているとタダシさんはため息をついた。妻が理解し合うことを拒否せず、向き合ってくれる日は来るのだろうか。