子育て

校則で禁止の髪型、就職面接での印象を人事に聞いたら…「ブラック校則」をルールメイキングで変える

全国的に見直しが広がりつつある「ブラック校則」。認定NPO法人カタリバによる取り組み『みんなのルールメイキング』プロジェクトで、学校に伴走しながら校則改訂に取り組んだ古野香織さんに話を聞きました。

長島 ともこ

執筆者:長島 ともこ

子育て・PTA情報ガイド

「割れ窓理論」により生まれたブラック校則

「ブラック校則」とは、一般社会から見れば明らかに理不尽な校則や生徒心得、学校の独自ルールの総称として呼ばれ、近年その見直しが全国的に広がりつつあります。

文部科学省の「生徒指導提要」によると、そもそも校則とは、「児童生徒が健全な学校生活を送り、よりよく成長・発達していくために設けられるもの」であり、「児童生徒の発達段階や学校、地域の状況、時代の変化等を踏まえ、社会通念上合理的と認められる範囲において、教育目標の実現という観点から校長が定めるもの」であるとされています。

なぜ、合理的と認められる範囲を超えたブラック校則が存在するのでしょうか。
 
【画像提供】認定NPO法人カタリバ『みんなのルールメイキング』「みんなのルールメイキング」は、生徒が中心となり先生や関係者と対話しながら校則・ルールを見直していく取り組み。 対立ではなく「対話を通して納得解をつくるプロセス」を学びの機会と捉え、子どもたちに身近な校則・ルールを題材に、学校へ対話を届けるサポートを行っている。 校則を見直すことが目的ではなく、「校則」を題材に、目指したい学校づくりができるきっかけをつくっていく。

認定NPO法人カタリバによる『みんなのルールメイキング』では、子どもたちに身近な校則・ルールを題材に、学校へ「対話」を届けるサポートを行っている。 校則を見直すことが目的ではなく、「校則」を題材に、目指したい学校づくりができるきっかけをつくっていく。
【画像提供】認定NPO法人カタリバ

2019年に認定NPO法人カタリバにより開始した『みんなのルールメイキング』は、生徒が中心となって、先生や保護者などと「対話」しながら校則・ルールを見直していくプロジェクト。この取り組みで、学校に伴走しながら校則改訂に向けたプロジェクト設計や対話の場づくりのサポート・調査研究を行う古野香織さんは、こう言います。

「1980年~90年代にかけて、学校が荒れて生徒の非行が増え、その一端として髪を染めたり派手な下着を身につけたりする状況が生まれました。『1枚の窓ガラスが割られている状態を放置していると、やがて他の窓ガラスも割られていき、次第に街全体が荒廃する』という、アメリカの犯罪学者が提唱した『割れ窓理論』。これが教育現場でも応用され、非行やトラブルのもとになるような行動に制限をかけるために、必要に迫られて厳しい校則を定めたと考えられています。しかし、それがずっと見直されずに現在まで残っていて、『あれ? この校則は時代に合っているのだろうか?』という声が全国であがり始めていると認識しています」

実際、学校現場では「校則を見直そう」いう声がどのようにあがり、どのようなプロセスを踏んで、どのように変わっていくのでしょうか。

NPOカタリバ・古野香織さんが、校則見直しプロジェクト『みんなのルールメイキング』のコーディネーターとしてサポートした、2つの学校の事例を取り上げて紹介します。
 

地元企業の採用担当を訪問。90項目以上ある校則の改革に挑戦した、栃木県の県立高校

2021年度、栃木県のある県立高校には、

・下着の色は白かベージュ
・ツーブロックなど奇抜な髪型禁止
・おだんごや編み込みは禁止
・前髪は眉毛にかかる程度まで
・地毛が明るい、くせ毛の場合は「地毛申請書」を写真付きで提出

など、じつに90項目以上の厳しい校則が存在していました。

「生徒や保護者に向けた学校アンケートの回答結果では、校則や生徒指導の項目の評価が非常に低かったそう。そこで校則改革に手を挙げてくれたのは、理解ある生徒指導部の先生でした。前任の先生から引き継いですぐに『変わらなければいけない』と思っていたそうです」(古野さん:以下同じ)

先生と生徒有志による「ルールメイキング委員会」を立ち上げ、まずはお互いに本音を言い合える関係づくりに重点をおいたキックオフミーティングを開催。

「生徒たちは最初、『意見を言ってもどうせ変わらないだろう』とあきらめがちだったことに加え、自分が感じる違和感をどう大人に伝えたらよいかわからず、戸惑っている様子でした。しかし、ここは遠慮がいらない“対話”の場であることを伝えると、少しずつ自分の意見が言えるようになっていったのです。『まずは生徒の声に真摯に耳を傾けよう』という先生たちの姿勢を生徒も感じ取り、『自分たちでこの学校を動かしていくんだ』という意識が芽生えたように思います」
対話を重ねるうち、「自分たちでこの学校を動かしていくんだ」という意識が芽生えていった

対話を重ねるうち、「自分たちでこの学校を動かしていくんだ」という意識が芽生えていった

その後、全校生徒にアンケートをとった結果、「下着の色」については、約3分の1の生徒が不満を寄せたことなどから、生徒指導部の先生が学校に働きかけていち早く廃止が決定。「お団子や編み込み禁止」「地毛申請書の提出」のルールも撤廃されました。

また、学校側に「前髪は眉毛にかかる程度まで」という校則が存在する理由をヒアリングしたところ、「生徒が就職面接を受ける時に、髪が目にかかっていると印象が悪くなるから」ということがわかりました。そこで、生徒たちが地元企業の人事担当者に、さまざまな髪型の写真を見せながら調査したところ、「前髪についての規定は特にない」という答えが返ってきました。それを踏まえて生徒と先生が話し合い、前髪の規定は「目にかからない程度」に変わりました。ツーブロックについては、進路への影響などを考慮しながら現在も検討中だそうです。

「生徒、先生、保護者、地域の方など立場や意見の違う人たちとの対話を通して納得解をつくるプロセスは、時間や手間がかかります。しかしそれにより、『自分の声を大人に受け止めてもらえた』『自分の意見に価値があった』と生徒が実感する経験はとても大切です。先生たちは日々多忙なため、このような対話の土壌が生まれにくい状況だったのですが、このプロジェクトをきっかけに、アルバイトの規定や制服の見直しなど、先生同士でも新たな議論が生まれるようになったと聞いています」
 

PTAを巻き込み意見交換を実施。「制服」の見直しを進めた、岐阜県の公立中学校

保護者を巻きこんだルールメイキングも進んでいます。岐阜県のとある公立中学校では、2021年度、校長先生の提案から校則の見直しがスタート。

生徒たちが話し合って、

・靴下は白でくるぶしが完全に隠れるものから、白以外でも可(黒、紺、グレー等)、長さの指定なし、儀式的行事は白で統一へ
・髪を結ぶ際は耳より下の位置から、さわやかな髪型であれば結ぶ位置は自由に
・指定の体操服から、白・丸首・半袖なら指定でなくても可に

に変更されました。

「生徒が創る自分の学校」を掲げるこの公立中では、制服にセーラー服・学生服を採用していました。しかしコロナ禍の感染症対策として、洗いやすいようにと生徒の大半が体操服を着用する状況のなか、制服の在り方を見直す機運が高まったそうです。そこで、保護者も同じように学校の作り手になってほしいという思いから、PTA会議の場を利用して、制服についての意見を交換し合う「制服フォーラム」を2022年10月に開催。

同校や校区の小学校から保護者25名が参加し、「制服代が高い」「成長期のためサイズ調整ができなかったり、買い直さないといけないのが負担」「制服がないと何を着せたらよいか迷う」などの声があがりました。

生徒がいきなり大人に提案するのではなく、まずは学校と保護者同士の対話の機会をもち、それをふまえて学校と、生徒と保護者が対話を重ねていく工夫を凝らしながら、ルールメイキングを進めたそうです。

「学校や先生に意見を言うと、モンスターペアレントのように思われるのではと心配する保護者の方もいらっしゃいます。しかし、子どもや保護者が正当な理由で困っている場合は、当事者意識をもって、学校に相談したり要望を出したりすることはとても大切なことだと思います」
 

学校は社会参加の場、「当事者意識」をもった関わりが大切

「コロナ禍が続いて、生徒同士で膝を付き合わせて語り合うような機会が減りました。さらに教師の負担過多、それに伴う忙しさも解消されていません。生徒総会、学校行事、部活動などを通し、どうしたらみんなが幸せに楽しく過ごせるかを一緒に考える時間や環境が必要なのに、それが整っていないのが今の学校が抱える課題ではないでしょうか。

ただ、一度対話の機会を設けると、それを『楽しい』『面白い』と感じ、自分たちが目指す学校について、みんなで考える風土が根づいていくポジティブな変化を感じ取ることができています。校則の見直しは、生徒自身が“学校のつくり手”になれる醍醐味を味わえるきっかけのひとつになると思います」

学校は、学力を育む場であることは当然ですが、それだけでなく、子どもたちが学校のつくり手として、自分たちの学校生活に関わることを話し合って決めてよい場でもあります。

子どもたちが将来、「当事者意識」をもって主体的に社会に参加していくためにも、校則や学校生活を送る上で疑問に感じていることがあれば、声をあげていいこと、時には「第三者」の力を借りながらでも「対話」の時間をもうけること、子どもたち、先生だけでなく「保護者や地域の人も学校の一員」として学校に関わっていくという意識を醸成していくことが、これからの学校づくりに大切といえるのではないでしょうか。
  【参考】
生徒指導提要/文部科学省
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※乳幼児の発育には個人差があります。記事内容は全ての乳幼児への有効性を保証するものではありません。気になる徴候が見られる場合は、自己判断せず、必ず医療機関に相談してください。

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