Q. 激辛料理の辛みは牛乳で和らげられますか?
牛乳は辛さを和らげる?
唐辛子の効いた激辛料理を食べたときに、辛さを抑えようとして多くの人が思わずガブガブと水を飲みますね。でも、みなさん経験済みと思いますが、いくら水を飲んでも辛さはなくなりませんね。しかし、こんなとき、牛乳なら辛さが和らぐという説があるようです。本当でしょうか?
Q. 「激辛カレーに挑戦しましたが、口の中の辛さに耐えられず、最後まで食べられませんでした。辛さを感じても、水ではなく牛乳を飲めばよいと聞きましたが、牛乳に辛みを抑える効果はあるのでしょうか?」
A. 辛さは牛乳でも抑えられません。収まるのをひたすら待ちましょう
結論から言ってしまうと、牛乳を飲んでも、辛さは抑えられません。無駄です。その理由を説明しましょう。辛さは、唐辛子やワサビ、山椒などを口にしたときに生じる刺激的な感覚です。味覚の一種として、漢字で「辛“味”」と表記されることもありますが、正しくは「辛“み”」です。実は、辛さ(辛み)は、味覚ではないのです。
塩味・酸味・甘味・苦味などの味覚は舌だけで感じるものですが、辛さは舌以外でも感じます。たとえば、唐辛子は汁が目に入っただけでも激痛が走ります。辛いものを食べると舌だけでなく、食道から胃が焼けつくような感じがすると思います。つまり、辛さ(辛み)は味ではなく、痛覚の一種なのです。
唐辛子に含まれる辛み成分は、「カプサイシン」という化合物です。少し専門的になりますが、カプサイシンは口内の粘膜から吸収され、粘膜下にある知覚神経の先端に分布する「TRPV1 受容体」というタンパク質分子に結合します。本来のTRPV1受容体の役割は、火傷を生じるような熱刺激を検出して、それを感知するための痛みを提供することですので、この分子にカプサイシンが結合すると、熱による痛みと同じ感覚が生み出されるのです。TRPV1受容体がカプサイシンによって刺激されると、知覚神経上に電気信号が発生し、その信号が脊髄まで伝わります。そして脊髄では、痛覚伝達を担う「サブスタンスP」という物質が放出されて、情報が脳まで伝わるようになります。
激辛の食べ物に挑戦して「うわ~辛い~!!」と大騒ぎしている段階では、もう痛みの信号が脳に伝わっているということです。
水と違って、牛乳にはカゼインという物質が含まれています。このカゼインが、カプサイシンが作用するのを妨げてくれるという話が、牛乳が辛さを和らげてくれる説の理由として一部で語られているようですが、上のような辛み=痛みが生じるしくみを知れば、その説明がまったく無意味であることに気づくはずです。
カプサイシンはすでに粘膜下に浸み込んでいるのです。すでに知覚神経に電気信号を発生させ、脳がそれを感知するような状態になってから、あわてて水を飲んで口内に残ったカプサイシンを洗い流したところで、何の効果もありません。もはや手遅れです。これは水でも牛乳でも同じことです。火事が起きてすでに家が燃えているときに、火元となったタバコの吸殻の火を消そうとしているのをイメージしてください。そんなことをしても、燃え広がった炎は収まりませんよね。
「辛い」と感じてしまったときは、それ以上食べるのを控えて、痛みが減っていくのをひたすら待ちましょう。いつかは収まりますから。