Q. 桜餅の「桜味」って結局何なのでしょうか?
春を感じさせる風味の桜餅。そもそも「桜味」とは何なのでしょうか?
A. 桜の葉を加工することで生まれる「クマリン」の香りと味です
見た目も香りも、春の訪れを感じさせる「桜餅」。しかし、満開の桜の下でお花見をしていても、たしかに一帯で桜餅のような香りがするわけではありませんね。桜の花や実も、一般的な食材としてよく使われるものではありませんし、咲いている桜や、桜の木や葉のにおいを直接嗅いでも、桜餅のような香りはしません。「桜味」についてよく考えてみると、結局何なのか、不思議に感じられたのかもしれませんね。実は「桜味」として親しまれている、桜の葉のような独特な香りと味の正体は、「クマリン」という化合物です。バニラに似た芳香と少しの苦みが混じった味がします。「桜」というと和風の植物由来のものと思われるかもしれませんが、実は「クマリン」自体が成分として最初に分離されたのは、中南米に育つマメ科の「クマル」という木の種からでした。これがクマリンの名前の由来です。同じ成分は、シナモンにも含まれています。
生きている桜や葉を直接嗅いでも、桜餅の香りがしないのは、香りの元となるこのクマリンが、実は生の桜や葉にはもともとは存在しないからです。私たちが「桜味」「桜風味」と感じているあの香りは、実は桜の花や実ではなく、桜の葉を加工する過程で生じたクマリンによるものなのです。
少しだけ専門的になりますが、生きている桜の葉に含まれているのは、クマリンよりもやや大きな「クマリン酸の配糖体(糖と結びついた分子)」で、この状態のままでは、あまりにおいません。桜の葉を採取して葉を半乾きにし、砕いたり、塩漬けにしたりと加工する過程で、細胞の中の液胞に蓄えられていた酵素が漏れ出てきます。これがクマリン酸の配糖体に働きかけて、配糖体の糖が取れるとクマリン酸が生じ、さらにそのクマリン酸が化学変化を起こしてクマリンができるのです。この段階で、桜餅の芳しい「桜の香り」を発するようになります。つまり、桜餅の香りは、人の手によって作られたものなのです。また、最近は「桜味」「桜フレーバー」「桜風味」などのお菓子や飲み物も見かけます。これらの製品の原料は一概には言えませんが、桜の葉や花をすりつぶしたり、加工したりしたエキスを利用したものも多いようです。
「この桜のいい香りは先人の知恵と工夫で生み出されたものなんだなあ」と思いながら食べると、いっそう桜餅がおいしく味わえるのではないでしょうか。筆者もこの記事を書きながら、無性に桜餅を食べたくなってきたので、近所の和菓子屋さんに出向いてさっそく買ってこようと思います。