住宅ローンは、まめに繰り上げ返済すれば、15年くらいで返済可能の見込みです
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、住宅ローンを組みマンションを購入したが、虚無感を感じているという39歳の会社員女性です。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。マンションを購入したものの貯金は少なくなり不安も
ねこちゃんさん
女性/会社員/39歳
東京都/持ち家(マンション)
■家族構成
一人暮らし
■相談内容
貯金もなく、勢いでマンションを購入したので、今後のお金についてのビジョンが見えません。
派遣で入った会社で正社員雇用となり、その後、その会社が大手企業に買収され、私の職歴ではとうてい入れない会社に所属することができました。給料も上がりましたが、転職したら給料は大幅に下がると思いますので、なるべく今の会社にいたいと思いますが、いつ肩を叩かれるか不安です。
上記のことがあり、年収も良く、会社のネームバリューもあり、今ならローン審査が通るだろうという予想と、もう結婚する気がなかったことから、去年マンションを購入しました。
住宅ローンは、今の年収でまめに繰り上げ返済すれば、15年くらいで返済可能の見込み。築年数が古いので(ギリギリ新耐震)、支払いを終えてからの売却や賃貸としての運用は難しいと思っています。ただし、追い出されることもないと思っていますが、老後に賃貸が借りられなくて住むところがないということは免れ、心の平穏は買えたと思っています。
マンション購入時に、頭金と、家具購入に貯金を使ったので、現在貯蓄が少ないです。マンション購入に使ったのもありますが、元々貯金が苦手で、口座の金額に余裕があると気が大きくなり買い物をしてしまいます。収支が合わないのはこれが原因です。
【1】今後何のためにどのくらい貯金をしたらよいのか(モチベーションが保てないので……)
【2】繰り上げ返済のタイミング、金額
【3】保険は今のままでよいか(現在は入院保険のみ。がん保険にも入るべきか?)
が知りたいです。
両親は都内在住(持ち家)、本人たちの老後は気にしなくてよいと言われているが、本当に大丈夫なのかは不明。兄は一人暮らしで結婚をしなさそう。実家の持ち家と、都内の祖父の家が残る予定。
現状、貯金はないけどお金には困っておらず、住居も確保してしまったので虚無感のようなものを感じています。ビシッとするようなアドバイスをいただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いします。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)ボーナスの使い道
去年の実績/6月分:夏休みに旅行、引越し費用、家具など。12月分:美容整形(今後はしない予定)。今年夏に旅行予定15万円。あとは未定。
(2)貯蓄について
毎月8万円の貯金は普通預金です。
(3)住居費について
・購入年/2022年(築年数38年)
・購入価格/1600万円
・ローン借入額/1760万円
・借入金利/0.745%(変動)
・返済期間/35年
・ローン残債/1734万円
・毎月返済額/5万円
・管理費・修繕積立金1万5000円
※返済は毎月返済のみ。固定資産税年10万円。火災保険は10年分を購入時に支払い済み
(4)加入保険について
医療保険(終身タイプ、入院1万円、手術5万~20万円、女性特約入院5000円、先進医療給付2000万円、死亡保障なし)=毎月の保険料3500円
(5)趣味娯楽費について
写真が趣味なので、カメラのローン1万円、レンタカー、高速移動費、場所代など2万円
(6)働き方について
定年60歳です。今の会社で定年を迎えたら退職金は1000万円前後。ただし、あと20年も今の会社で働けるかどうか……。定年後はパートなどできたらいいと思っています。
(7)公的年金について
ねんきん定期便には60万円と書いてありました。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 9年後に住宅ローンの一括繰り上げ返済が可能
アドバイス2 ローン完済後は老後資金を積み上げておく
アドバイス3 貯蓄があれば選択肢は広がる。マンションの買い換えを検討してもいい
アドバイス1 9年後に住宅ローンの一括繰り上げ返済が可能
マンションを購入して安堵した気持ちはわかりますが、現時点での金融資産はそれほど多くはありません。ここで一息つくには早すぎます。次の目標が見つけにくいのであれば、やはり住宅ローンの早期完済と自身の老後資金の確保を目標に予算化してみてはいかがでしょうか。マンションは築年数が経っていますが、現行の耐震基準以降の建築ですから住宅ローン控除が適用されていると思います。住宅ローン控除の期間内は慌てて繰り上げ返済する必要はありません。2022年の購入ですから、住宅ローン控除の適用がなくなる9年後に一括で繰り上げ返済し、ローンを完済させてしまいましょう。万一、床面積が50平方メートル未満だと住宅ローン控除の適用外になりますが、いずれにしても、9年後をめどにすれば現預金が増えていますので、一括返済するタイミングとしてはベストでしょう。
一括返済するためには、9年間でその原資をしっかりと貯蓄することが大事です。
現在、毎月8万円の貯蓄ですが、家計収支で使途不明金があります。使い道が把握できている分を差し引いても、あと4万円は毎月貯蓄に回しましょう。これで毎月12万円、年間144万円の貯蓄です。これにボーナスから56万円を加えることができれば、年間200万円の貯蓄が可能です。これができる家計なのです。
仮にこのまま定年退職まで働いたとし、21年間で4200万円。現在の金融資産285万円と退職金1000万円を加えると5485万円となります。60歳までに、これだけ貯められるポテンシャルがあります。
そこで9年後に住宅ローンを一括返済するとします。その時の金融資産は2085万円になっています。残りの住宅ローンはおそらく780万円ほど。一括返済した後の金融資産の残りは約1300万円となります。
アドバイス2 ローン完済後は老後資金を積み上げておく
9年後からは、住宅ローンの返済分5万円が浮きますので、これを貯蓄に移行できれば毎月17万円、年間204万円。ボーナスから56万円を維持すれば年間260万円の貯蓄ができます。退職までの12年間で3120万円となり、住宅ローン返済後の金融資産1300万円を加えると4420万円、退職金1000万円も加算し、都合5420万円となります。これが60歳時点での金融資産となります。
一人暮らしで、5420万円の老後資金があれば、心配することはないでしょう。逆に、ここまでなくても老後の生活を送れると思えれば、現役の今、もう少し自由にお金を使ってもいいかもしれませんね。特に食費が現在2万円というのが気になります。健康的な生活を送るためには食生活は大事です。贅沢な食事をするということではなく、もう少し食費にお金をかけて、心身、健康に過ごしていただきたいと思います。
また、趣味がカメラということであれば、撮影旅行にもっと出かけてもいいでしょう。ただし、今後はカメラ購入するにしてもローンは避けるようにしましょう。その時点の貯蓄次第ですが、キャッシュで買える範囲で趣味を楽しむことも大切です。
保険については、医療保険のみで十分です。がん家系で気になるということであれば、がん保険の加入を検討するのは構いませんが、今後、貯蓄が積み上がっていきますので、保険に頼りすぎずとも、貯蓄でカバーすることができるので、保険の入りすぎには注意してください。
アドバイス3 貯蓄があれば選択肢は広がる。マンションの買い換えを検討してもいい
9年後に住宅ローンを完済し、その後も着実に貯蓄を継続できれば、家計に問題はありません。ただ、懸念材料としては、現在のマンションが築38年ということです。大規模修繕をはじめ、修繕計画を管理組合に問い合わせ、今後の出費がどうなるのかを確認しておきましょう。場合によっては繰り上げ返済を待たずに、ある程度、手持ち資金が貯まったら、売却して新しいマンションに買い換えるという考え方もあります。築年数が経てば経つほど売却は難しくなっていきます。売れるうちに売って、本当に生涯、安心して住めるマンションを手に入れる、というのも大きな目標になり得るでしょう。
何年後になるかわかりませんが、買い換えをする前に、必ずご相談をお寄せください。その時点での収支、金融資産によって資金計画は変わります。もちろん、このまま住み続けてもいいのですが、くれぐれも修繕計画については確認をしておいてくださいね。
まだまだ将来について安心するのは早いです。貯蓄があれば、今後の人生の選択肢はぐっと広がります。頑張ってくださいね。
相談者「ねこちゃん」さんから寄せられた感想
いつも拝見していた深野先生からアドバイスをいただき大変うれしく思います。9年後に一括返済をするという具体的な目標が明確になり、貯金のモチベーションが上がりました。また、マンションの買い換えは頭になかったので、また数年後に考えてみようと思います。ありがとうございました。※マネープランクリニックに相談したい方はコチラのリンクからご応募ください。(相談はすべて無料になります)
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/伊藤加奈子