聞いていてギョッとする言葉のチョイスではあるが、言わんとすることはよくわかる。まさにそうだと思った人も少なくないのではないだろうか。
30代、生きていくだけで精一杯
「僕も早々に結婚して子どもを持つという選択肢を自分の中からはずしました」そう言うのは、タカトシさん(33歳)だ。大学を卒業して有名企業に就職したものの、人間関係でつまずき、半年の休職を経て会社を辞めたのが26歳のとき。
「打たれ弱いとか、みんな君のためになることなんだからとか、いろいろ言われました。確かに同じように叱咤激励されて、なにくそと頑張る同期もいた。僕も最初は頑張ろうと思った。でも僕には無理だった。そうなると、自分で自分に“ダメなヤツ”というレッテルを貼るしかない。やめるとき、『君には期待していたのに』と上司に言われました。期待に応えられない自分がなおダメなヤツに感じましたね」
人の心はそれぞれ。些細な一言で心折れてしまう人がいたとしても、それで「弱い人間」とは言えないはずだ。だが、当時、自分で貼ったレッテルは強烈だったのか、タカトシさんはそれ以降、仕事に就けなくなってしまう。
「ひとり暮らしでしたし、地方の実家には帰りたくない。親に心配かけたくなかったんです。休職しているときも焦っていましたが、会社を辞めてからはもっと焦燥感が募った。だからせめてアルバイトでもしなければと思うんだけど、体が動かない」
退職してから3カ月ほどたって、ようやく外に出られるようになった。学生時代の友人から連絡があったとき、なにげなく近況を伝えるとそこから仲間たちが助けてくれたのだという。
「休日に食料品を持ってきてくれたり、一緒に外に出ようと誘ってくれたり。学生時代の友人たちには本当の感謝しかありません」
なかでも当時から仲のよかったミエさんは、心から彼のことを気にかけてくれた。こんな状態で付き合おうとは言えないと告げたタカトシさんに対して、彼女は「私はあなたが好き。だから一緒にいたい」と言ってくれた。彼のアパートに泊まっていくこともあった。
その後、居酒屋のアルバイトを得たタカトシさんは、学生時代に経験があるだけに店に重宝され、自分でも接客が向いていると感じたという。
2年ほど経ち、大手企業が経営する飲食店に正社員として応募、内定したときにコロナ禍に陥り、内定は取り消しになった。
>内定取り消し、ミエさんからの連絡は……