快適な今の暮らし
「平日は夫のほうが早く起きて、出社していきます。朝ご飯も食べていってるんじゃないですか。そのあたりは気を遣わないことにしています。私はフレックス制なので、出社はだいたい10時頃。その日、何時に帰るかも娘を含めて誰にも連絡はしません。それでも娘とは連絡を取り合うことが多いですね。夫とは数日、顔を合わせないこともあります」ほぼひとり暮らしのような感じだが、これが意外と快適なのだという。自分の分の家事だけやり、風呂やトイレなどの共用部分は週替わりで3人で分担する。あとは何時に帰ろうが、どこへ旅行しようが、誰にも何も言われない。
「ホワイトボードが用意してあって、帰宅しないときは記入することになっています。一応家族だから心配するので。私は今月、23日から26日まで旅行、と記しました」
どこへ行くのかとは誰も聞かない。帰ってきたら土産話くらいはするだろう。娘の欄には来月半ばから2週間ほど旅行と書いてある。海外に行くと聞いているとマサヨさんは言った。
「大人3人が、ゆるく繋がりながら同居している。そんな感じですね。誰かが話を聞いてほしいと言うなら聞く。でも仕事を持ち帰ることもあるので、そういうときは部屋にこもる。みんな適当にそうやって生活しています。特に困ることもありません」
子どもたちが大学に入ったころから、望んでいた自由が転がり込んできた。マサヨさんはそう言う。だが、彼女も主婦歴、母親歴が長い。どうしても「私が面倒を見なければ」と思ってしまうことはないのだろうか。
「最初はちょっと寂しかったかもしれませんね。いつもしていたことをしなくていいとなると、誰からも必要とされなくなっているような気がして。娘にそう言ったら、『ママはママの人生を歩けばいい。それでも私のママであることには変わりないでしょ』って。そうか、今までずっと家族のために自分の時間を使ってきたけど、実際はもうずいぶん前から、子どもたちは、家事要員としての私を必要としていなかったんだなとわかりました。自分のために生きよう、生きていいんだと娘に背中を押された。だから夫にも、もう家事はしない宣言ができたんだと思います」
夫もまた、実家に通うことで生活上の術やスキルを少しずつ身につけていた。だからそれぞれが自分本位に生きることができるのだろう。
「家は単なる箱。子どもが小さいときはその箱の中で、夫と私が協力しあって子どもたちを守らなくてはいけないけど、みんなが大人になったら、その箱は好きなように使えばいい」
うちはバラバラな生活をしているけれど、誰かが本当に困ったら、おそらくみんなで助け合うんじゃないかなと、マサヨさんは控えめに笑った。