食生活・栄養知識

コーヒーが「眠気覚まし」になるのは本当?カフェインと睡眠物質との関係とは

【脳科学者が解説】コーヒーには「眠気覚ましの効果がある」とよく言われますが、どういうメカニズムなのかご存じでしょうか? コーヒーとカフェイン、睡眠と覚醒の関係、睡眠物質と考えられているアデノシンについて、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

コーヒーを飲むと「眠気覚まし」になる?

コーヒーが眠気覚ましになる理由

コーヒーに含まれる「カフェイン」が眠気覚ましに効果があるといわれていますが……

筆者はコーヒーが大好きで、1日に必ず2~3杯は飲んでいます。仕事が行き詰まったときや疲れたときにドリップコーヒーを自分で淹れて飲むと、心がすっきりとリセットされる感じがします。コーヒーは眠気覚ましの効果があるので、受験勉強などのために飲んでいるという方もいるかもしれませんね。

コーヒーにはカフェインという物質が含まれていて、それが脳に作用すると覚醒作用が現れると説明されることが多いのですが、そもそもなぜカフェインが覚醒作用を示すのでしょうか。今回は、コーヒーと眠気の関係について、詳しく解説します。

コーヒーとカフェインが発見された歴史

コーヒーは、コーヒー豆(「コーヒーノキ」という植物の種)を焙煎して挽いた粉末から、お湯または水で成分を抽出した飲み物です。

嗜好飲料としての歴史は、お酒やお茶に比べると遅く、13世紀ごろに一部の修道者が宗教的な秘薬として用いたのが始まりだそうです。

豆の焙煎と抽出によって楽しむ、今のような飲み物の形になったのは15世紀中ごろからで、中東・イスラムから世界中へと広まっていったようです。日本へは18世紀末にオランダ人が長崎の出島へ持ち込んだのが最初だといわれています。

コーヒー豆に含まれる主な薬効成分が「カフェイン」という物質であることは、多くの方がすでにご存じだと思いますが、このカフェインを世界で初めて単離することに成功したのは、ドイツの化学者フリードリープ・フェルディナンド・ルンゲ(Friedlieb Ferdinand Runge)で、
発見したのは1819年でした。

カフェインは、コーヒー(ドイツ語ではkaffee)に含まれていた塩基性の成分だったことから、当初は「Kaffeebase」と命名されましたが、後に英語で「caffeine」と呼ばれるようになりました。

コーヒーの覚醒効果は、カフェインが中枢神経系を興奮させるからだと説明されてきましたが、実はその詳しいメカニズムは、長らくよく分かっていませんでした。しかし、近年の睡眠に関する研究の進歩によって、カフェインの作用メカニズムも明らかにされたのです。

睡眠物質とは何か…眠気を生じさせる「アデノシン」

私たちはどうして眠るのか、覚醒と睡眠が規則正しく繰り返されるのはどういう仕組みによるのかなど、睡眠をコントロールする脳の仕組みを解き明かそうと、多くの学者が研究に取り組んできました。

そんななか、「覚醒状態が維持されると、時間経過とともに脳内に“睡眠物質”がどんどん蓄積していき、それが一定量を超えると眠気が生じる」という考えが提唱され、具体的な睡眠物質の探索が始まりました。

1909年に日本の石森国臣博士が、「長時間眠らせなかった犬の脳脊髄液」を別の犬の脳内に注入するという実験で睡眠が誘発されることを報告しましたが、具体的な物質を同定するには至りませんでした。

その後も、世界中で同じような実験が繰り返され、種々の動物から30種類以上の候補物質が報告されましたが、決定的な証拠が示せず、なかなか解明されませんでした。

そしてようやく1982年に、京都大学の早石修博士が「プロスタグランジンD2(PGD2)」という物質を発見し、覚醒したネズミ(ラット)の脳にPGD2を入れるとじっと動かなくなり、生理的な睡眠と同じ脳波が生じることを確認しました。つまり、覚醒状態の動物に特定の体内物質を与えることで、睡眠を誘発することに初めて成功したのです。

このことから、このPGD2が睡眠物質と考えられましたが、ひとつ不可解な点が残りました。PGD2は、脳の中で作られているわけではなく、脳を包んでいる外側の膜構造のひとつ「クモ膜」という場所で作られていたのです。その後、PGD2は、睡眠を引き起こすことができるけれど、真の睡眠物質ではないかもしれないと考えられるようになりました。

そんななか海外の研究グループによって、「アデノシン」という別の物質が睡眠物質の候補として提唱されました。また、クモ膜で産生されて脳脊髄液中を循環したPGD2が、前脳基底部のクモ膜に作用するとアデノシンの産生・分泌が促されて、眠気が生じることも明らかにされました。

まだ全容が解明されたとはいえませんが、現時点では「アデノシン」が真の睡眠物質と考えてよさそうです。
 

睡眠物質アデノシンに似ているカフェインの化学構造

アデノシンは、遺伝情報を担う核酸(DNA、RNA)の原料でもあり、また私たちの体のエネルギー源である「ATP」という物質が分解されてできる代謝産物でもあります。体の活動によって生じる廃棄物質のような存在と見ることもできます。
カフェイン,アデノシン,化学構造

カフェイン(左上)とアデノシン(右上)の化学構造は似ている!

アデノシンの化学構造は図の通りで、特にその中に含まれる六角形と五角形がつながった構造(「アデニン」に相当)の部分は、カフェインの化学構造によく似ています。

そこで、アデノシンとカフェインの関係を調べたところ、アデノシンが睡眠のスイッチを入れるために結合する標的分子である「アデノシン受容体」に対して、アデノシンと似た化学構造をしたカフェインが同じように結合できることが分かりました。

しかも、アデノシン受容体にカフェインが結合すると、アデノシンの邪魔をしてしまうので、睡眠のスイッチが入らなくなってしまうことが明らかになりました。

つまり、カフェインは、睡眠物質アデノシンの作用を妨げることによって、眠気覚ましの効果を発揮するのです。

コーヒーは、嗜好飲料として私たちに楽しみを与えてくれただけなく、睡眠をコントロールする脳の仕組みを解き明かすのにも貢献してくれたのです。

■関連記事
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます