自分には自分の道があるから
さすがにそれを見て「いい子」のナオコさんは反省した。むやみに母を傷つけたかったわけではない。「私は母に、思い通りの子にはなれないし、母が希望する道を歩むことはできないと思うと言いました。私としては誠意を尽くしたつもりだけど、その言葉がまた母にはショックだったみたい」
高校を中退しても、ナオコさんは勉強を続けていた。当時の大検(現在の高卒認定試験)に合格、同級生から遅れること1年で大学に進学した。そのころになるとほとんど母とは話もしなくなっていた。
「もちろん母は話しかけてくるんですよ。どこまで勉強が進んでいるのか、もっと家庭教師をつけたほうがいいのか、と。だけど私は家庭教師は拒否、独学で勉強をして大検に合格したんです。そうしたら母は『あなたはやっぱりデキる子なのよ』と騒いだ。放っておいてほしかったけど、また寝込まれたら困るから言い出せない。そしてとうとう、私の根源的なことをぶちまけるときが来ました」
高校生のころから、彼女は自分が女性を好きになることに気づいていた。女子校だからかと思っていたが、大学生になるとはっきりと恋愛対象が女性に限られた。自分の気持ちがはっきりしたことで、彼女はむしろ楽になったという。
「大学で好きになった女性がいて、告白したら『恋愛関係は無理だと思うけど、私は友だちとしてナオコが好きだよ』と言ってくれたんです。驚きもせず嫌悪感も見せず、淡々とそう言ってくれたのでありがたかった。誰を好きになってもいいじゃないと彼女に言われてホッとしました。
そんなとき母が『あとはいい就職先を見つけて、いい男を見つけて結婚して……』と世間話的に私の将来について言い出した。いつもならスルーするんですが、そのときは告白直後だったからかテンションが上がっていたので、『私は女性が好きなの。男性と結婚なんてしないから』とぽろっと言ってしまった。母は固まっていましたね。『誰が誰を好きになっても、あなたには関係ないでしょ』と追い打ちをかけて冷たく言ったら、案の定、母はキーッと叫んで倒れ込みました。そのまま家を出て、数日間、友人宅を泊まり歩きました」
父からの電話でようやく家に帰ったが、暗い表情でぼんやりしている母を見るとつらくなった。もういいでしょ、と家を飛び出して、親戚の家に住まわせてもらうことにした。大学は無事に卒業したが、母が望むのとはまったく違う仕事に就いている。
「あれから母とはほとんど音信不通です。父とは連絡をとっていますが、母は心身ともに今もあまりよろしくはないようです。かといって私に会いたがっているわけでもない。私に捨てられたとつぶやくこともあるらしいけど、私は私で、母の望まない人生を送っている後ろめたさみたいなものをずっと抱えている。抱えさせられたといってもいい」
ときどき恋愛をしながらも、今はパートナーがいない。仕事があって友人がいるから、なんとかやっていけるとナオコさんは笑った。それでも「母を裏切ったと思わされている痛み」は、今も彼女を苦しめている。自分の思い通りの生き方をしたとき、罪悪感を覚えざるを得ないのは、やはり母からの“毒”がまだ残っているからではないだろうか。