2022の「双11(独身の日)」セール
毎年、中国では11月11日の「独身の日」に、EC上で大規模セールを実施しています。セールは中国語で「双11(タブルイレブン)」と呼ばれ、今年も10月から「今年何を買うか」「私の双11買い物リスト」などがネット上で話題になりました。一方で不景気が今年のセール売上に影響するのではないかとの声もありました。各EC大手が公開した販売実績によると、今年2回のメインセール期間(10月31日20時から11月3日まで、11月10日20時から11月11日まで)の売上総額は5571億元になりました。2021年の5403億元とほぼ同じ水準ですが、変化が起きたのはライブコマースです。2022年11月1日0時から11月11日8時まで、中国の「DianTao(点淘)」、「KuaiShou(快手)」、「DouYin(抖音)」※などのライブコマースアプリでの売上総額は1612.44億元になり、2021年の737.56亿元の2倍に達しました。ライブコマースの影響力が非常に強かったといえます。 中国のライブコマース市場の好調を引っ張るのは販売をしているKOLたちです。ライブコマースの生放送配信はホームショッピングや通販番組と同様に、カリスマ性のある人気KOLが番組のMCのように商品を紹介した後、購買用リンクをユーザーに送ります。中国トップKOLの中では、美容系男性KOL李佳琦(Austin)が今年は非常に注目されています。10月24日20時からの「双11」前売りキャンペーン「超级美妆节(スーパービューティーフェスティバル)」というライブ配信で、彼を視聴したユーザー数は4.65億人に達し、配信してからわずか2時間後、GMV(流通取引総額)は100億元を突破しました。彼自身の2021年同期「双11」ライブ配信初日のGMVと比べても、2倍に増加しました。実は、このような売上急上昇の裏には、新しい広告手段があります。 ※DianTao(点淘)は、中国大手ECサイト淘宝(Taobao)のライブコマース専門アプリ。KuaiShou(快手)、中国のアクティブユーザーが4億人のショートビデオアプリで、抖音のライバル的存在。
DouYin(抖音)は、中国本土版のTictokアプリ。
ライブコマースの新手段
10月7日から、李佳琦さんが所属する会社は、「双11」ビックセール向けの貿易交渉リアリティ番组「すべての女の子のためのオファー2(所有女生的Offer2)」をBilibili(中国のニコニコ動画)で放送し始めました。番組内容は李佳琦チームが「双11」セール中提携予定の大手メーカー企業の販売チームと交渉会議をする様子です。「双11」のライブ配信中、何の商品を販売するか、ブランド側とどう価格交渉するか、セット商品のプレゼントに何を追加するかなど、一般消費者が知らないセール前のビジネス交渉プロセスをリアリティ番組という形で公開しています。 例えば、大手ブランド「シスレー(SISLEY)」との交渉。シスレーがオファーしたのはお得な乳液2個+ミニ美容液のセット。それに対し李佳琦チームは、価格はそのままでミニ美容液から普通容量のローションへの変更をリクエストしました。その方が消費者は「ローション+乳液」のトータルなスキンケア体験ができるという提案です。その代わりに、李佳琦さんは公式wechatアカウントなどのSNSでのバナー広告や、ライブ配信のプライムタイムなどを無料提供します。シスレーの営業リーダーLuciaさんは、現場で商品在庫の確認と計算をしながら、交渉を進めました。双方の説得力、コミュニケーション力、決断できないときにはボスと電話して指示を求めるシーンなど、リアルなビジネス交渉場面を披露しました。(※会話中一般公開できない数字や資料などはポストプロダクションの作業でカバーされました)。また、Bilibiliには弾幕機能もあるので、番組を見るとき、「乳液とローションのほうがお得」「交渉成功したら買う」「営業リーダーお姉さんの表情がかわいい」など、ほかのユーザーが書いたコメントも同時に現れます。他のユーザーと一緒に楽しんでいるような斬新な感覚で見られる番組です。 「すべての女の子のためのオファー2」は好評を得て、全8回の番組、10月7日にリリースしてから10月31日までの1か月足らずで、Bilibiliで合計再生回数2420万回、弾幕数38.5万を超えました。中国の口コミサイトDoubanで8.3という高い点数も獲得しました。そして番組で交渉が成功した商品は次々と李佳琦のライブ配信に登場し、例えば、エピソード1で交渉をした商品は、24日のライブ配信で2分間展示され、その後購買リンクが公開されました。紹介・展示の時間がこんなに短くても、リンクを公開されるとすぐに完売し、たくさんの「ゲットできなかった、残念」といったコメントがありました。番組を見た一部の消費者たちは、商品の情報を事前に把握していたので、本番のライブ販売では躊躇なく購入したのです。昨年比2倍の売上はこの番組とライブ配信の組み合わせによるものと考えられます。
「電子ザーサイ」の魅力
この番組と同時に話題になるのは「電子ザーサイ」です。「すべての女の子のためのオファー2」エピソード1のコメント欄に寄せられた「来た、私の電子ザーサイ!!!(来咯,我的电子榨菜!!!)」という投稿は6100回以上の「いいね」数を獲得しました。ザーサイ(榨菜)は中国の代表的な漬物の一つで、いつもテーブルの上にある定番のおかず。近年、食事の時間にはまずテーブルの上にタブレットPCやスマホをセッティングし、それから食べ始めるというのが、多くの若者の習慣となっており、彼らが視聴する動画が定番のおかずのような存在である、という意味です。「電子ザーサイ」はバラエティ番組、スポーツの試合、ゲーム配信など、食事をしながら気軽に楽しめるエンターテインメントを指します。
「すべての女の子のためのオファー2」は番組そのものが広告です。たった10秒の広告さえ嫌う消費者たちが、なぜ、最初から最後まで広告である番組を積極的に見るのでしょうか。 数多くの弾幕とコメントを読むと、その理由が分かります。
まず、番組内容がショッピングと深く関連していること。交渉中のKOLは仲介者のような役割で、メーカーの価格を引き下げ、お得な価格を引き出します。言うまでもなく消費者にとって価格は非常に重要です。さらに番組中、李佳琦は消費者のニーズをよく理解しているので、消費者の立場でどんどん提案をします。例えば「クッションファンデーションを買うガールズにとってパフの清潔感が重要なので、値段が下げられないならパフをもう1個プレゼントとして付けてもいい?」「5990元の冷蔵庫を買う消費者には、○○ネットスーパーのギフト券をプレゼントしないとお得感がなさそう」など。こういう発言は、特に女性消費者の心理を理解して代弁するので共感を得やすいのです。 次に、内容がドラマティックで興味深いこと。元々化粧品販売員でそれぞれの商品への適切なアプローチとわかりやすい説明が上手な李佳琦は、各大手メーカーの営業チームに交渉するときに、良いものは良い、悪いものは悪いという辛口トークをしました。時々鋭く問題の本質を指摘することで、視聴者に刺激を与え、商戦ドラマのような展開になります。見れば見るほどこれが広告であることを忘れて、交渉中の両者の「どっちが勝つか?」というバトルに引き込まれていくのです。
また、弾幕とコメントは口コミ効果があり、使ったことある視聴者たちが、自分の感想を「この商品とってもしっとり」「この価額で買うより、○○ブランドのほうがいい」などとコメントするので、役に立つ情報も同時にゲットできるのです。
ECと動画のコラボ
好きなドラマなどをすぐに親友に紹介するのと同じで、「すべての女の子のためのオファー2」番組は、速いスピードで中国の各SNSプラットフォームで拡散されました。Weibo(中国のtwitter)やRed(中国のInstagram)には、セール商品に関する口コミはもちろん、大手企業のセールスリーダーたちの交渉スキル、職場の女性パワー、会社員のファッションなど日常生活と関連する投稿もたくさん現れました。ネット上での番組をめぐるディスカッションは、番組の影響力をさらに拡大させ、その結果、より多くの視聴者を購入客に転換し続けています。ライブ中に商品が即完売するのはその証拠です。このようなリアリティ番組を通して、セールに参加した企業は自社理念とメイン製品を宣伝し、消費者は好きな商品をお得な価格で得て、MCの李佳琦さんは、この番組をきっかけに、スマートで面白いビジネス交渉エースの新キャラクターもゲットしました。Win-win-winを達成することだけでなく、消費者からの李佳琦に対する信頼感はさらに深くなり、彼と所属会社の実績にも好影響が出ています。 番組MCとしても魅力的な李佳琦のようなライブコマースのKOLは、まだ少数でしょう。今後ECサイトやメーカーなどは、ユーチューバーや動画制作メディアなどと提携をして、広告っぽくない、面白い「電子ザーサイ」動画を制作することで、話題になる可能性もあるでしょう。ブランドや商品の知名度が上がると同時に、視聴者たちの反応から販売に向いている人材も発見できるかもしれません。このような「頼りにできる」キャラクターは、少なくとも中国のライブコマース市場で重要な役割です。こういうバラエティ番組で個人ブランドを創出し、個人ブランドから商品販売を加速し、視聴者にファンになってもらうやり方は、越境EC企業の新たな切り口として注目されるべきではないでしょうか。
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執筆者:王 黛青(All About Japan 簡体字 編集リーダー)
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