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試しに「増税」と言ってみる? 世論をうかがう「観測気球」にネットで反発するのも無駄ではない理由

「観測気球」とは?「観測記事」との違いは? 未定のことを決定事項のように報じる点で共通する2つ。具体的にどういうものなのか、中にはガセネタも存在するこれらの情報にどのように接すればいいのか、政府への声の上げ方などを解説します。

松井 政就

執筆者:松井 政就

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「観測気球」「観測記事」とは? 辞任ドミノが続くときは、不確かな報道にも要注意

まだ決定していない政策方針などが“関係者”から意図的にリークされ、社会を騒がせることがあります。これは「観測気球」と呼ばれます。類似のものに「観測記事」と呼ばれるものもあります。どちらも未定のことを決定事項のように報じる点で共通しています。今回はそのような情報にどのように接すればよいか、解説します。
 

観測記事とは? アップルの新製品予想は代表的な「観測記事」

まず「観測記事」とは、企業の業績予想のように、公開されている情報をもとに全体を予測する記事を指します。関係者からリークされた情報がもとになっている場合もあります。

実はみなさんも、毎年のように、ある有名な観測記事を目にしています。アップル社の新製品に関する記事です。発表のかなり前から「次はこんな製品が出る」「変更点はここ」という具体的で詳細な記事が出回ります。

書いているのはアメリカの著名ITジャーナリストで、それが書き手の願望や憶測でないことは、内容が毎回、アップルの発表とほぼ一致していることからも明らかです。彼らの伝える情報が、事実を知る何らかの“関係者”からもたらされていることは疑いようがありません。
 

観測記事の目的は「プロモーション」と「ビジネスの最適化」

ではなぜ観測記事を出す必要があるのでしょうか。それには一般論として考えられる主な2つの理由と、“社会的ショックに対する緩衝材”としての目的があります。

(1)プロモーション
ファンの期待を膨らませ、注目度を高めることで、ビジネスの成功に結びつける目的です。

(2)ビジネスの最適化
商品開発には企画台数(計画台数)があるので、反響の違いで製造台数を簡単に変えることはありませんが、近年は共通化されたパーツも多いため、評判の芳しくないモデルから人気モデルに回すことは可能ですし、売れそうなモデルにプロモーションの資源を集中させることもできます。

(3)「ショックアブソーバー」としての狙いも
さらなる目的が「ショックアブソーバー」としての役割です。ショックアブソーバーとは、自動車などの振動や衝撃を吸収する装置の名称ですが、現代においては、社会に大きな衝撃を与えるのを防ぐ「緩衝材」も意味しています。

たとえば企業の業績が悪かった場合、いきなり発表して株主に「ショック売り」をさせないよう、記者や評論家の口からあらかじめリークさせ、いわばワクチンのように免疫をつけさせます。株式のニュースで出てくる「織り込み済み」とは、そのように、あるニュースによる株価変動がすでに終わったという状態を指しています。
 

観測気球とは? 社会の反応をうかがう検討段階の情報

では次に、「観測気球」とは何でしょうか。

「観測気球」とは、もとは気象状況を調査するため上空に上げる気球で、それが後に軍事目的に転用され、敵情視察等に使用されました。それと同じ意味合いで、世論の反応を見ることを目的に、まだ検討段階の政策をリークすることを「観測気球」と呼ぶようになりました。

観測気球の目的は、世論の反応を見て、政策や法案を撤回または修正できるようにすることです。たとえば、「増税」は国民からの反発が必至。落としどころを探るために、たびたび観測気球が上げられます。

国民栄誉賞も一例です。メジャーリーグでも大活躍したイチロー選手に国民栄誉賞を授与するという観測気球が4度も上げられましたが、支持率アップという政権の魂胆を国民に見透かされた上、本人からもあっさり辞退され、不発に終わりました。
 

政権は世論をどこで見ている? ネットで意見を言うのも無駄ではないワケ

観測気球を出すことで、政府の方針と国民の意見との落としどころを探っているならば、政府は「国民の反応」を何で確認しているのでしょうか。

情報収集の手法は政権の機密事項のため、特定することは困難ですが、媒体に関して主に2つと、国民の多くが関与できそうな部分で1つ、チェックされているとみられます。

(1)報道各社の世論調査
マスメディアは保守から革新まで幅広くあり、読者や視聴者にも違いがあります。国民のどの層がどんな反応を示したかの参考になります。

(2)メディアでの扱われ方
テレビなどの報道でどのように取り扱われているか、またオピニオンリーダーにどう認識されているかも参考にします。

(3)ネット上の反応
過去には、ネット上に投稿された「保育園落ちた日本死ね」という言葉が大きな話題となり、国会でも取り上げられ、待機児童問題の火付け役となったこともありました。また、安倍政権が一度配布した“アベノマスク”も、予防効果に比べてコストがかかりすぎると、ネット上で批判が続出したことがきっかけで、さらなる配布が取りやめになりました。

このように、ネット上での反響で政策が修正されることも実際に起きています。一人ひとりが声を上げることは決して無駄ではないのです。選挙で投票するだけでなく、日々、行政の動きに注目し、自分なりの意見を持って声を上げることも、政治参加につながるといえます。
 

辞任ドミノが続く今、特にガセネタに要注意。確かな情報の見分け方

ところで、観測気球では、発言者の名前が曖昧にされることがあります。日本の報道の伝統芸のようなものですが、実は曖昧にされた「主語」で誰が言ったか分かる場合があります。

たとえば「政府高官」と聞くと、政府で高い地位にある国会議員を一般的に指すと思われそうですが、これは「官房長官」を指す裏用語、つまり隠語です。他にも「政府筋」「政権幹部」「首相周辺」など、発言者をボカす表現が用いられますが、報道姿勢として、それが良いかどうかは考えものです。政治家は居酒屋で趣味の話をしているのではなく、職務の話を記者に向かってしているわけですから、すべての発言に責任を負うべきで、名前を隠すことは本来望ましくないからです。

なお、AP通信など外国メディアでは、不確かな情報が作られないよう、情報源を匿名にする際のルールが設けられていますが、日本に厳格な決まりはありません。

政治家には野心があり、同じ与党内でも、対立する派閥が権力を奪うチャンスをうかがっています。よって受け手が注意すべきはガセネタ(偽情報、不確かな情報)です。政権への打撃を狙って怪しい情報が流される恐れがあるからです。辞任ドミノが続くなど、政権が苦境に陥っているときはそのリスクが高くなります。

報道を受け止める際、果たして事実なのか、今であれば“岸田下ろし”を目的とした不確かな情報ではないのか、私たち自身がしっかりと見極めることが大切です。

確かな情報は、会議の名称や発言者名が明確に出されますので、見分ける上での参考にしていただきたいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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