人間関係

突然の失踪から10年、行方不明の妻が戻ってきた。「空白の10年」について質問すると…

警察庁が公表した「令和3年における行方不明者の状況」によれば、年間8万人もの人が行方不明になっているのだという。今回は、何の前触れもなく失踪した妻が10年後にふらっと戻ってきたという、何とも不思議な話だ。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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この夏、警察庁が「令和3年における行方不明者の状況」を公表した。それによると、警察に行方不明者届が出されたのは、2021年は前年比2196人増の7万9218人。この数字は1956年に統計をとるようになってから、前年2020年に次ぐ少ない数字だそう。とはいえ、年間8万人もの人が行方不明になるとは……。
 

妻が突然いなくなった

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12年前のことだった。2歳の子を残して妻が突然いなくなったのは。そう語るのはマコトさん(44歳)だ。同い年のエミさんと結婚したのは30歳のとき。妊娠がわかったために婚姻届を出したのだが、そうでなくても結婚するつもりだったと彼は言う。

「4年もつきあっていたし、僕は彼女に何の不満もなかった。実家住まいの彼女は週の半分くらい僕の部屋に泊まっていたんです。お互いの実家にも何度も行ったことがあります。だから妊娠がわかって、かえってきっかけができたという感じで結婚しました」

娘が生まれてからエミさんは体調を崩し、会社を休職。1年近くたっても調子が戻らないため退職した。

「彼女は『私、あなたのお荷物になっちゃったね』とよく言ってました。夫婦なんだからどちらかが具合が悪ければそういうこともある。娘がもう少し大きくなったら考えればいいよと僕は言いました。うちは当時から副業OKだったので、土日は知人が経営する喫茶店でアルバイトをしていました。僕、普通のサラリーマンなんですが、調理師免許をもっているんですよ。実家が食堂だったので取得しました。結局、実家は今も父がやっていて僕は継がないつもりですが」

エミさんと娘のために、夜は翌日の食事の仕込みをしておくことも多かった。エミさんが元気になってくれればそれでいいと思っていた。

「通院を続けていたので、だんだんよくなっているように見えました。娘のことは本当にかわいがっていたけど、ときどき、『この子の将来が不安』と涙ぐむこともあった。考えすぎだよ、この子にはこの子の人生があるんだから。自分で切り開いていけるたくましさを身につけさせたほうがいいと僕は言っていた。エミは明るくて元気な女性だったはずなのに……。今、目の前にあるものを大事にしていこうと常々、伝えていたんですが、それがかえってプレッシャーになったのかもしれない」

昨日は笑顔でいたのに今日は塞ぎ込む。それでも、少しずつ笑顔が増えればいい。マコトさんは気長に待つと決めていた。それなのに、エミさんはある日突然、いなくなったのだ。

その日は喫茶店のバイトが休みの土曜日で、エミさんは美容院に行くと家を出た。それきりだった。
 

10年後、ふらっと戻ってきた妻

警察に失踪届を出した。双方の親も親戚もみんなで探した。彼女の友人たちも協力してくれた。だがいっこうに行方はわからなかった。

「それ以来、僕の母が同居して娘のめんどうを見てくれるようになりました。会社に事情を話して、僕は朝早くから出勤して、なるべく早く帰るようにしてもらった。食事はほとんど僕が作りました。娘には食事の重要さを伝えたかった。おいしく調理して、一緒に楽しく食べることを。娘には『ママは病気でおうちにいられない』と伝えていました。いつか帰ってきてくれるんじゃないかとも思っていた」

必死に子どもと向き合った日々。だから小学校の入学式で、彼は号泣したそうだ。苦労もあったが、無事に育ってくれてよかったと本気で感じたという。

その後、マコトさんは本気で結婚を考えるようになった。このまま立ち止まっているより、前進したい、娘にも母親のぬくもりを教えてやりたいと思ったのだ。

「娘が10歳になるころ知り合った女性が、すべてを知った上でつきあってくれました。たまに家にも来るようになって、娘も少しずつ慣れてきた。彼女は穏やかな女性で、娘の言うことをまるごと受け止めてくれる。だから娘も心を開いたんでしょう。そろそろ結婚を申し込もうと思っていたとき、妻がいきなり戻ってきたんです」

結婚したとき購入した中古マンションに彼は住み続けていた。そこに、エミさんが戻ってきたのだ。まるで昨日の続きのように。

「母と娘と3人で夕食をとっていたらチャイムが鳴ったんです。モニターを見たけど誰だかわからなかった。玄関を開けたら、エミが立っていたんです。痩せて小さくなって」

絶句していると母が「どうしたの」と出てきた。「エミさん」と母も絶句した。とにかく娘がいるから、驚かせないでほしいと彼はエミさんに言った。彼女は頷き、マコトさんに続いてリビングに入ってきた。

「娘には『驚かせるかもしれないけど、ママが帰ってきたよ』と静かに言いました。娘は僕の後ろにいたエミを見て、『ママ!』と勢いよく立ち上がって抱きついたんです。エミは泣いていました。『病気、よくなったの?』と聞かれて、エミはただひたすら頷き、娘を抱きしめていました」

その日はゆっくりお風呂に入って眠ったエミさん。マコトさんはエミさんの寝顔を見ながら、どうしたらいいのだろうと考え込んだ。恋人への気持ちと、エミさんへの気持ちが葛藤した。

「でも娘はエミを覚えていた。実際、覚えているかどうかはわかりませんが、一目見てママだとわかった。そこへ僕が再婚するわけにはいかない。恋人にはちゃんと打ち明けました。彼女は泣きながら、『でも、よかったね』と言ってくれた」

突然出て行った理由も、突然帰ってきた理由も、どんなに聞いてもエミさんは言わないという。「もう出ていかない?」と尋ねたときだけ、「ごめんなさい。ずっといる」と答えた。娘とはさまざまな話をしたようだ。

「帰ってきて数か月で、エミは少し太って元気そうになりました。母は気を遣ってくれて、近所にマンションを借りて住んでいます」

エミさんが帰ってきて2年。ぎくしゃくしながらも「家族」は継続されている。いつかエミさんがすべてを話してくれる日がくるのだろうか。

「先のことを考えてもしかたがない。今は彼女のいなかった10年間をどうやって埋めるのか。それだけを考えようと思ってやってきました。まだまだ不安はあるけど、周りの目も含めて気にしないようにやっていくしかない」

10年という長い年月。エミさんはどこで何をしていたのだろう。それを聞き出せないまま、日常生活を送るしかないマコトさんの心は大丈夫なのだろうか。
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