2022年「中国のアウトドア元年」最新事情

若者層に人気の「山系生活（アウトドアライフ）」

2022年の年明け、中国のインスタグラム「Red」は、新聞『中国青年報』『新京報』、雑誌『中国新聞週刊』とともに、「2022 年十大生活趨勢（2022生活トレンドトップ10）」レポートをリリースしました。レポートはRedアプリユーザー（※）の投稿数、投稿内容、シェア数、保存数などのビックデータに基づいて解析し、日常生活に関するファッション、スポーツ、料理、旅行、消費、SDGsなどのトレンドをまとめて、ある程度中国の若者層が注目していることを反映しました。
 
※2022年3月時点、Redアプリのアクティブユーザー数は約２億、そのうち72％は1990～1999年間に生まれた「90後」 
 
トップ10の中、「山系生活」というキーワードが入りました。それは都市部から離れたアウトドア風のライフスタイルを指します。レポートによると、2021年、「山系生活」に関連する「キャンプ」、「スタンドアップパドルボード（SUP）」、「フリスビー」などのRed投稿は前年度より5倍、6倍に増加して、アウトドアに関連する内容が人気になっています。
 
なぜアウトドアのファンが急増したのか？その原因は、中国の厳しい「ゼロコロナ」政策に関係があると考えられます。たとえ旅行先であってもいつどこで隔離されるか分からないリスクがあるので、オタクようになるべく出かけない自宅生活は人口密度が高い都市部の人たちにとっては限られた選択肢です。しかし、長期間狭い空間で生活すると、大自然の広さと風景を求めて出かけたくなる人が増え、その結果、登山、サイクリング、ハイキングなどのアウトドア系の活動が人気になります。

 

「山系」ファッション

キャンプ、登山などをするときに、アウトドアシーンにマッチする服装を用意するのは当然ですが、キレイに化粧をして、好きな洋服を着て、テント、専用道具、専用車送迎等が全て整っているグランピングスポットで週末を過ごしたい一部の中国の若者たちにとって、アウトドア系の機能性重視の服装は、過ごしやすい春夏なら不要かもしれません。しかし、寒さの到来とともに、機能重視のアウトドアウェアの必要性を感じる人が増えているそうです。
 
秋になると、中国各SNSプラットフォームで「山系女孩」（アウトドアガール）、「山系穿搭」（アウトドアファッション）に関する投稿が大量に現れて、「山系」という単語もホットワードになります。「山系」の代表的な商品は長靴、ゴアテックスハット、アウトドアジャケットとアウトドアベスト（ポケットデザイン）、メインの色はアース系のベージュやカーキです。Redで「山系」というキーワードで検索すると、たくさんの類似投稿から「山系」ファッションの雰囲気が掴めるはず。
 
中国の「山系」は、アウトドア系、塩系、森系、ワーク系などの雰囲気と類似しますが、微妙な違いがあります。山登り、ハイキングなどをすると、服装の機能性や実用性が重要ですが、「山系」ファンにとって、ファッション（きれいな写真が撮れる）属性も重要な指標です。そのため、服装にはある程度の防風・防水機能を求め、デザイン、または「精致」感（※）がより重視されています。
 
また、「山系」を着るシーンは、本物の名山や渓流はもちろん、都市部の公園やオフィスにまで広がります。特に普段の都市生活が忙しい若い社会人にとって、重要なのは野外で世界を探索することではなく、自分のアウトドア志向を示すことです。
要するに、「山系」とは、衣服としての快適さと、見た目のカッコよさを組み合わせた「儀式感（※）」的なライフスタイルです。 
 
※「精致」とは「状態や程度が優れているさま」を指し、物質的な「贅沢」とも言えるでしょう。
※「儀式感」とは日々の暮らしの中の特別な時間を大切にし、心の奥にある感情を表現する方法を指す。例えば、琴を弾く前には沐浴して香を焚き、雰囲気を出さなければいけないという行為。

 

「山系」ビジネス

 
2022年10月末時点でのRedのデータによると、「山系生活」に関する投稿の閲覧数は707万を超え、「山系ファッション」に関する投稿の閲覧数は1,211万を超えました。関連投稿には、個人の山登りなどの写真投稿はもちろん、「山系」関連商品の紹介、アウトドア系ブランドの解説、山系ファッションのコーデ術、屋外写真加工の技など、さまざまな情報があります。
 
Redの閲覧数と同時に増加しているのは、関連ブランドの売上高です。2022年8月、エルメスの定価16.5万元（約334万円）の自転車「Odyssee Terre」は販売開始からすぐに完売し、予想を超える完売スピードでニュースにもなりました。しかし、もともと値段がそこまで高くない自転車でも、こんなに売れたわけではありません。2012年から中国市場に進出したイギリス自転車ブランド「Brompton」は、何年もの間来店者がいなかったのに、今年は何回も完売し、現在は注文してから1～2ヶ月待つのは当たり前になっています。また、いつの間にかRedでハッシュタグ「Brompton」に関する閲覧数は2,327万を超えました。
 
サイクリングは「山系」の一部分でしかなく、より注目されているのはどんな「山系」シーンでも必要なファッションでしょう。そんななか、「山系はもともと日本のYama styleから来たライフスタイル」という言い方がネット上で流れており、日本の各ブランドの人気が急上昇しています。例えば、and wander、White Mountaineering、nanamica、Nanga、Wild Things、Alk Phenixなどは、「山系」ファッションの代表的なブランドとして各SNS上で紹介され、「日本製」や「アジア人にフィットする」などもよく見る推薦理由です。しかし、少し残念なのは、ほとんどの日系ファッションブランドは中国に進出していないため、中国にオフィシャルサイトや店舗がありません。「山系」ファンたちはほとんどバイヤー経由で購入します。日本のブランドが中国に進出するタイミングは今だと考えられます。 
 
本格的なアウトドアでも、都市風の「Urban Outdoor」でも、「山系」の範疇です。つまり、「山系」の関連商品は非常に幅広いのです。「山系」というホットワードを、新製品開発や、旅行サービスの提供などの場面で活用すると、新しいビジネスチャンスの可能性も十分あります。
 
間もなく中国ネットショッピングの大バーゲン——「双11」セールが始まります。
「山系」関連商品の売り上げもきっと期待できるはず。
 
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執筆者：王 黛青（All About Japan 簡体字 編集リーダー） 
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