仕事があって家庭もある、が……
「正社員で、とりあえずは社内でも安泰。家庭もあって子どももいる。それでじゅうぶん幸せだと思わなければいけない。そんな風潮があるような気がします。でも自分が本当に幸せなのかと考えると、納得できないんですよね」そう語るユウタさん(39歳)は、結婚8年、6歳の子がいる。本当はもう一人ほしかったのだが、同い年の妻に拒否された。経済的にも時間的にも一人でじゅうぶんだと言うのだ。
「妻に言わせれば、『共働きをしないと子ども一人大学まで出してやれないでしょ』と。だから二人目は無理だそうです。そう言われたら引っ込むしかありません」
仕事だって、今のところは安心しているだけで、会社がどうなるかはわからない。この先も安泰とは限らないのだ。
「仕事があって家庭があるだけでは幸福とは言えない。実際、今も独身の友人は起業して、大変だけど家庭がないから逆に思い切りできると楽しそうにやっている。離婚した友人も『子どもには自由に会えるから、むしろよかった』と言っている。女性の多様な生き方は称賛されるのに、男は家庭を持続させて一人前、離婚するのは男が悪いと思われがち。なんだか理不尽だなと思いますよ」
男は「何もかも守り抜くもの」で、女は「開拓していくもの」が認められる傾向は確かにあるかもしれない。そんな風潮が、男性を生きづらくしているのだろうか。
「稼ぐ男」へのプレッシャー
未婚の男性が増えたのは、経済的な問題が大きい。結婚したら、自分が自由にお金を使えなくなる、それ以上に妻子を養うだけの経済力がないと嘆く男性は多い。「経済的なワンオペは無理。だから共働きをせざるを得ない。学生時代の先輩もそう言っています。でも共働きだと家事育児も当然、負担しなければいけない。仕事が忙しくなると家事育児の負担を減らしてほしいと妻に頼むけど『私だって忙しい』と言われてしまう。この状態がいつまで続くのかと思うと、結婚しなければよかったと思うと。それを聞いていると、ちゃんとした会社に勤めている先輩でさえそうなんだから、いまだに正社員になれない僕は結婚なんてする資格がないと思ってしまいます」
ケンジさん(38歳)はため息をついた。大学卒業後に正社員として入社したが、4年後に人間関係でつまずき退職。精神的な不調もあったがなんとか克服し、それ以来アルバイト生活を続けてきた。昔と違い、アルバイトでも暮らしていける時代ではなくなっている。
「何度かメンタル不調が戻ってきたりして、病院にかかりながらなんとか生活してる。生きていくってつらいとしか思えない。ごくまれに学生時代の友人に会うけど、彼も僕と似たり寄ったりの環境。あの頃仲良くしていた別の友人が、今や会社を作って相当な資産家になっているらしくて、二人でいつもあいつはすごいなと話しています」
「すごくなった」友人には、それなりの努力があったはず。もちろん運もよかったかもしれない。ケンジさんは、「男は人たらしで目上の人に好かれなければ出世もできない」と言う。
「逆に言えば、男社会ってそういうコネクションでできているということですよ。友人がそうだとは言わないけど、やっぱり上司や力のある人におもねる才能がないとのし上がれないんだと思う」
彼自身もそんな状態を数々見てきたという。それもあり得る話だと納得させられる。
「結局、昔ながらの男社会は男も生きづらいということですよね。精神的な男のつながりを楽しんでいるような企業では、僕のように浮いてしまう男たちは職を得ることもできない」
「かといって特別な才能があるわけでもないし」と、彼はまたため息をつく。
生きづらいと思っている男性たちは多いのかもしれない。生きづらいと言えない男たちはもっと多いかもしれない。もはや、個人で解決できる問題ではなくなっている可能性が高い。少子化云々という前に、今を生きる男女が生き生きできないことのほうがより問題なのではないだろうか。