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リーダー“不在”で効率化? 世界が注目「ティール組織」、オランダの成功事例に見る次世代組織の実態

次世代型組織として近年各国で注目されている「ティール組織」。その成功例として世界的に知られるオランダ最大の訪問看護組織『ビュートゾルフ』の本部を介護ジャーナリストの小山朝子が取材しました。

小山 朝子

執筆者:小山 朝子

介護福祉士ガイド

次世代の組織のあり方として近年各国で注目されている「ティール組織」。日本においてもティール組織の考え方を取り入れて成果を出している企業もあるようです。
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管理者がいない組織は成立する?

「ティール組織」の成功例として世界的に知られるオランダ最大の訪問看護組織『ビュートゾルフ』の本部に伺い、代表のタイス・デ・ブロック氏(以下、タイス氏)にインタビューを行いました。
 

ティール組織とはなにか?

そもそも「ティール組織」とはどのような組織なのか、訪問看護組織『ビュートゾルフ』のタイス氏をたずねて取材しました。

「ティール組織とは、マッキンゼーで10年以上にわたり組織変革プロジェクトに携わったキャリアをもつフレデリック・ラルー氏による著書『Reinventing Organizations』(邦題:『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』)で紹介されて認知度が高まった考え方です。組織の形態はいくつかに分類(【図1】参照)されますが、例えば『Red(レッド)組織』は強力な上下関係で構成員を威圧的にコントロールします。『Amber(アンバー)組織』はピラミッド構造のトップダウン型です」(タイス氏)
【図1】ティール組織(All About 編集部作成)

【図1】「ティール組織」、5つの組織タイプ(All About 編集部作成)

具体的にはレッド組織はギャングやマフィア、アンバー組織は軍隊などが該当します。

「一方、『Teal(ティール)組織』は、従来の組織になかった次世代の形態で経営陣や管理職はいません。社員同士がフラットな関係で、お互いに学びあって成長する組織のことです」(タイス氏)

フレデリック・ラルー氏はティール組織を「生命体」と例えており、体の組織のようにメンバーそれぞれが主体性をもって行動することが特徴です。「ティール」とは緑がかった青色を指します。

ラルー氏によると、ティール組織の共通点は3点あり、1点目は階層に頼ることのない「自主経営(セルフマネジメント)」であること、2点目は組織や社会と一体感をもてる「全体性」があること、3点目は組織がなんのために存在しているのかを問う「存在目的」を常に追求し続ける姿勢をもっていることです。
 

管理者ファーストをやめたら時間もコストも大幅に削減

では、なぜ今ティール組織が注目されているのでしょうか。

筆者が感じる1点目は、「時代の進化とともに多様な働き方が受け入れられるようになってきたから」、2点目は「変化のスピードが速い現在において自立性や効率性が高い働き方が注目されてきたから」という点です。

今回筆者が取材した「ビュートゾルフ」を例に上記2点について考えてみましょう。

「ビュートゾルフが創立したのは2006年ですが、それ以前は看護師を幾層もの上層部が管理し、看護師は言われたことを遂行するのみでした。この業務のあり方に不満を募らせ離職する看護師も多くいました。そこで管理者ファーストではなく、患者ファーストを掲げ、看護師で主婦でもある女性たちが自分たちの力で組織を変えていこうとしたのです」(タイス氏) 

タイス氏の父親であるヨス・デ・ブロック氏が「ビュートゾルフ」を創立した2006年当時は4名でスタートしましたが、現在では従業員数は約1万5000人、患者数は10万人以上にまで拡大。現在ではオランダで最大の訪問看護組織に成長しました。

「従来は120時間費やしていた業務を80時間以下に短縮でき、労働時間の削減とともにコスト削減にも繋がりました。さらに、これまでは管理者が現場の看護師に指示を出すために時間を要し、指示が出てから動いていましたが、現在は患者を毎日見ている看護師に決定権があるので効率的かつフレキシブルに働けるようになりました」(タイス氏)
 

多様性によって、よりよいサービスが提供できる

ビュートゾルフでは創立以来、チーム制とICTの活用を進めてきました。1チームは最大12名で現場でのケアのほか、コスト管理も行っています。各チームのメンバーの能力差によって問題が生じることはないのでしょうか。

「チームのメンバーのなかには清掃や料理を中心に行う人もいれば専門的な訓練を受けた人もいますが上下関係はありません。看護師が一人ひとり違う個性をもっているのと同様、患者も一人ひとり違うのです。専門的な教育を受けた看護師が気づかなかったこと、例えば「認知症が疑われる人の家の棚に、卵パックが10個も入っていた」といったことを、別の、専門的な教育は受けていないが患者の日常的なケアをしている看護師が気づくこともあるわけです。重要なのはチームメンバー同士の信頼関係です」(タイス氏)

では日本においてティール組織のような考え方を取り入れることはできるのでしょうか。

「日本の介護保険制度における訪問看護のサービスの場合はケアマネジャーが介護サービス計画(ケアプラン)を作成し、その指示に沿って訪問看護師がサービスを提供するしくみになっています。訪問看護を行う看護師が自由にプランを変えられるわけではないので難しい側面はあるかもしれません。現場の看護師に決定権があれば『先週はこういうケアをしたけれど、今週は変えよう』といった柔軟なサービスを提供できます」(タイス氏)

医療の必要性がある重い状態の家族を在宅で介護してきた筆者はタイス氏のこの課題提起を身をもって体験しています。在宅介護をしていた当時、ケアマネジャーは毎月1回、ケアプランの確認で自宅を訪れましたが、サービス提供時に来訪することはあまりなく、「一度サービスが提供されている現場を見学しに来てくれませんか」と頼んだことさえありました。介護サービスは「現場」で提供されるもので、机上で行われるものではありません。
 

日本にもティール組織が馴染みやすい土壌がある

一方、タイス氏は「日本にもティール組織が馴染みやすい土壌がある」と語ります。

「私は日本に滞在していたことがありますが、近隣住民同士が協力して雪かきを行っていた地域がありました。こうした支え合いの心はティール組織と通ずる点だと思います」(タイス氏)

ティール組織は、「社員ひとり一人の当事者意識が低いと維持するのが難しい」、「社員間での密なコミュニケーションが求められ人数が多い大企業には向いていない」という指摘もあります。

組織全体を変えることは難しいかもしれませんが、ティール組織の考え方を社内改革のヒントにすることはできそうです。
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「ビュートゾルフ」を創立したヨス・デ・ブロックさん(右) 、インタビューに応じてくれた息子のタイス・デ・ブロック
さん(左)

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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