人間関係

近所付き合いには「暗黙のルール」がある…お騒がせな隣人が無邪気にさらしたママ友宅の秘密

人は誰でも、その時々、その場に応じた「仮面」をつけて生きている。そうすることで、人間関係はたとえ表面上であっても秩序を保つことができるのだ。「お騒がせ」なご近所さんの参入で思わぬトラブルが続出し始めた、ある新興住宅地のエピソードを紹介しよう。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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人は誰も、その場に応じた仮面をつけて生きている。それが過剰になればつらい思いをするだろうが、自らTPOをわきまえて振る舞っている人がほとんどでないだろうか。だから社会はうまく回っている。
 

なんでも「さらけ出したがる」ご近所さん

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近所に越してきたママ友に、ここ半年ほど引っかき回されて困っているとミナミさん(36歳)は眉をしかめた。

「いくつか新しいマンションができた新興住宅地で、うちも2年前に越してきたばかり。みんな同じような環境だから、打ち解けるのも早かった。子どもたちの年齢も近いし」

ミナミさんには4歳と1歳の子がいる。保育園に預けて自転車で行けるファミレスでパートとして働いている。周りも似たようなママ友が多い。

「いちばん仲良くしているユリコは2歳年上で、子どもの年齢がまったく同じ。明るくておもしろくて、でも、もともと国立大学を出てバリキャリだった人。だから周りをやんわりとまとめてくれる。いつも頼りにしているんです」

ユリコさんを中心に、5、6人のママ友と仲良くしているというミナミさん。特に問題もなく、「常識的な仲間たち」だと確信していた。

そこに半年前、越してきたのがルミさん(37歳)だ。彼女は専業主婦で、ひとり娘が8歳だという。

「最初はよかったんですけどね。『この地域のことも何もわからないから、よろしくお願いします』って謙虚だった。でも親しくなっていくと、だんだんルミさんに身勝手な発言が増えていったんです」

たとえば、別の専業主婦の家にやたらと子どもを預ける。夕飯時にも迎えに来ないから、しかたなくその家ではルミさんの娘にも食事をさせる。すると娘は「おいしい。こんなおいしいごはんを食べたことがない」と言うそうだ。

「ネグレクトじゃないのという噂もありました。そこであるとき、ユリコと私で、『たまに子どもを預けたり預けられたりするのはいいと思うけど、迷惑になることもあるので』と注意したんです。仕事をしているわけでもないのに、そんなに頻繁に預けてばかりいるのはおかしいでしょ、とも。そうしたらルミさん、『私、恋愛しているから』って。は?とユリコと私は目を剥きました」

主婦が恋しちゃいけないって法律はないでしょ、とルミさんは笑っていたという。

「あっけらかんとした態度にびっくりしました。もちろん、不倫なんていうこともありうるかもしれないけど、わざわざ自分から言わなくても……」

何でもさらけ出せばいいというものではない、とユリコさんは説教したそうだ。
 

本音で生きることの難しさ

ミナミさんはユリコさんと、ルミさんとは距離を置こうと話し合った。仲良しグループにもその旨を連絡した。もちろん、ルミさんとつきあうかどうかは個々人の自由だ。ルミさんを仲間はずれにするつもりもない。ただの注意喚起だった。

「だけど誰かがそれをルミさんに伝えたらしく、ルミさんがうちに怒鳴り込んできたんですよ。『新参者を仲間はずれにするなんてひどい!』と玄関先で大泣きして。そこへたまたま夫が帰ってきた。ルミさんは夫に泣きついた。うちの夫、やたらと人がいいものだから、ルミさんを連れて外へ出た。どうやら近所の居酒屋に行ったようです。そうしたら今度、ルミさんがうちの夫に誘惑されたと言いふらした」

夫は絶対にそんなことはしていないと断言、ルミさんの夫にも誤解だと告げた。ルミさんの夫は「うちの妻は自由奔放な人なので」とさじを投げたかのような言い方だったという。

「ちょっと気をつけたほうがいいよねと夫とも話していたんです。でもその後、なんとなく近所との関係もギクシャクしましたね。本当にはた迷惑。ユリコはもちろん信じてくれたけど」

どうやらルミさんは、その後、ユリコさんの夫にも声をかけたりしたらしい。寂しいのか、近所の和を乱したいのかわからなかった。

「あるとき、ばったりルミさんに会ったんです。挨拶だけして通り過ぎようとしたら、『ねえ、ここらへんに住んでいる人たちって、どうしてみんな本音で話さないの?』と言われて。本音で話してますよと言ったら、『みんなきれいごとばっかりじゃない。ユリコさんの夫は不倫してるわよ、駅の向こうのバーのママと』って。またそういうこと言って近所をかき乱すのはやめてくださいよと言うと、『本当よ。ほら』と携帯を見せられました。確かにホテルにユリコの夫とユリコじゃない女性が入っていくところだった。でもこれは、あなたには関係ないことでしょと言うのが精一杯でした」

ルミさんは「私は本音で生きていきたいの。生きづらくてたまらないわ」と吐露した。だがミナミさんは「誰もが本気で本音だけを言い合ったら、近所づきあいもうまくいかなくなる。嘘をつくわけじゃなくて、みんなそれなりに自分の役回りをこなしているから、関係というものがうまくいくんじゃないかしら」とつぶやいた。

ユリコはこのことを知っているのだろうかと心配しながら。

「ルミさんは、そんなものかしらねと言いながら行ってしまいました。その後、ユリコは夫の不倫を知ったらしく、今、とても苦しんでいます。知らなくていいこともあるはずなのに。何でも表沙汰にするのがいいとは限らない、もう引っかき回さないでとルミさんには言いましたが……」

近所づきあいは、ある程度の「一般常識」に基づいて成り立っている。そこにルミさんのような人が入ると、ミナミさんが言うように「かき回されるだけ」で、誰も得をしない状況になりがちだ。

「ルミさんの個性は最大限、認めたい。でもひとりで自由に振る舞うのはいいとしても、それが他人の迷惑になるのは困るわけです。どうしてそんな簡単なことをわかってもらえないのか……。自分を尊重してほしいなら、他人のことも尊重しないと。仲良くしなくていいから最低限の尊重は必要ですよね」

お騒がせな隣人への対処は、これからも続きそうだとミナミさんはため息をついた。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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