父に不倫疑惑が持ち上がり……
ある日突然、69歳になる父親に不倫疑惑が持ち上がったとマイさん(37歳)は言う。「母が『最近、お父さんがおかしいのよね』と言い出したんです。以前はスポーツジムに行くくらいしか趣味がなかったのに、最近は写真教室だの俳句教室だのとやたらと出かけるようになったと。趣味があるのはいいことじゃないと私は言っていたんですが、ある日、母から電話があって『お父さん、浮気してる』と。まさかと言いましたが、母があまりにそう言うので自宅から1時間ほどの実家に行ってみたんです」
父がいなかったので母から「聞き取り調査」をしたマイさん、証拠をつかむまではなんともいえないと判断した。
「5歳と3歳の娘を連れて実家に泊まりに行ったとき、母が深夜に父のスマホを見てくれと持ってきたんですよ。いくらなんでもそれはまずいでしょと思いましたが、私も興味があって覗いてしまいました」
そこで見つけたのは、女性とのLINEのやりとりだ。マイさんが恥ずかしくなるほどラブラブの言葉が並んでいた。父と相手の女性に性的な関係があることもわかった。母がショックを受けてしまう、とマイさんは思わずスマホを隠したが、母は平然と画面を見ていたという。
「浮気をやめさせなくちゃねと言うと、母は『いいわよ、別に』と。ものすごく怒っているのがわかりました。母は泣いてすがるタイプじゃないですから、何を考えているのかわからなくて怖かったですね」
実はマイさん、第2子を妊娠中、夫に浮気疑惑が持ち上がったことがある。夫が頑として認めなかったため、いまだに真相は不明だが、おそらく夫は会社の同僚女性と関係があったはずだとマイさんはにらんでいる。
「だからこそ、父の浮気を止めたかった。私、ものすごくお父さんっ子だったんですよ。だから母より私のほうがショックを受けていたのかもしれません」
同時にそのことを、夫にだけは相談したくなかったと彼女は言う。彼女の複雑な心情が手に取るように伝わってきた。
父に直に訴えてみるが……
黙っていても埒が明かない。直接、父親にぶつかってみようとマイさんは考えた。「私の仕事が休みの日に父を呼び出して、ふたりでランチをしたんです。母には内緒です。父に最近の様子を聞くと、『楽しくやってるよ』って。『お父さん、恋でもしてるんじゃないの』と冗談交じりに言ったら『実は……』と白状されてしまった。これには驚きました。まさか娘に不倫を告白するとは。だけどそう言われたことで、私、やめなさいって言えなくなっちゃったんです」
父が言うには、相手は写真教室で知り合った同世代の女性。親の介護のために結婚しそびれ、今も働きながら写真教室に来ているのだという。父は彼女の家に、週に1度程度、通っているとつぶやいた。
「恋愛も結婚もしなかったんだ。でも同情からつきあっているわけじゃない。彼女を好きになった。いいことをしているなんて思ってないよ。だけどオレだってもう先が長いわけじゃない。お母さんには黙っていてほしい」
父は目を潤ませながらそう言ったという。下手をしたらお母さんが、お父さんを刺しかねない状態かもしれないと告げると、それならそれでしかたがないと父は苦笑した。
「今さらマイに言うのも申し訳ないけど、お母さんとはわかりあえなかった。でもマイを授かったことには感謝しているし、仕事三昧で家のことを任せきりにしていたことも申し訳ないとは思ってる。ただ、今、お父さんは自分を止めることができないよって……。両親は私が小さいころから仲がよくなかった。言い合いをすることはなかったんですが、それだけお互いに冷めていたんでしょう。それは私もわかっているだけに、父が今になって心の安らぎを得られる女性に出会ったのはよかったなとも思う。でも母はいい年してみっともないと静かに怒り続けている」
やむを得なかった。母には父と話した、友だち関係の女性は何人かいるが特に親しい人はいない。ラブラブのLINEのやりとりはあくまでも「遊び」で、言葉を駆使して恋愛するとどうなるかという「言葉の実験」をしていたということにした。苦しい言い訳だった。
「そして父には、LINEでのやりとりはやめること、スマホはロックをきちんとすることなどを教えました。不倫に加担するつもりはなかったけど、母をこれ以上追いつめたくなかった」
その一件から半年、今のところ両親の間に大きないさかいはない。それどころか父が気を遣ったのだろう、先日は母が見たがっていた芝居に行ってきたという。
「なんだかね……。40年近く一緒にいる夫婦の心理は、もう私にはわからないなと思いました。あんなに怒っていた母が、芝居に誘われてホイホイ行くのもなんだかなぁと思うし、まあ、でもいさかいがないのはいいことだし。結局、私の出る幕はなかったのかもしれません。父からは『いろいろありがとう』と連絡が来ましたが」
実の親とのつきあいは、いくつになってもめんどうなものだけど、争いさえなければそれでいいと思うしかない。マイさんはそう言って少しだけ笑顔を見せた。