ニンニクのスタミナ効果? ニンニク研究から生まれた栄養ドリンクも
ニンニク研究から生まれた栄養ドリンクがあります。一方でニンニク注射というものの実態は?
「アリチアミン」と聞いて、似たような響きの栄養ドリンクを連想した方もいるのではないでしょうか? CMなどでも耳にする「アリナミン」という商品です。これはニンニクの研究から誕生したものです。
ニンニクのアリシンがビタミンB1と反応してアリチアミンができるという発見は、京都大学医学部衛生学研究室の藤原元典博士と武田薬品工業研究部の共同研究によるものでした。当時、武田薬品工業は、旧陸軍から脚気の治療薬開発を依頼され、ビタミンB1製剤の研究に取り組んでいましたが、ビタミンB1そのものは水溶性で吸収が悪く体内での持続性にも欠けることから十分な効果が発揮できずにいました。そんなとき、アリチアミンが発見されたことで、腸管からの吸収が極めて良く血中濃度の上昇が顕著で長時間続くという新しいビタミンB1誘導体の開発が可能になったのです。武田薬品は、その後、脂溶性を高めたビタミンB1誘導体の一つとして「プロスルチアミン」を合成し、それを含んだ医薬品として「アリナミン錠」を完成させました。アリナミン錠は、それまで手の施しようがなかった脚気に対して見事に改善効果を示したのでした。
ちなみに、プロスルチアミンは、体内で分解されてビタミンB1となり効くわけですが、そのとき発生する分解産物(N-プロピルメルカプタン)がニンニクと同じ臭いをもつため、アリナミン錠を飲んだ人は口が臭くなるという問題がありました。そこで、武田薬品工業は、臭いの原因となる化学構造(アリル基)をフラン環という別のものに置き換えた「フルスルチアミン」という新しいビタミンB1誘導体を合成・開発しました。今売られている「アリナミンF」には、このフルスルチアミンが配合されているので、ニンニクのにおいはしません。
この武田薬品の成功を受けて、他の製薬メーカーも、吸収が良く持続性のあるビタミンB1誘導体を開発・製品化していきました。たとえば、第一三共の「ノイビタ」には「オクトチアミン」、
「リゲイン」には「ベンフォチアミン」というビタミンB1誘導体が含まれています。
ニンニク注射はニンニクに関連なし? 正確には「ビタミン注射」
ニンニクの研究は複数の栄養ドリンクの開発につながりましたが、同じようにニンニクに関連して多くの人がイメージしそうなものにも触れておきましょう。2000年代初めごろから話題になった「ニンニク注射」の実体についてです。「ニンニク注射」と言うからにはニンニクが含まれていると思われるかもしれませんが、実際は違いますし、「ニンニク注射」という医薬品が正式にあるわけではありません。使用している病院ごとに含有成分が微妙に違うので一概には言えませんが、ビタミンB1もしくはその誘導体を含んだ注射液のことです。そのにおいや、上述したようにニンニクの研究から誕生したプロスルチアミンやフルスルチアミンを含んでいることから「ニンニク注射」と名付けられているだけですので、「ビタミン注射」と呼んだ方が実態に即していると思います。
ニンニク注射の効果に科学的根拠はなし! 疲れたら休むのが一番
ニンニク注射の効果についてですが、科学的に考えると、話題にされるほど期待できるものではないと思われます。もし配合されているのが、ビタミンB1そのものなら、注射して間もなく尿中排泄されますので、効果があったとしても一時的なものです。持続性のあるビタミンB1誘導体だったとしても、たまに注射するくらいでは残念ながらあまり意味がないでしょう。疲れたときは、しっかり休息をとり、いろいろな食べ物をバランスよくとって体調を整えるのが一番です。ビタミンB1の注射だけで解決しようとするのは、あまり賢明ではないでしょう。