相手には押しつけない
「子どもができてから夫も家事をやるようにはなったんですが、とにかく大雑把なんです。掃除機はあいているところにかけるだけ、洗濯物も適当に伸ばして干すから、アイロンをかけなくていいものまでしわくちゃ。最初は事細かに“指導”していましたが、一向に改善しないしやる気も出さない」そう言って苦笑するミチエさん(38歳)。結婚して9年、8歳と5歳の子がいる。夫婦ともにフルタイムの仕事だが、ミチエさんのほうが通勤に時間がかからないので、下の子の保育園の送り迎えはほぼ彼女がしている。
夫は平日は帰宅後、子どものめんどうを見る程度。ときどきアイロンがけを頼むこともあるのだが、「オレには向かない」と衣類スチーマーですませてしまう。ミチエさんはハンカチにもきっちりアイロンをかけるタイプだ。
「あるとき、夫がしわくちゃなハンカチを子どもに持たせているのを見て、やはり耐えられなくなったんです。結局、寝る間を惜しんで深夜、アイロンがけをしているのは私。夫は『そんなこと今しなくたっていいじゃん』と言うんですが、今しなければいつやるのよという話ですよね」
それならもう、あなたのものはアイロンかけないからと言うと「いいよ」と夫。それを聞いてミチエさんは、自分だけがカリカリしていることに気づいて、さらにイライラが募ったという。
「職場で同僚に話したら、考え方を変えたほうがいいよ、と言われました。『あなたと夫は違うのだから、同じようにやれというのが無理な話。相手のやり方を押しつけられたら、不快感を覚えるのは当然かもよ』って。ああ、そうかと気づきました」
幸い、ミチエさんの夫はたいていのことはスルーしてくれる。怒ることもめったにない。だったらどうしても許せないことは自分でやるとして、夫がやってくれることには目をつぶるしか選択肢はないのだ。そうでなければすべて自分がやるしかなくなる。
「それからは夫には洗濯だけしてもらう、干すのは私、取り入れるときはやってもらうなど、少しめんどうだけど夫にできることだけ頼むようにしました。それは確実にやってくれるので、それでよしとしようと」
夫は今、料理をするのが楽しいと感じているようだ。上の子が料理に興味をもち始めたことから、夫とふたりで週末、スマホでレシピを見ながら作っている。
「時間がかかって大変ですが、それもあまり文句を言わないようにしています。夫が家事育児に関わってくれさえすればいい。ハードルを低くしました」
これからもっと担ってくれるはずと信じて、ときには目をつぶるしかないと彼女は笑った。
夫が家事をしない言い訳とは
同じようにフルタイムで働いていても、夫が家事にほとんど手を出さないと嘆くのはハルコさん(43歳)だ。結婚して13年、11歳のひとり娘がいる。子どもがひとりなのだから、それほど手がかからないと夫は思っているようだ。「私が残業のときなどは、実家の母に頼んでいます。夫は時間があっても早く帰ってきてくれないことが多くて。本人は残業だのつきあいだのというけど、本当かどうかはわからない。もうちょっと家庭に協力してよと言ったら、あるとき、1カ月の仕事時間を出してきたんです。通勤時間も含めて。夫の会社、私より遠いんですよ。これだけ仕事に時間がかかっているのだから、家事時間は少なくて当然だということでしょう」
明らかに飲んで帰ってきている時間まで、夫は仕事時間に含めていたので、それは違うんじゃないのとハルコさんは指摘した。すると次に夫が出してきたのは収入だった。
「オレと同じだけ稼いだら、家事についても考えるからと夫は言うわけです。でも収入は、私の裁量ではありません。会社が違い、たまたま夫のほうが収入が高いだけ。そんなふうに判断されたら、私がしている家事はただのボランティアなんだろうかと悲しくなりました」
お互いにできることを協力してやっていくという姿勢が夫にはないのだ。稼ぎが少ないから家事をやれというのは、どう考えてもおかしい。
「男は収入の多寡が自分の価値を判断する基準になるのかもしれませんが、そもそも男女格差のある賃金ではかるのが変。収入が高ければ家事をしなくていいというのも変。あなたには家庭をうまくやっていこうという気がないのかと聞いてしまいました」
すると夫は「双方が納得しないとうまくいかない。僕はそういう価値観を持っているだけ」と言い放った。
「夫より収入が低いことが悔しかった。まるで能力の低い人間を自分が養っているんだと言わんばかりですから。そのお礼として私が家事をしていると思っているんでしょうね」
そこからギクシャクしはじめたハルコさん夫妻。今は冷戦状態が続いているそうだ。