亀山早苗の恋愛コラム

出生の「秘密」を隠して結婚したのに、なぜ?偏見に満ちた義母が「かわいそうねえ」と嫌味

「秘密」のひとつやふたつは誰にでもある。自分自身は受け止めているつもりでも、どこかで身構えてしまうこともまたある。自身が抱え続けた秘密について、偏見や差別に満ちた言葉をかけられたという40代女性のエピソードを紹介しよう。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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人には誰にでも「秘密」のひとつやふたつはあるもの。内容にもよるが、この人ならと思って話し、理解してくれれば少しは生きやすくもなる。
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ドラマのような衝撃はなかったけど

「私は生まれてすぐ両親が亡くなり、養父母に育てられたんです。弟がいますが、彼はそのふたりの実子。小学校に入るころから、それとなく聞いていたけど、きちんと知ったのは中学に入ったとき。実際には両親が亡くなったわけではなく、離婚したことも知りました。ただ、その後、実父は病死したそうです。そのときは『本当の親じゃなかったんだ』とショックを受けましたが、実両親の思い出があるわけでもないし、養父母の愛情はわかっていたので、ドラマで見るような衝撃はありませんでした」

マユミさん(40歳)は静かにそう話した。実母に関しては行方がわからなくなっていたが、
「探そうと思えば探せるかもしれない」と養母から聞いた。ただ、マユミさんは探そうとは思えなかった。

「養父母への義理ではなく、私にとっては彼らが本当の親だから。人はみんなルーツを探りたがるものだと思われがちですが、私自身はあまりこだわりがなかったんですよね。たぶん、家族のありように満足していたからだと思う」

大きくなってからも弟とは本気でケンカをしたし、親とも言い争いをした。いつでも誰もが本気でぶつかる家族だったと笑う。

「ただ、大人になって恋愛したとき、どのタイミングで言うかはちょっと悩みました。結局、10年前に結婚した夫にも、結婚という言葉が出るまでは言わなかった。彼が結婚という言葉を出したとき、初めて『実は』と打ち明けました。その段階で彼はすでに両親にも会ったことがある。彼は一通り話を聞いたあとで、『だから?』と笑っていたんです。この人となら一生、一緒にやっていけるなと確信しました」

結婚し、ふたりの子に恵まれたが、夫との間でその話が出たことはない。彼女の養父母の前でも一言も、その件には触れなかった。触れないようにしているわけではなく、「マユミのお父さんって本当におもしろいよな」「お母さんは本当に優しい」と、ごく普通の親子関係としてとらえているだけだ。そのスタンスがマユミさんと同じであることがうれしいと彼女は言う。

ただ、夫は「うちの親には話す必要がないと思う。特に母親は偏見の持ち主だから」と言っていた。
 

義母が突然、嫌味を言い始めた理由

マユミさんは自分が育った家庭のように、夫とは何でも言い合うようにしている。自分が我慢すればうまくいくということはあり得ないと思っているそうだ。

「家庭には恵まれているといつも思っていました。ただ、悩みの種は義母でした。義父はおっとりしたいい人なんですが、義母は噂好きで人の悪口が大好き。自分の夫と息子たちが話し相手になってくれないからと、結婚当初はやたらと私に電話をかけてきた。でも夫が『マユミも仕事をしているし、新婚家庭の邪魔しないでよ』と言ってくれたんです。それからもことあるごとに夫が義母からかばってくれました」

ところがこの夏休み、久しぶりに夫側の親族の法事で集まったとき、義母は突然、「ねえ、マユミさん、あなたはもらわれた子なのよね。かわいそうね」と大声で言った。たまたま法事の対象になった人とその子どもとの間に血縁関係がないという話題の流れからだった。

「別にショックを受けたわけじゃないけど、今、それをここで言う必要があるのかと驚きました。夫が『誰から聞いたの?』と義母に尋ねると、マユミさんの両親から聞いたと義母は答えました。うちの親も、みんなが知っていることととらえていたんでしょうね。私は義母には知られたくなかったけど。夫も『ここで言う必要、ある?』って。やっぱり秘密にしてたのねと義母が言い出し、場が一気にしらけました。夫は帰ろうと言い出して、予定を早めて帰宅したんです。夫があんなに怒るのは初めて見ました」

あとから両親に尋ねると、義母はときどきマユミさんの両親に電話をかけてきていたそうだ。人のいい養母は時間があれば、義母の話につきあっていたらしい。その際に、マユミさんが養女であることを知ったのだろう。

「夫はそれを知ってうちの母に謝ってくれた。母は気にしていないわよと笑っていました。『それよりあなたとお母さんの関係は大丈夫?』と夫のことを気にかけていましたね」

それきり、夫の実家とは疎遠になっている。親戚の話によれば、マユミさん一家が帰ったあと、義父が義母を叱りつけていたそうだ。それでも義母が反省したとは思えない。

「まあ、義母はああいう生き方しかできないんでしょう。私も別に養女であることを隠したつもりはなかったけど、今になれば最初からオープンにしてもよかったのかなとも思います。夫は最初からオープンにしたら結婚に大反対してめんどうなことになっていたはずだと言いますが。『偏見をもつ人は、よほどのことがないと変わらないんだよ』と夫は今も自分の母親に対して怒っているようです」

偏見と差別はセットのようなもの。義母は偏見があるから、かわいそうねという言葉が出たのだろう。「かわいそう」という言葉そのものには、マユミさんも不快だったと言う。

「かわいそうって、結局、上から目線ですものね。別に養女だったことを多くの人に知られてもかまわないけど、だからかわいそう、という決めつけがめんどうなんですよ」

かわいそうかどうかは他人にはわからないこと。そういう無用な「憐れみ」が人を傷つけることもある。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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