亀山早苗の恋愛コラム

50代、出世コースを外れた“元エース”夫が愚痴ばかり。怒鳴りつけてしまう私は冷たすぎる?

50代になった夫が、会社の中で行き場を失ったら妻はどうする? 愚痴ばかりをぶつけられてはたまらないが……。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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50代になった男性が会社の中で行き場を失うこともありうる今、そんな夫を持つ妻は何を考えているのだろうか。
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恵まれた結婚生活だった

「夫は社内でもけっこうイケイケのタイプだったと思うんです」

ヨシエさん(49歳)はそう言う。今年52歳になる夫とは社内恋愛で結婚しただけに、若かりしころの夫の姿をよく覚えているのだ。

「私が入社したとき彼は3年目。すでに若手のエースなんて言われていました。でも本人はけっこう謙虚なタイプだったと思います。飲み会などでは新人の私に『無理して飲むことないからね』と上司の無茶振りから救ってくれたりもした。みんなで食事に行くような友だち関係が長く続いたんですが、あるとき彼が異動になった。フロアが変わるだけなんですが、『部署が変わるから思い切って言うけど、つきあってくれないかな』と。言われた瞬間、ああ、私、この人のことが好きだったんだと自分の気持ちに気づきました」

それから1年ほどつきあい、ヨシエさんが28歳のときに結婚した。結婚後も共働きを続けていたが、子どもが産まれてから彼女は退職した。子どもがかわいくて仕事に戻れなくなってしまったという。

「しばらくたったら別の仕事を探そうと思いましたが、その2歳違いで双子が生まれて。2歳と0歳を3人抱えたら、もう仕事はむずかしかったですね」

それでも彼女は、性格的なものなのか「なぜか子育てでイライラしたことがあまりないんですよ」と笑う。近くに住む夫の両親とも仲がよく、ときおり「疲れたぁ」と愚痴ると、「今日は家事全部さぼっちゃいなさい」と大量の惣菜を届けてくれた。そのせいだろう、息が詰まるようなことがなかったのだ。

「夫も子どもがかわいくてたまらないようでしたが、仕事が忙しくなると早く帰れない。寝顔を見ては『オレも子育て、もっとしたいなあ』とつぶやいていました。子どもが初めて立ち上がったときも夫はいなかった。あのころスマホがあれば簡単に動画が撮れたのに」

夫婦仲も良好、子どもたちも元気に育ち、なんの不満もなかったとヨシエさんは言う。現在、19歳の長女は大学生、17歳の双子の男の子は高校生となった。

「私も子どもたちが学校に上がってからはパートで働いています。子どもたちが大きくなって、少しホッとしたところへ、まったく心配もしていなかった夫がちょっと……」

性格に変化があったのだという。
 

夫が愚痴ばかり言うように……

3年くらい前から、夫は愚痴が多くなったとヨシエさんは言う。

「仕事に全力投球して、愚痴など言ったこともなかった夫が、やたらと愚痴っぽくなったんです。最初は何かあったんだろうかと心配になって聞いていたんですが、どうやら夫は思ったほど出世できないようだ、と。自分よりできなかった後輩が先に出世したことでショックを受けたみたいですね。私は別に出世なんてしてもしなくてもいいわというタイプ。そうしたら夫は珍しく『きみは男の仕事をまったくわかってない』と声を荒げたんですよ」

驚くヨシエさんに、夫はすぐに謝った。だが、その後もことあるごとに愚痴が続いた。男性更年期を疑ったヨシエさんは夫に受診するよう勧めたが、夫は耳を貸さなかった。

「頑張りすぎて心を病んでも困ると思って、とにかく病院へ行ってほしいと懇願したんです。でも夫は自分は頑張れるんだ、と。実際、頑張っているようですけど、愚痴は増え続ける。私も今はフルタイムに近い状態で働いているし、夕食後の時間を夫の愚痴だけ聞いているわけにはいかない」

それでつい先日、とうとう夫を叱りつけてしまったのだという。

「また自分は不当な扱いを受けているとか言い出したので、具体的に何が不当なのかを尋ねたら、上司が声をかけてくれないとか言うわけです。それなら自分から声をかければいいと言ったら、そういうことじゃないんだと。そこでふと、夫は実は内心、自分は出世していけると根拠のない思い込みにとらわれていたんじゃないかと思ったんです。若いころにちょっとちやほやされたから。でも周りはきっといろいろ努力して昇進していったんでしょう。思ったような早さで昇進できないのは自分の努力が足りなかったせいだと夫もわかっている。でもそれを認めたくなくて愚痴を言っているのではと」

ひとつずつ聞いていくと、確かにヨシエさんの思った通りだった。出世した後輩は、会社のさまざまな制度を利用してスキルを磨いていた。夫は仕事以外は早く帰宅、子どもと遊んでいたのだ。もちろん、どちらがいいとか悪いとかではない。そういう生き方をして、今も子どもたちとは良好な関係なのだから、それでいいじゃないかとヨシエさんは言った。

「だけど夫はまだグチグチ言っている。『人間は身体がひとつなんだから、なにもかもうまくいくとは限らないの! 大人なんだからそのくらい自分の中で処理しなさいよ』と怒鳴ってしまったんです」

夫はみるみるシュンとしてしまった。そのやりとりをたまたま廊下で聞いてしまった長女から、「あの言い方はきついよ、おかあさん」と翌日言われたそう。

「おとうさんはおかあさんに、自分の生き方を認めてほしかったんだよって。私は認めているつもりなんですけどね。その上で家族優先にしてきたあなたはエラいよとでも言えばよかったんでしょうか」

キャリアをまっとうできなかったのはヨシエさんも同じだ。だが自分で選択した人生だという自負がある。夫にその自負が感じられないのがヨシエさんは不満なのだ。

「まあ、もう少し夫と話しあってみます。お互いに着目しているポイントがずれていると娘に指摘されたので」

ヨシエさんは苦笑した。そんな指摘ができるほど成長した娘がいること自体、夫にとっても幸せなのではないだろうか。

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