男性不信になったのは父のせい
高校生のころ、父親の不倫を知って以来、「男性不信になった」と言うのは、ジュンコさん(35歳)だ。彼女は小さいころから「お父さん子」で、高校生になってもよく父とふたりで出かけていたという。「洋服を買ってほしいときは父親を連れ出していました。母が父を大事にしていないような気がして、私は何があってもお父さんの味方だからとよく言っていたんです」
ところがある日、夜中に父と母がケンカをしているのを聞いてしまった。母が父の浮気を責めていたのだ。そんなことがあるはずはない、母の勘違いだとジュンコさんは思った。彼女はふたりの寝室の前へこっそり行って、ケンカに聞き耳を立てた。
「母は証拠をつかんでいたようで、相手の名前もわかっていた。父はもごもごと言い訳をしていましたが、母がかなりエキセントリックになっていたからか、いきなり父が部屋から出てきたんです。ドアの前に立っていた私にびっくりしたようでしたが、私を避けて階下へと降りていき、そのまま家を出て行きました。寝室を覗くと母が泣いていた。数時間後、父は帰ってきたようでしたが、翌日からふたりはほとんど口をきかなくなりました」
ひとりっ子のジュンコさんは、気持ちを分かち合うきょうだいもいないので、ひとりで複雑な思いを抱えていた。
「母に大丈夫か聞いても、母は『あんたが心配しなくていいから』と。父にはいつものように甘えられなくなり、父も私に話しかけづらそうだった」
彼女は高校を卒業すると、遠方の大学に入学した。ほとんど家には帰らなかったが、大学3年生のときに父が大病をしたので帰省したことがある。
「母はかいがいしく病院に通って看病をしていた。父もすんなりそういう母を受け入れていて。私は、あんなに傷ついたのに……と、バカバカしくなりました。両親はなんとなく元の鞘に収まったんでしょうけど、私は両親に心を開けなくなってしまった」
恋愛をしても、どこか父の面影を追い求めているような気がした。かといって父に似たタイプは絶対に嫌だった。男性に心を許せないのは父との関係に原因があると彼女は思っている。
浮気者の父は反面教師
父親が浮気者だったため、浮気するタイプを見抜くのが得意になったと笑うのは、アヤノさん(33歳)だ。彼女はつい最近、同い年の男性と結婚したばかり。「父は明るい浮気者で、さらに不思議なことに母は、そんな父を嫌っていなかった。何度か本当に浮気相手から電話がかかってきたりしたんですが、母が撃退していましたね。そのたびに『アヤノ、お父さんみたいなタイプと絶対結婚しちゃダメよ』と、父を前に言うんです。父は『ごめん』と謝るだけ。浮気の尻拭いまで妻にさせるなんてと私は憤っていましたが、当の両親は、なんとなくそういうコンビでうまくいっていたみたい」
強い母に牛耳られてつい浮気をしてしまい、さらに怒られて立場を弱くする父が滑稽だったし、大人になるにつれて、そういう関係もあるかもしれないと思えるようになった。だが、彼女自身は、そういった夫婦関係はいいと思えなかった。
「確かに母は経済的にも精神的にも、そして肉体的にも父より強いんですよ。自分で事業を興してサラリーマンの父より稼いでいたし、メンタルは強いし、柔道五段だし。父なんて軽く投げられちゃいます」
ジュンコさんが結婚したのは、「人を下に見ない人」だという。誰にでも公平で、肩書きに惑わされず、対等に話せる男性だと感じたから結婚した。
「だからといって不倫しないとは限りませんけど、たとえ彼か私、どちらが不倫に走ったとしても冷静に話し合えるんじゃないかなと思います。少なくとも、うちの両親みたいに明らかな力関係は生じないと思う……そう言ったら、夫が『アヤノも強いから』と言っていましたけど。まあ、私も柔道をやっているんで、何かあったら投げ飛ばせますけど」
アヤノさん、案外、両親と同じ道を歩みそうな。そう言うと、それだけは絶対にない。ああいう関係にならないためにいろいろ学んできましたから、ときっぱり言った。
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