人間関係

「働かないおじさん」問題、当のおじさんは何を思う? 早期退職を打診された50代男性の場合

「働かない」の次には、なぜか「おじさん」という言葉が来る。実際には、年代を問わず働く人もいればサボりがちな人もいるはずなのだが……

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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「働かない」の次には、なぜか「おじさん」という言葉が来る。実際には、年代を問わず働く人もいればサボりがちな人もいるはず。

よく働きアリの2~3割は働かないと言われているが、いざというとき代役として貴重な存在になるため、その存在意義は認められている。組織においても同じこと。働いていないように見えても、組織が長期的に機能するためには、そういった存在がいることが重要なのだという。
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もちろん、本当に働かないで高給をもらっているおじさんもいるのだろうし、「働かないように見えてしまう」おじさんもいる。そして今の時代、労働環境に不満のある若い人たちのストレスのはけ口が、「おじさん」に向けられている可能性もある。
 

早期退職を打診されて

50代半ばを迎え、「最後の大仕事になるかも」と立ち上げた大きなプロジェクトを前にして、イサオさん(58歳)は、突然、役員に呼ばれて早期退職を打診された。

「プロジェクトは私の下で働いていた40代後半の後輩に任せてほしいということでした。私は立ち上げがうまくいったところでお払い箱というわけ。もともと出世などしたいわけではなく、現場で働いているのが楽しかったから昇進試験もろくに受けてこなかった。周りから見たら『楽しそうにしている働かないおじさん』だったのかもしれません」

ガツガツ働くつもりもなく、出世コースに乗る気もなく、それでも日々、楽しく仕事をしてきたつもりだった。後輩にも先を越されたが、たいして気にはならなかった。ただ、自分の経験と知識は惜しまず後輩に伝えてきたつもりだった。みんなが困ったときに渋い助言をしてくれる人、と言われたこともある。

「それなのに早期退職したらどうかって……。定年まであと6年というときに、しかも企画から立ち上げたプロジェクトのさなかに。組織って冷たいなと思いました。ショックでしたね」

誰にも相談できなかった。社内で「やっぱり」と思われているのではないかと人の目を初めて気にした。気持ちが落ち込んでいき、生まれて初めて「消えたい」と思った。ただ、彼が幸せだったのは、社外に多くの友人がいたことだ。

「もともとは仕事で知り合った人たちですが、仕事以外でも飲みに行ったり一緒にイベントに行ったりする友人がけっこういたんです。彼らに相談しました。同業他社の友人は、『だったらうちに来ればいい。オレが話をつける』とまで言ってくれた。でも別の友人は『応じる必要はないよ。クビにはできないんだから居続けたほうがいい』と。悩みましたが、私は裏切られても会社が好きだった。同業他社に行くのも仁義がすたる気がして(笑)。だから居続ける道を選びました」
 

副業の道を探りながら

早期退職を拒否すると、閑職に異動になった。想定内ではあったが、やはり気持ちが落ちていく。そのときも社外の友人たちが助けてくれた。

「うちは副業も奨励されていたので、社外の友人たちが外注で仕事を回してくれたんです。本業は定時で切り上げてさっさと家に帰り、仕事をしていました。結婚して20年以上たつ妻には本当のことが言えなかったのですが、しばらくたって『なんかあったの?』と聞かれたので、正直に答えました。妻の性格からいって、『見返してやりなさいよ』とハッパをかけられるかと思ったら、『気づいてあげられなくてごめんね』と言われた。それも意外でしたが、それからは妻との関係が変わりましたね。あの一件があって夫婦の関係がよくなったのはケガの功名みたいなものでした」

当時、大学に入ったばかりの息子と高校生の娘がいた。ふたりのためにもまだまだ稼がなければならなかった。

「私が異動したことで後輩たちは話しかけづらくなっているだろうと思ったので、こちらから積極的にLINEなどを使って、何か困ったことがあればいつでも相談してほしい、妙な気を遣わなくていいからと伝えました。そのおかげで、例のプロジェクトのトップになった後輩もよく相談に来てくれましたよ」

プロジェクトが成功したとき、彼は社の上層部にイサオさんの功績を訴えてくれたと人づてに聞き、彼は自分の人生が間違っていなかったと涙したという。

「それでも一度は辞めてほしいと思った上層部が、態度を変えることはなかった。でも私ももう割り切っていました。副業もそれなりに忙しいし、今は定年退職後に仲間たちと会社を立ち上げようかという話も進んでいます」

一度はプライドを失いかけたイサオさんだが、周囲に相談することで何とか立ち直ることができた。全精力を仕事だけに傾ける人だけが「すぐれた社会人」ではない。人生を楽しみながら、人との関わりを大事にしながら組織内で仕事をしていったイサオさんだからこそ、いざというときに完全に壊れずにすんだ。

「今どきのサラリーマンはきついですよね。うちの親父の世代は終身雇用が当たり前だった。でも今はそうはいかない。だから愛社精神も薄れるんじゃないかと思うけど、会社としては目先の業績ばかり見る。世知辛い世の中だなと思いますよ」

そうは言いながら、イサオさんは淡々と自分の道を歩んでいる。人は情熱を表に出すとは限らない。働かないように見えるおじさんだとしても、実は魅力的なおじさんである可能性も大きいのだ。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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