食生活・栄養知識

95%は水でも魅力的!大根の栄養成分・ジアスターゼ・食べ合わせ

【大学教授が解説】大根は約95%が水分ですが、栄養がないというのは大きな誤解です。大根に含まれる栄養成分や酵素であるジアスターゼには、体によい効果があります。胃の調子の悪さを助けてくれるジアスターゼの働きと効果、酵素を壊さずに食べる方法と注意点、他の食材との健康的な組み合わせについて、ご紹介します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

大根レシピや食べ方はバリエーション豊富! 栄養素や健康効果は?

大根の栄養成分・健康効果

大根の栄養と健康効果は? 他の食材との組み合わせがおすすめなのはなぜでしょうか

「おでんの主役は?」と聞かれると、「大根」と答える方も多いのではないでしょうか。つゆの旨味がたっぷりしみ込んだ「しみしみ大根」は最高においしいですよね。ブリ、イカ、牛肉などとの相性もよく、私はとくに「ブリ大根」が好きです。みそ汁に入れてもおいしいですね。

生のまま繊維に沿ってせん切りにした「大根サラダ」にすれば、シャキシャキとした食感を楽しむこともできますし、ポン酢やマヨネーズであえたり、梅やツナ、ささみを加えてもおいしく食べることができます。大根の千切りは「刺身のつま」としても、定番です。サンマやサバなど焼き魚の付け合わせとして、「大根おろし」も欠かせませんよ。

このように大根は、私たち日本人にとってとても身近で馴染み深い野菜です。一年中スーパーで買うことができますが、旬の季節は冬。特に12月~2月に出回る大根は、甘みと水分をたっぷり含みながらも、しっかり引き締まっているのが特徴です。味がしみ込みやすく、煮崩れもしにくいので、鍋やおでんなど、煮込み料理にもぴったりな食材と言えます。

今回は大根の栄養素と健康効果、食べ合わせについて、わかりやすくご紹介します。
 

大根はほとんど水で栄養がない? それでも魅力的な栄養成分と酵素

私たちの食生活を助けてくれる大根ですが、一方で「栄養分が少ない」という意見もあります。大根が栄養に乏しいと思われてしまう一番の理由は、水分が多く含まれているからでしょう。実際に生の大根のほとんど(94.6%)は、水です。

しかし、大根には、ビタミンCやカリウムなど私たちの体に欠かせない大切な栄養成分に加えて、消化を助けてくれる「ジアスターゼ」という酵素を含んでいます。そして、大根は他の食材と一緒に食べるのがいい理由について考えてみましょう。
 

ジアスターゼとは……消化を助けてくれる効果

ジアスターゼは、大根以外の野菜、たとえばキャベツや山芋、かぶにも含まれている酵素の一つで、別名アミラーゼ(amylase)とも呼ばれます。

アミラーゼは中学3年生の理科で登場し、「唾液と膵液に含まれて、炭水化物のデンプン(多糖)を麦芽糖(二糖)に分解する消化酵素」と教えられます。つまり、私たちが食べ物を口に入れて何度も噛んでいるうちに、唾液が出てきて、そこに含まれるアミラーゼがデンプンを分解してくれるのですが、それと同じ酵素が大根にも含まれているということです。

もう少し詳しく説明すると、アミラーゼにはいくつか種類があり、私たちの唾液に含まれているのは、そのうちの一つ「α-アミラーゼ」です。大根は主に「β-アミラーゼ」をもっていますが、α-アミラーゼももっているのです。

私たちの体から分泌されるジアスターゼは消化酵素として機能していますが、体からの分泌や働きが足りないときは、食事から補うことでもカバーできると考えられます。大根を食べるとジアスターゼが摂れますから、まさに消化を助けてくれる効用が期待できるのです。胃腸のもたれやむかつきが気になるという方に、大根はおすすめの野菜です。
 

消化酵素・ジアスターゼを壊さずに食べる方法・加熱や作り置きはNG!

ただし、ジアスターゼは酵素(タンパク質)ですので、加熱すると変性してしまい働かなくなります。なので、おでんやブリ大根のような煮込み料理だと、ジアスターゼの効き目はありません。生のままの大根サラダや大根おろしとして、食べる必要があります。また、ジアスターゼは空気に触れると酸化してしまうため、作り置きしないで、食べる直前に切ったりすりおろすようにしたほうがよいでしょう。

また、大根のジアスターゼは、皮の周りに多く、葉や茎にはあまり含まれていません。さらに、根の中心部よりも皮の方が2倍ものジアスターゼを含んでいます。大根の部位については、記事の最初に載せた写真を見てください。

葉については、説明不要でわかりますね。私たちが主に食べるのは太い根部です。そして、根部の側面にはたくさんの小さなくぼみがあって、そこから細く短い根がひょろひょろと生えていますね。このヒゲのような細い根は「側根」と呼ばれます。よく観察すると、根部の葉に違い部分には側根が出ていません。実はその部分が「茎」に相当します。茎は、地上に出ていることが多いので、よく「青首」と称されるように薄緑色をしています(葉緑体ができるため)が、厳密には「緑の部分が茎」ではなく「側根が出ていない部分が茎」と見分けるのが正しいです。そして、側根が出ている部分が「主根」になります。

ジアスターゼを効率よく摂りたければ、葉と茎の部分は切り落として、側根が出ている白い主根だけとし、その皮をできるだけ薄くむいて皮に近い部分をできるだけ残したものを、千切りもしくはおろして、できるだけすぐに食べるのがいいということです。
 

他の食材と組み合わせて本領発揮! 大根の食べ合わせ効果

また、大根の効果は、他の食べ物と組み合わせることでさらに発揮されます。

みなさんは、 焼いた餅に醤油を混ぜた大根おろしをたっぷりかけて絡めて食べる「からみ餅」という料理をご存知ですか。埼玉や福島あたりで伝統的に食べられてきた郷土料理で、手軽に作れておいしいのが魅力ですが、栄養学的にもとても理にかなった料理です。ここまで説明してきたように、大根おろしにはジアスターゼが含まれていますから、食べる前に餅に絡めることで、餅に含まれるデンプンが分解されます。食べる前からすでに消化が始まっているという点で、消化器にやさしい料理なのです。

また、大根おろしは、焼き魚の付け合わせとしても定番ですが、大根には、消化酵素としてジアスターゼだけでなく、タンパク質を分解するプロテアーゼや脂肪を分解するリパーゼも含まれていますので、脂のたっぷりのったサンマやサバに、大根おろしを組み合わせるのは、とても理にかなっています。最近は、ハンバーグやトンカツに大根おろしをのせて食べるメニューも人気ですが、タンパク質や脂肪の消化を大根おろしが助けてくれるという、同じ原理で説明できますね。また、焼き魚で内臓あたりがちょっと苦いものでも、ときどき大根おろしを口に入れることで味覚がリセットされてさっぱりするので、食べやすくなるというメリットもあります。

一方で、焼き魚との組み合わせによる発がん性が言われることもありますが、これについて少し補足しておきましょう。大根をはじめとする葉野菜には硝酸塩が多く含まれており、食べたときに腸内細菌の働きで酸化されると亜硝酸塩が生成し、これが焼き魚の焦げに含まれるジメチルアミンと反応すると、発がん性を示す「ニトロソアミン」という物質が作られてしまうのです。とはいえ大根にはビタミンCも含まれているので、その抗酸化作用により上記の反応も阻止することができると考えられます。大根おろしとともに、ポン酢をかけたり、レモンやすだちの汁をたっぷりしぼりかけて、サンマなどを食べると尚いいのではないでしょうか。また、たまに食べたもので少しくらいのニトロソアミンができてしまったとしても、それが元でがんになる確率は極めて低いですから、気にしない方がいいでしょう。

先人たちは、科学的な理由から食材の組み合わせや食べ合わせを決めたわけではないのでしょう。しかし経験を重ねる中で私たちがいいと思ってきた組み合わせが、現代の科学からみても理にかなっていたというのは、ちょっと感動的ですね。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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