食生活・栄養知識

パエリアライスはなぜ黄色い?サフランで色づける理由・健康効果の有無

【大学教授が解説】パエリアは有名なスペイン料理の一つですが、香辛料の王様ともいわれる高価なサフランで黄色く色づけられたお米も特徴です。パンが主食のヨーロッパでなぜ米料理のパエリアが根付いたのか、なぜわざわざ黄色くするのか、パエリアやサフランに健康効果はあるのか、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

パエリアとは……たっぷりの具材と黄色いお米で知られるスペイン料理

サフランを使用したパエリア

サフランで黄色く色づけられたパエリア。有名なスペイン料理の一つです

スペイン料理といえば、みなさんは何を思いつきますか。そう、多くの方が「パエリア」と答えることでしょう。筆者も大好きです。

パエリアは、専用のフライパンで野菜、魚介類、肉などたっぷりの具材を炒めた後、米と水を加えて炊き上げて作られます。具材のスープがたっぷりしみ込んだお米がとてもおいしいですね。
加えて、鮮やかな色合いが食欲をそそります。とくに、黄色く色付けされたお米が特徴です。

今回は、パエリアのお米はなぜ黄色いのか、色の成分とその健康効果の有無について解説します。
 

パエリアの語源……本来は料理名でなく調理法?「金属製の鍋」が由来

パエリアという料理名は、もともと「金属製の鍋」を意味するスペイン語の「paella」に由来するそうです。つまり、パエリアは、中身よりも料理の仕方を表した言葉なのです。

日本のスペイン料理店などでは、イカやエビ、ムール貝などの魚介類が入った海鮮料理としてパエリアが提供されていますが、スペイン現地では必ずしも魚介類を入れるわけではないそうです。元来のパエリアに入っていたのは、鶏肉やウサギの肉、いんげん豆などだそうで、その後に魚介類の入ったものが特別メニューとして考案され、「paella mixta(ミックス・パエリア、「混ぜご飯」という意味)」と呼ばれて提供されるうちに、「パエリアといえば魚介」というイメージが広まったようです。
 

パンが主食のヨーロッパ。スペインで米料理が根付いたのはなぜ?

ヨーロッパ各国は、パンが主食のことが多いのに、なぜ米料理がスペイン料理の代表となったのでしょうか。

スペインで本格的に稲作が始まったのは、8世紀ごろといわれています。このころスペインは、イスラム教徒軍によって征服され、もともと米を食べる習慣があったイスラム人がたくさんこの地を訪れたことと、スペインの湿地帯が稲作に適していたことが重なって、稲作が始まり広がっていったそうです。

そして、パエリアが生まれたのは、バレンシア地方にあるアルブフェラ湖周辺だといわれています。この辺りでも、稲作が盛んに行われていましたが、農作業をしていた人々が、屋外で火をおこし、お米と身近な食材を適当に混ぜて炊いて食べたことが始まりだそうです。今のように洒落たお店で、ゆったりと食べるものではなく、もともとは農作業の合間にちゃちゃっと手早く作れて栄養になる料理として定着したようです。しかも、取り皿なんか用意せず、鍋に直接各人がスプーンを入れてつついて食べていたのだそうです。

その名残りでしょうか、今でも現地では、家族や親しい仲だと、家の中で食事をするときでも、同じ大きなパエリア鍋からみんなが直接スプーンですくって食べているそうです。パエリアは、私たち日本人にとっての鍋料理や鉄板料理みたいなものですね。
 

パエリアにも使われる香辛料・サフラン

多くの方がご存知のように、パエリアのお米についた黄色の元は、サフランです。サフランは、学名 Crocus sativus L. のアヤメ科の多年草ですが、そのめしべを乾燥させた香辛料のこともサフランと呼ばれます。
 
サフラン

香辛料として知られているサフラン。アヤメ科の多年草であるサフランのめしべを乾燥させて作られます

植物としてのサフランは、その学名からうかがえるように、早春の球根植物として親しまれているクロッカスの仲間ですが、クロッカスとは違って、育つのは秋です。そのため、自分でサフランを育ててみたい方は、晩夏~初秋の間に球根を土に植えましょう。秋になると、松の葉の様な細長い針状の葉を出しつつ、比較的大きな紫色の花を咲かせます。

上の写真のように、6枚の花弁の中央には、赤く長い雌しべが伸びていて、その周りに短めの黄色い雄しべが3本ついています。赤い雌しべは3本あるように見えますが、実際には根元が1本でその先端が3つに枝分かれしているだけなので、雌しべは実質1つです。そして、この雌しべこそが、香辛料として使われる部分です。ちなみに、サフランの属名のCrocusは、糸を意味するギリシア語の krokos に由来するとされ、糸のような赤い雌しべが昔から注目されていたことがうかがえます。

香辛料としてのサフランを収穫するには、花が咲いたらできるだけすぐに、赤い雌しべを抜き取ります。遅くなると含有成分が抜けてしまうからです。朝方に開花するので、花が咲いているかどうか毎朝チェックして、咲いていたらすぐに取るのがコツです(サフラン自身からすれば迷惑な話ですが……)。収穫した雌しべは、キッチンペーパーなどの上に置いて日陰で乾燥させます。ただし、軽くて飛んでいきやすく、風が吹くところに置いておくと無くなってしまうこともありますので気をつけてください。乾燥したら、乾燥剤を入れた密閉容器に入れて保管しましょう。ただし、時間が経つと風味が落ちてしまいますから、1年以内に使い切りましょう。

サフランの原産地については諸説ありますが、イラン原産という説が有力視されています。そして、上述したように、イスラム教徒軍がスペインを支配した8世紀ごろに稲作が伝えられたのとほぼ同時期に、サフランも持ち込まれ、サフラン栽培がスペインで始まり、お米とサフランが出会うことになったのです。

なぜパエリアのお米はサフランで黄色く色付けられるようになったのか

香辛料のサフランは赤色をしていますが、お米と一緒に炊くと、お米が黄色に染まります。これは、サフランの含有成分の一つ「クロシン」の性質に由来します。

クロシンは、カロテノイド系色素(カロテノイドについて詳しく知りたい方は、「妊婦さんは食べ過ぎ禁物?うなぎの栄養素とビタミンA過剰摂取リスク」をお読みください)のクロセチンに、2~4分子のグルコースがエステル結合した化合物です。クロセチンは脂溶性で水に溶けにくいのですが、糖が結合したクロシンは比較的水に溶けやすいです。そのため、米とサフランを水で炊き上げると、サフランからクロシンが溶け出して米に色が付くのです。しかも、水が存在しない結晶状態のクロシンは赤色ですが、温水中のクロシンは橙色~黄色に見えるので、サフランライスは黄色をしているのです。

お米とサフランが同時にスペインで広まったとしても、必ずしも両方を混ぜる必要はないですよね。スペインの人々がこれを一緒にしようとしたのには、何らかの理由があるはずです。これについては諸説あるようですが、もっとも有力な説を紹介しましょう。

結論から先に言ってしまうと、「金の代わりにサフランを使った」のです。

金は、展延性に富み、化学的に反応性が低い固体金属で、古くから世界中で貴重な存在として人々を魅了してきました。そして、中世ヨーロッパでは、金を食べれば健康になると信じられるようになりましたが、あまりに高価なので実際には金を料理に使うことは難しかったでしょう。そこで、見かけだけでも黄金色にした米を食することで健康になれると信じ、サフランなどを使って色付けをするようになったというのが有力な説です。
 

非常に高価なサフラン、健康効果は?

金の代わりにサフランを使ったというと、サフランが金に劣るように聞こえてしまうかもしれませんね。確かにパエリアがスペインの地方で誕生したころは、お米もサフランも自前で育てていたため「手軽な材料」という扱いだったのかもしれません。しかし、今では、金が金属界の王様であるのと似て、サフランは香辛料界で同じくらいの存在です。一つの花から3本しか取れないサフランを1g集めるには、およそ160個の花が必要といわれ、しかも一つ一つ手摘みで収穫するという手間がかかっている(1kgのサフランを摘むのには40日間昼夜働かなければならない)ため、非常に高値(標準的で良質のものなら1gで1000円以上、最高級品はもっと高い)で取引されています。

ただ、金にしろサフランにしろ、本当に健康に良いかといえば、実際のところは不明です。昔の人が信じていたほどの意味はないかもしれません。しかし鮮やかな黄色や独特な香りが食欲をそそり、栄養豊富なパエリアを楽しんで食べることこそが、健康効果につながるのではないでしょうか。

また、近年は、サフランに含まれる成分の研究も進んでいます。筆者自身も、認知症治療薬に関する研究の一環として、サフランに含まれるクロシンの薬効研究を行い、記憶障害を改善する効果があることを発見し、論文発表しました(J Pharmacol Exp Ther 271(2): 703-707, 1994)。詳しい話は、また別記事で解説したいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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