食生活・栄養知識

蕎麦湯(そば湯)の栄養・健康効果…飲み方、楽しみ方は?

【大学教授が解説】蕎麦湯(そば湯)とは、そばをゆでたあとのゆで汁です。残ったそばつゆに加えて飲むのが一般的で、そば湯に含まれる栄養や健康効果への期待もあるようです。一方で、抗酸化作用や血流改善効果があると言われる栄養分・ルチンについては、議論もあります。わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

蕎麦湯(そば湯)とは……そばをゆでたあとのゆで汁・一般的な飲み方は?

そば湯をお勧めする理由

そば湯をお勧めする理由とは?


みなさんは、おそば屋さんに行ったときに、温かいそばと冷たいそばのどちらを食べますか? 個人的な話で恐縮ですが、私は冷たいそばを注文することが多いです。理由は「そば湯がついてくるから」です。

多くの方がご存じでしょうが、そば湯とは、そばをゆでたあとのゆで汁です。そば屋さんでは、それをそのまま、あるいはお湯で少し薄めて、急須のような入れ物に入れて出してくれます。冷たいそばをつけて食べ残したつゆに、このそば湯を加えて飲むのが、一般的なそば湯の飲み方です。

ちなみに、そばをゆでているとお湯が濁り、そのままゆで続けると、そばがくっついたり風味が損なわれることがあります。そのため濁ったお湯を一部回収し、きれいなお湯を足してゆで上げます。この途中で回収されたお湯が、そば湯として提供されていることが多いです。

味はあまりありませんが、白く濁ってとろみがある独特の液体なので、何となく苦手という方もいるかもしれません。でも私は、飲んだときに味わえるほのかな甘みとそばの香りが好きです。私が通っているそば屋さんでは、温かいそばを注文したときには出してくれないので、あえて冷たいそばを注文して最後にそば湯を楽しんでいるというわけです。
 

そば湯の歴史……江戸時代の信州から始まった風習

また個人的な話で恐縮ですが、私は四国生まれで、子供のころにそば湯を飲んだことがなく、18歳で上京してからその存在を知りました。

そば湯を飲む風習は、江戸時代の信州、現在の長野県で生まれたそうです。そばの栄養分が溶け出したゆで汁を捨ててしまうのはもったいないという考えから始まったようです。胃腸の調子を整えてくれる薬のようなものとして利用されていたという説もあります。いずれにしても、この風習が江戸に伝わり、徐々に全国に広がっていったのです。ただ、関西や四国では、麺と言えば「うどん」が主流。私自身もそばは年越しのときくらいしか食べていませんでしたから、そば湯の文化に触れることが少なかったのだろうと思います。
 

「ソバ」という植物から作られる「そば」

一般的には、「そば」と平仮名で書くと食べ物を意味し、「ソバ」と片仮名で書くと植物を意味します。どちらも漢字では「蕎麦」と書きます。

植物としてのソバは、タデ科の一年草です。その収穫した実をひいて粉末状(いわゆる「そば粉」にし、水を混ぜてこねたものを薄くのばし、食べやすいように細く切ったものが、まさに「そば」ですね。つなぎとして小麦粉を使う割合によって、「十割そば」(小麦粉を使わない)や「二八そば」(小麦粉を2割混ぜたもの)などがあります。また、鶏卵や山芋、こんにゃくなどをつなぎとして利用した独特のそばもあります。

こね方や切り方でも、コシや食感が変わります。私自身、ある地方に旅行したときに「そば打ち体験」をしたことが何度かありますが、下手くそな自分が作ったそばでもそれなりにおいしいとは思いましたが、他の人に食べさせられるものではありませんでした。そば作りは奥が深いなと感じました。
 

そば湯の栄養・効果……そばに含まれる水溶性の栄養も摂取

「そば」には、「ソバ」に由来する栄養分として、でんぷんや食物繊維などの炭水化物、ナトリウムやカリウムなどのミネラル、植物性タンパク質に加え、ビタミンB群を中心としたビタミン類が豊富に含まれています。加熱調理の過程で、栄養分の一部は壊れてしまいますが、それでも私たちが最終的に食するそばには、しっかりと栄養分が残っています。ただし、水に溶けやすい成分は、ゆでるときのお湯の中に出てしまうことがあります。そもそも、ゆでたときにお湯が濁るということは、そばに含まれていたものが溶け出している何よりの証です。

そうしたお湯に溶け出した成分も、捨てないで摂取しようという点で、そば湯を飲むことは良いことだと思います。

ただ、でんぷんや塩分が溶け出しているのだとすれば、そば湯を飲むと、カロリーや塩分のとりすぎになるのではと心配される方もいるかもしれませんね。しかしよく考えてみると、たっぷりのお湯の中に何人前ものそばを入れてゆでたときのお湯を、小さなコップ1杯程度飲んだからと言って、カロリーや塩分が多すぎになることはありません。むしろ気にしなければならないのは、そばが健康にいいからと言ってたくさん食べ過ぎてしまうことや、そば湯と一緒にめんつゆをすべて飲み切ってしまうことではないでしょうか。もともと提供されためんつゆが少しなら問題ないですが、器にたくさん残っためんつゆが全部なくなるまで飲み切ると、塩分の摂り過ぎになる恐れがあるので、注意しましょう。
 

そばの栄養分「ルチン」に関する論争…実際に健康効果はあるのか?

そばの栄養分としてよく話題になるものに「ルチン」という物質があります。ポリフェノール類の一種で、ソバの実以外にも、アスパラガス、果物(特にオレンジ、グレープフルーツ、レモン、ライムといった柑橘類)、クワの実などにも含まれています。

ルチンは、ポリフェノール類にほぼ共通した性質として抗酸化作用があり、さらには炎症を鎮める効果や、血小板凝集を阻害したり、毛細血管を強化するなどして血流を良くする効果などが報告されています。そのため、そばの健康効果がルチンの作用によって説明されることが少なくありません。また、他の栄養分と同じように、そばをゆでるときにこのルチンが溶け出してしまうと推察され、「ルチンをきちんと摂取するにはそば湯を飲むべき」という主張もあるようです。

ただし、ルチンがそば湯に含まれているのかという点については、様々な意見があり、ネット上でもちょっとした論争になっています。こちらについては、別記事で詳しく解説したいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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