食生活・栄養知識

コレステロールとは…「悪者」ではなく、体に大切な役割も

【薬学博士・大学教授が解説】血中コレステロール値が高いのは問題ですが、実はコレステロール自体が健康を害する悪者なわけではありません。過剰摂取は動脈硬化や、脳梗塞・心筋梗塞のリスクを上げますが、一方で私たちの体に欠かせない物質でもあるのです。コレステロールの役割について、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

コレステロールは悪者ではない? 実は体に必須な役割も持つ物質

コレステロールの役割

高コレステロールは問題ですが、コレステロールは体に欠かせない大切な役割も持っています

「コレステロール」は体に悪いもので、健康のためにはできるだけ食べないほうがいいと思っている方が多いのではないでしょうか。健康診断の血液検査で「コレステロール値が高いので気をつけてください」と指摘されたことのある方も多いことでしょう。

コレステロールは脂質の一種で、血中に多くあると動脈硬化を引き起こす要因となり、場合によっては脳梗塞や心筋梗塞などの致命的な病気をもたらす可能性があることは事実です。そのため健康診断で血中コレステロール値が検査されているのですが、実はコレステロールは、私たちが生きていくうえで欠かせない物質でもあるのです。コレステロールが高すぎるのは問題ですが、コレステロールが不足してしまうと、生きていけなくなることさえあります。

私たちの体の中で、コレステロールが果たしている大切な役割について、わかりやすく解説します。
 

コレステロールの役割1. 細胞膜をつくる

細胞は、英語でcell(セル)と言いますが、それは「小さな部屋」という意味で、1665年にこの構造を発見したイギリスのロバート・フックによって命名されました。そして、細胞を細胞たらしめているのは、「細胞膜」の存在です。細胞膜という仕切りによって区別される部分が、細胞ということになります。

細胞膜のつくりは、生物種によって多少異なりますが、基本的には、油脂の一種である「リン脂質」が規則正しく2層に並んだ「脂質二重層」と呼ばれる構造でできています。石鹸を水に溶かし、ストローに少しつけて吹くとシャボン玉ができますね。実は、私たちの細胞膜を作る「リン脂質」は、石鹸の主成分である「脂肪酸塩」と同じ部類の物質ですので、細胞膜とシャボン玉は同類のものと考えてよいでしょう。そして、シャボン玉は弱くてすぐに壊れるのと同じように、細胞膜もリン脂質だけだと非常に弱いです。外力がかかると、簡単にかき乱されてしまいます。そんな脂質二重層を守っているのが、コレステロールです。

コレステロール分子は、細胞膜の脂質二重層のところどころに入り込んで、リン脂質分子どうしの隙間を埋めています。荷造りの際、荷物が動かないように隙間に詰める物を「パッキン」と言いますが、細胞膜に入り込んだコレステロールは、まさにパッキンのような役割を果たしています。細胞内外の物質の移動を制限するのに役立っていますし、外力が加わっても細胞膜がこわれないような「しなやかさ」を生み出すのにも役立っています。

ですから、コレステロールが無ければ、私たちの体を作っている細胞を保つことができず、まったく生きていけないということです。
 

コレステロールの役割2. ホルモンの原料になる

アトピーやぜん息などアレルギー関連の病気の治療に「ステロイド剤」と呼ばれる薬が使われるのはご存知かと思います。それらのステロイド剤は、もともと私たちの体の中で働いている「副腎皮質ステロイド」と総称される物質が強い抗炎症・抗アレルギー作用を示すことが分かり、その作用を医薬品として応用したものになります。

副腎は、左右の腎臓の上にある小さな三角形をした臓器で、その外側の「皮質」という部分からは、いろいろなホルモンが分泌されて、私たちの体の働きをコントロールしています。主に糖質代謝などの調整を担うものは「糖質コルチコイド」、主にミネラル分の調節を担うものは「鉱質コルチコイド」(アルドステロン)と総称されますが、それらのホルモンはすべてコレステロールを原料にして、体内で作られます。

また、女性の卵巣で産生・分泌される女性ホルモンや、男性の精巣で産生・分泌される男性ホルモンも、ステロイドホルモンの一種であり、すべてコレステロールを原料にして作られています。

ですから、コレステロールがないと、私たちの体の働きを調節するホルモンが作れなくなってしまうのです。
 

コレステロールの役割3. ビタミンの原料になる

私たちの体を支える骨がカルシウムでできているのはご存知でしょう。私たちの体内に存在するカルシウムの量は、巧みに調節されており、その一役を担っているのがビタミンD3です。ビタミンD3は、私たちが食物から摂取したカルシウムが腸管から吸収されて体に入るのを助けたり、カルシウムが尿中排泄され過ぎないように回収するのを助けたります。「カルシウムとビタミンDで骨を丈夫に」と言われるのはこのためです。

ビタミンDを食物から摂取する場合は、魚類が主な摂取源となりますが、ビタミンDは、コレステロールを原料として体内でも作ることができます。具体的には、コレステロールが7-デヒドロコレステロール(別名:プロビタミンD3)に変換された後、主に皮膚で紫外線があたると、さらにプレビタミンD3に変換されます。そして、肝臓や腎臓における代謝反応を経て、最終的に活性のあるビタミンD3(活性型ビタミンD3)となって、健康な骨を維持するのに役立ちます。

ビタミンDを食物摂取だけに頼ると不足してしまい、骨が弱くなってしまいますから、それを避けるためにも体内にコレステロールがなければならないのです。
 

コレステロールの役割4. 消化液(胆汁)の原料にもなる

キッチンの流しに油脂をそのまま捨ててはいけない理由は2つあります。一つは、環境に悪影響があるからです。もう一つは、油脂が固まってパイプ詰まりの原因になるからですね。それと似たように、私たちが、油脂分多めのこってり料理を食べたときには、お腹の中の消化管内で固まってトラブルを起こすかもしれませんね。でも実際には、めったにそうならないのは、消化管内で、油脂分を「乳化」することのできる成分が消化液として分泌されているからです。

乳化とは、「互いに混ざり合わない液体の一方を微粒子にして他方に分散させること」と定義されますが、多くの場合は、水に溶けない油脂分を水に均一に混ぜ合わせた状態を指すことが多いです。肌の保湿・保護のために使われる「乳液」や「クリーム」は、乳化したものの一例です。水性の成分と油性の成分は、混ぜても時間とともに分離してしまいますが、「界面活性剤」と総称される添加物を加えることにより、分離しないで均一に分散した状態を保つことができるようになったものです。これと同じ原理で、私たちの消化管の中で、水と油がうまく混じり合うためには、「界面活性剤」のようなものがあればいいですね。実はその役割を果たしているが、「胆汁酸」です。

胆汁酸は、肝臓でコレステロールを原料として作られ、胆汁の成分として胆管を通って、十二指腸内に排出されます。胆汁酸は、水と油の両方と仲良くできる性質(界面活性作用)があるので、腸管内で油脂分を乳化して、その消化・吸収を助ける働きをします。

コレステロールは、消化機能にも重要な役割を果たしているのです。
 

体内で作れるコレステロール。役割を理解しつつ、過剰摂取に注意を

まとめると、コレステロールがなければ、私たちは肉体を形作ることもできないし、正常に生きていくこともできないのです。

「じゃあ、一生懸命コレステロールを食べなきゃいけないの?」そう思われたかもしれませんが、ご心配なく。上でもふれたように、私たちはコレステロールを自分の体内で作ることができます。その役割を主に担っているのは、肝臓です。具体的には、肝臓では、アセチルCoAという物質を原料として「メバロン酸経路」と呼ばれる段階的な化学反応を経て、常にコレステロールが生合成されています。

「悪者」扱いされているのは、過剰なコレステロールを食物から摂取した場合です。必要なコレステロールを作ってくれる肝臓をいたわるとともに、コレステロールが過剰にならないように、バランスのとれた食事を心がけることが大切ですね。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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