Q. プラセボ効果って何ですか? 「偽薬」が役に立つことはあるんでしょうか?
プラセボ効果とは
「プラセボ効果」という言葉があります。実際には効果がある成分が入っていない偽薬でも、薬だと信じて飲むことで、症状が緩和される効果があることが報告されています。実際にどのように役立つのでしょうか?
Q. 「『プラセボ効果』とは、医学的にも本当に存在するのでしょうか? 本当は何の効果もない『偽薬』で症状が軽くなると言われても、何となく非科学的で騙されているような気がしてしまいます。プラセボ効果が実際に役に立つことはあるのでしょうか?」
A. 薬には「心理的効果」もあります。偽薬も使い方によっては、とても役立ちます
私たちが病気を治すために利用する薬の効果には、本当の薬の作用以外に、心理的な効果も含まれることが知られています。とくに、眠りや痛みなどは精神状態に左右されやすい事象なので、睡眠薬や鎮痛薬などの効果は、使用者の心の持ちようによって変わることがあります。たとえば、医師から「この睡眠薬はよく眠れますよ」と言われて飲んだ場合の方がよく効くこともありますし、場合によっては、実際には薬の成分が入っていない見せかけの錠剤を「睡眠薬」と称して飲んでもらうだけでも「よく眠れた」なんてこともあり得ます。こうした現象は「プラセボ効果」(プラシーボ効果)と呼ばれます。
「プラセボ(placebo)」は、「喜ばせる」という意味のラテン語が語源です。患者を満足させるために用意されたもので、見た目は薬と同じですが薬効成分を含まないので、「偽薬」とも呼ばれます。そのプラセボによってもたらされる効果が、プラセボ効果です。
プラセボ効果は、本当の薬の効果とは違うので、厄介なようにも思われますが、うまく利用することもできます。
たとえば、睡眠薬や鎮痛薬は、長く使い続けると習慣性などができることが問題です。また、急に薬を飲むのをやめると、その反動でかえって不眠や痛みがひどくなることがあるので、少しずつやめる必要があります。しかし、「薬を使う頻度を減らしてください」「薬を徐々にやめてください」と患者さんに指示しても、「眠れない」「痛い」と辛い思いをしている患者さん自身が薬を減らすというのは難しいものです。そこで、医師の方でわざとプラセボを使うのです。「いつもと同じ薬を出しておきますね」と言いながら、実際にはプラセボを出すと、それを飲んだ患者さんはいつもと同じ効果を感じながら、知らない間に休薬ができるのです。気がついたら、睡眠薬に頼らなくても不眠症が治っていたなんてこともあるのです。心理的な効果をうまく利用した治療法とも言えるでしょう。
ただし近年は、患者さんをだましてプラセボを使うのは、倫理的に良くないと考えられるようになり、あまり行われなくなってきました。しかし、プラセボの効果は実際にあるので、何とか利用できないかということで、最近は、ちゃんと患者さんにプラセボを飲んでもらうことを説明し、同意を得たうえで、プラセボを使うという考え方も出てきました。
プラセボ効果は、患者さんが医師の言葉を信じているからこそ現れるもので、患者さんが「本当に効くのかな」と疑いの目を医師に向けたときには現れないと思われてきましたが、最近の研究では、患者さんが偽物だと知って使ったとしても、ちゃんと効果はでることが分かってきました。本物だろうが偽物だろうが、「薬を飲む」という行為によって心が満たされることも、病気の治療に役立つこともあるようです。
もう一つのプラセボの有効活用としては、新薬の臨床試験における「対照」として使えるということです。
何かの病気に対する新しい治療薬を開発したいときには、その薬が本当に効くことを実証しなければなりません。しかし、薬の効果には心理的要因も影響するので、それを区別しながら「真の薬効」を評価する必要があります。そのためには、患者さんが自分に与えられるものが何かを知らない状態で、本物の新薬とプラセボを飲んだときの効果を比較し、プラセボよりも新薬の効果が明らかに上回っていたときに、真の薬効があるとみなせるのです。
プラセボ効果は、場合によっては本当の薬の効果を見誤ることがあるというマイナスの側面も示していますが、逆の見方をすれば、私たちが病気に打ち克つためには、薬だけではなく、前向きな心の持ち方も大切だということを教えてくれているように思います。