「お金の使い方、今のままでよいのかな?」と思ったときに
「人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った」という一文から始まる、原田ひ香さんの著書『三千円の使いかた』(中公文庫)をご存じですか? この作品は、御厨(みくりや)家の三世代の女性たちが、人生の岐路で、お金の使い方、価値観を見直しながら、自分らしい人生を選択していくお話です。将来に不安を感じ「お金の使い方、今のままでよいのかな?」と考えるとき、とても参考になる良書だと思います。今回は、この物語に登場する4人の女性を紹介しながら、自分らしい生き方のモトになる、お金の価値基準を知るためにどうしたらよいか考えてみましょう。
人生の岐路は会社の先輩のリストラ:御厨美帆
御厨家の次女・美帆は、就職して、理想のひとり暮らしをしています。しかし、会社の先輩がリストラにあったことなどがキッカケとなり、「今の生活も、何かがあれば変わってしまうかも?」と懐疑的になります。そして、今まで価値を感じていた生活が浪費的だったと、美帆は反省します。その後は、セミナーに参加したり、家族や会社の先輩などの話を聞いたりしながら、節約や貯蓄などにも積極的に取り組みます。美帆のお話は、「今まで、お金についてあんまり考えていなかった……」という人が参考になりそうです。
人生の岐路は友人の結婚:井戸真帆
美帆の姉である真帆は、公務員の夫と3歳になる娘を持つ専業主婦。家族の将来のため「1000万円を貯蓄すること」を目標にしています。結婚前は、証券会社に勤務していたという経歴があり、お金のリテラシーがとても高い女性です。毎月、定額を先取り貯蓄したり、株式投資をしたりで、結婚6年目にして600万円を貯蓄しています。目標に向かって一直線の真帆ですが、友人の結婚話に心が揺れます。真帆のお話は、「貯蓄や節約に興味があるけどなかなか続かない……」という人、「もっと、もっと貯蓄上手になりたい!」という人などが参考になりそうです。
人生の岐路は更年期と病気:御厨智子
美帆・真帆の母である智子は、バブル期のOLを経て、結婚。その後、パートで働いていました。子育てが一段落してからは、専業主婦となり、いろんな習い事をしながら、老後は海外旅行をする夢を持っています。しかし実際のところは、夫の給料が上がっていなかったり、娘たちの教育資金や住宅のローン、家のメンテナンスなど、思った以上にお金がかかり、貯金がほとんどないという現実があります。そのうえ、更年期での体調変化や病気が重なり、不安が大きく膨らんでいます。智子のお話は、「更年期になったとき、病気になったとき、どんなことを考えるのかな?」「何か、備えておいた方がよいかな?」など、体調の変化、老後の備えに関心がある人が参考になりそうです。
人生の岐路は将来の介護:御厨琴子
琴子は、美帆・真帆の祖母です。夫を亡くし、ひとり暮らしをしています。琴子は、高度経済成長期という恵まれた時代を過ごしてきたこと、結婚当初からコツコツと家計簿をつけてきたこともあり、1000万円の貯蓄があります。年金生活を送る今は、園芸などの趣味を楽しみながら、悠々自適に暮らしているように見えます。しかし実際は、将来、自分が介護になったことを考え、安易に虎の子に手を付けられない状況です。琴子のお話は、「年金だけでは、生活費が少し不足するかもしれない……でも、自分らしく生きたい!」と思う人が参考になりそうです。
お金の問題を乗り越えるカギは、明確な価値基準を持つこと
上記に紹介した4人の女性のように、生きていれば、結婚・出産、老後生活や親の介護など、さまざまなタイミングで、お金の問題が立ち上がります。そのピンチで不安に押しつぶされてしまうか、乗り越えられるかのカギとなるのは、自分なりのお金の価値基準が明確になっているかどうかではないでしょうか。お金の価値基準が明確であれば、自分が価値があると感じるモノ、効果のあることに優先してお金を使うことができます。一方、不明確であれば、価値を感じないモノにうっかりお金を使ってしまうことでしょう。お金の使い方にメリハリがなければ、ムダ遣いが多くなり、手元にお金は残りません。いつまでもお金の心配を持ち続けることになります。
そうならないためにも、タイトルとなっている「三千円の使いかた」を、日々意識することは必要だと思います。3000円というのは、2~3人家族を目安にすれば3~4日分の食費になることもありますが、少し贅沢なランチ代となる場合もあります。同じ3000円でも使い方はいろいろあります。そういった細かな支出を日々振り返ることが、自分なりのお金の価値基準を磨くことにつながります。まずは、支出の管理をしっかりすることからはじめてみましょう。