険悪な雰囲気になりたくないから
「うちの夫、帰ってきて夕食後、子どもたちとテレビを観たりしながら、急にため息をつくんですよね。それも子どもにはわからないくらい、かすかに(笑)。そして子どもたちが寝てしまうと、今度は本格的に『ああ』とため息。私が『どうしたの』『何かあったの』と聞くのを待っているんです」苦笑しながらそう言うのは、リカさん(43歳)だ。結婚して14年、13歳と10歳の子を共働きで育てている。ふたりとも仕事をやりくりして時間をひねり出していたが、ここ2年ほどはリカさんが週に3回はリモートワークになったため、とても楽になったという。
「肉体的には楽になりましたが、夫のため息が増えたので、それにどう対処するかという意味では精神的にはつらくなったかも(笑)」
そう言いながらも、リカさんは夫に「どうしたの」と声をかける。声をかけないとひねくれてしまうのがわかりきっているからだ。拗ねられたらめんどうだから、早めに聞いたほうがいいのだという。
「まあ、だいたい仕事の愚痴ですよね。私だって仕事上、いろいろありますよ。リモートだろうが出社だろうが、それは同じこと。でも夫はいつも『オレだけがいつも貧乏くじをひくんだよな』と。他部署から異動してきた上司がひどいとか、今年の新入社員が気がきかないとか。言ってもしょうがないことばかり。まあ、だから愚痴なんですけどね」
そこで「私のほうが悲惨だよ」と言っても始まらない。リカさんは夫にさんざん愚痴らせて、「ま、がんばってればいいこともあるよ。あなたの努力は誰かが見ている」と言うことにしている。
「でも先日、夫は『きみの励まし方はいつも同じだな』とうなだれていました。バレちゃったので、次は文言を変えようと思います」
妻が優しくしているうちが花かもしれない。あと何年かたつと、夫の愚痴も聞いてくれなくなる可能性もある。妻だって忙しいのだから。
“かまってちゃん夫”の言うことはスルーで
「うちの夫、“かまってちゃん”なんです。小学生の息子より、『今日はこんなことがあってね』という話が多い。私は完全にスルー。右から左に流す感じですね」そんな塩対応をしているのは、サツキさん(46歳)だ。中学生の娘と小学生の息子がいるが、子どもたちより自立していないのが家庭での夫。
「夕飯時、最近はさすがにビールを自分で冷蔵庫に取りにいくようになりました。前は『ママ、ママ、ビールとって』と言っていたんですが、娘に『自分でやりなさいよ。ママは今、忙しいんだから』と冷たく言われて、それ以来、自分でやっています。でも食卓でもっともおしゃべりなのが夫。息子は『僕の話も聞いてよ』と拗ねています」
仲良し家族が浮き彫りになってくるかと思ったのだが、サツキさんによると少し様子が違うらしい。夫がしゃべるのはかまわない。だが息子の話を、父親として聞こうとしないのが腹立たしいというのだ。
「だから当然、私は夫の話より息子の言い分を聞きます。友だちとケンカしていないのか、いじめに加担していないのか、逆にいじめられていないのか。成績云々より、そういうことが気になりますから」
すると夫は夜、夫婦の寝室で「オレの話は聞いてくれないの?」とかまってちゃん全開となる。
「父親としてもっとしっかりしてほしい。その上で私に甘えるのは大人同士としていいけれど、まずは親として息子の話を聞きなさいと説教してしまいました。夫はシュンとしていましたね。悪い人ではないのですが、それからもちょっと気を緩めると『今日ね、会社でね』と始まってしまう。娘なんてすごく冷たい目で見ています。それも気になるところ」
親としてしっかりしなければとがんじがらめになるよりは、「頼りにならないお父さん」でもいいのかもしれないが、息子の話より自分のことを優先させるのは妻から見れば心配にもなるだろう。
「かまってちゃん夫には、常にしっかりしろーって言っています。全然しっかりしてくれないけど。私が夫に何かを相談することはほとんどありませんが、最近は、娘の意見がおもしろいので、いろいろ相談しています」
自己中になりすぎない「かまってちゃん」なら、妻も歩み寄る余地はあるだろうが、いきすぎると将来、妻が夫を見捨てる日がきそうで不安である。