「快適な温度」には個人差がある
夏になると「夫とは別室で生活する」というのは、ヨシミさん(39歳)だ。結婚して9年、7歳と4歳の子がいるが、3歳年上の夫は極端なほどの寒がり。「ママ友の中には、夫が設定温度を低くするから寒くてたまらないと文句を言っている人が多いんですが、うちは逆。夫は冷房に弱すぎて、すぐ頭が痛いだのなんだのと文句を言い出すんです。真夏に29度に設定しているから、子どもたちも暑くてたまらないと言い出す。マンションなので密閉率も高く、建物全体が暑くなっているからなかなか室温も下がらないんですよ。でも夫はそれでも寒くなると言い出して扇風機でじゅうぶんだと言い出す始末」
そこで数年前から、夏になると夫は書斎代わりにしている3畳ほどの物置部屋にこもるようになった。窓は開くが狭くて暑い。夫は帰宅して食事を終えると、すぐにエアコンのないその部屋で、小さな除湿機だけを頼りに生活、そこで寝ている。
「水分はとるように言っていますが、なんだか熱中症になるんじゃないかと心配で、夜中にときどき覗いています。でも夫はエアコンを使わないほうが体調がいい、と。そういう人もいるんだなと思いますね」
ヨシミさんと子どもたちは、冷房の効いたリビングで食事をし、遊んだりしながら過ごす。子どもたちが寝る部屋は、夜中もエアコンを高めに設定してつけたままだ。
「私はひとりでのうのうと夫婦の寝室で寝ていますが、やはり真夏は28度くらいにしてエアコンをつけたまま寝ています。暑すぎると体力を奪われて、翌日の仕事にも差し支えますから」
夫は起きてくると「寒いなあ」と言いながら、食事もそこそこに出かけていく。真夏になると家族の団らんが減るのが、目下のヨシミさんの悩みだという。
「秋口になると夫もリビングでのんびりできるようになります。真冬はエアコンをつけますが、夫はさらに重ね着するなどして対応。寒い場合は着ればなんとかなりますし、夫だけ家の中でカイロを貼っていることも。人によって快適な温度は大きく違うものだなと思いますね」
夫の「寒がり」は、毎年ひどくなるような気がすると彼女は言う。
エアコンのリモコンを隠されて
「温度の問題だけではありませんが、私はエアコンのリモコンを夫に隠されて離婚しました」そう言うのはミホコさん(40歳)だ。32歳のとき、4歳年上の男性と結婚、ひとり娘をもうけたものの生活は4年ももたなかった。
「夫があまりに節約家すぎて、ついていけなくなった。つきあっているときは、ごく普通だったんですよ。デートのときは彼が食事代を払ってくれたら、私が次の映画代を払うというようなアバウトな割り勘だったし、誕生日にはプレゼントもくれました。そんな高価なものではなかったけど、別に私は高い物がほしいわけではなかったから、気持ちがこもっていればうれしかった。結婚してから変わった、というか本性を出してきたのかもしれません。家計にも細かくて、週に1度は家計簿をチェック。私も仕事をしているので、なぜいちいちチェックされなければいけないのか不思議でした」
妻には給与明細を見せろと迫ったくせに、自分は見せない。5万円だけ渡して、食費と雑費を全部やりくりしろと言われた。そこには光熱費は含まれないが、携帯代金やガソリン代は払わなければならなかった。
「私の収入は、光熱費以外、全部貯金に回せと。5万円ではどうにもならないので、あと5万かそれ以上、私が出していました。あるとき光熱費をチェックした夫が『電気代が高すぎる。冷房や暖房を考え直そう』って。それでエアコンが使えなくなったんです。当時、とても暑い日が続いていて、3歳前の娘が暑がって……。扇風機や保冷剤を使いましたが、休みの日などかわいそうで。夫は週末も出社したり、どこかに出かけたりしてしまう。いないすきにエアコンをつけようと思ったらリモコンがなかったんです」
夫にLINEでリモコンのありかを尋ねたら「使わなくていい」との返事。愕然としたミホコさんは実家に連絡、身の回りのものを持って娘を連れて戻った。
「夫はたかがリモコンくらいでめんどうなことするなと電話で激怒したんです。それを聞いていた父が、『たかがリモコンじゃない。この暑さでエアコンをつけないことが問題なんだ。うちの娘と孫の健康をどう考えているんだ』と怒鳴りつけてくれた。こんな情けない惨めな思いをしながら生活しなくてもいいと思い、そのまま別居。2年前にようやく離婚が成立しました」
冷房に対する考え方は人それぞれ。譲り合って解決するのが望ましいが、話し合う余地がない場合は、行動に移したほうがよさそうだ。最近の暑さは昔と違う。「エアコンなんてなくてもやっていける」という価値観を押しつけてくる配偶者は言語道断である。