同棲したら逆に消えた結婚願望
「20代後半、2年ほど同棲したんです。それで逆に結婚願望がなくなってしまいました」笑いながらそう言うのは、ナツミさん(40歳)だ。大好きだった彼なのに、一緒に暮らし始めたら疲れてしまったのだという。
「そもそも私のほうが労働時間が長かったんです。なのに最初に見栄を張って『家事は私がやる』と言ってしまって、彼をつけあがらせてしまった(笑)。結局、深夜に帰ってきてコンビニ弁当を食べながら洗濯したり風呂掃除したり。何をやってるんだろうと思いました。1年ほどで体調を崩し、やっと彼が『オレも家事をやるよ』と言ってくれて。でも彼に任せられない。彼が掃除したところを再度掃除したり、洗濯も干し方が悪いから気に入らなかったり。私が心身ともに疲れきって、同棲を解消しました」
それ以来、恋愛はしても結婚は避けてきた。結婚しないのだから相手は既婚でもかまわない。30代は既婚者と熱烈な恋もした。
「それも一息ついて、今は結婚したいともしたくないとも思わなくなりました。どうでもいいわけじゃないんですよ(笑)。でもどちらにしても、人間はひとりなんだなと痛感しているので、お互いに『人間って孤独だよね』としみじみ語り合える人がいたら、どういう形であれ一緒に生きていきたいなと思うかもしれません」
家庭という形を作ることには興味はないが、誰かとともに歩んでいきたい気持ちはあるとナツミさんは言う。
「独身の友だちもいるし、職場も独身が多いので寂しいわけじゃないんですけど、だんだん年齢を重ねていくと恋愛の機会も減るのかなと不安があったんです。ただ、最近、職場の50代の先輩が妙に楽しそうで。聞いたら恋しているんですって。彼女は、いくつになっても恋はできるのよ、その気になればと笑っていました。ちょっと勇気づけられたけど、彼女ができたからといって私もできるとは限らないとも思って……」
恋をしなくても楽しく生きていけたほうがいいのだけどと、ナツミさんはやはり少し不安そうだった。
結婚しておけばよかった彼
「今になるとしみじみ思います。結婚しておけばよかった、と。20代後半、3年つきあっていた彼と結婚の話があったんです。でも私、当時は仕事が楽しくて、もう少し待ってと言ってしまった。そうしたら1年後、彼が『オレは結婚してちゃんとした家庭が作りたいんだ』って。ちゃんとした家庭なんて、そのころはあまりピンとこなかったので、結局、別れました。彼は半年後に結婚、海外赴任を命じられてヨーロッパへ旅立ちました。5年くらいいて戻ってきて、出世街道ばく進中らしいです」アヤコさん(42歳)はそう言う。もちろん、だからといって自分が彼と結婚したら同じ道をたどったかどうかはわからない。だが、少なくとも今よりましだったと思うと彼女はつぶやいた。
「私は彼と別れてから運気が低迷しているんです。会社が他社と合併したんですが、合併という名の吸収で、私は実質降格、部署も異動になって、仕事が楽しくなくなった。あげく妹が結婚して遠方に行ってしまったので、その後、父が倒れたときも母に全面的に頼られた。ひとり暮らしを満喫していたのに、実家暮らしになりました」
今は介護が必要な父と、まだ70代前半なのに、妙に弱ってしまった母との3人暮らし。こんなことならさっさと結婚してしまえばよかったとも思っている。
「私を頼れなければ、両親も自分たちの行く末を自分たちだけで考えてくれるんでしょうけど、何でも私に頼ればいいと思ってる。『あんたが結婚していなくてよかったわ』と母に言われたときは、かなりムカッときましたね」
それでも今さら両親を振り捨てていくわけにもいかない。周りを見渡せば、学生時代から仲のよかった友人たちは、なんだかんだ言いながらも結婚生活をうまく続けている。
「ひとり離婚してシングルマザーがいますが、ひとりで暮らしていた母親を呼び寄せて子育てを助けてもらってバリバリ働いている。私もバリバリ働ける環境にいれば結婚しなかったことを後悔しないんでしょうけど、会社があんなことになるとは思っていなかった。いち早く抜けて転職したほうがよかったのかもしれませんが、それも後手に回ってしまった」
不運が重なったのだが、それでもまだ40代前半。アヤコさんは自分の人生を諦めるには早すぎると感じている。
「3年前から専門学校に通って、ようやく資格を2つとりました。これを武器に転職活動をしています。もっと自分を活かせる仕事はあるはずと信じてがんばるしかないと思って」
結婚に逃げたいと思った時期もあるが、最終的には他人を頼るより自分を信じたほうがいいと気づいたそう。
「今でも結婚しておけばよかったとは思っているけど、それを後悔として抱えていくのはやめようと思っています」
人生は自分で切り開いていくしかないのかもしれない。