知っていそうで知らない「果実」の話
いきなりですが、クイズです。下の図には、みなさんもよく知っている果実の全体もしくは一部分が描かれていますが、(1)~(4)のうち「種(種子)」に該当するのはどれでしょうか。どれも種っぽいですが、植物学上の分類で「種(種子)」と呼んでいいのは1つしかありません。分かりますか。 正解は(2)です。まさに「柿の種」です。それ以外は、厳密には種ではありません。(1)は「核」、(3)と(4)は種を中に含んだ実(果実)全体です。「そんな細かいことはどうでもいい」という声が聞こえてきそうですが、自分が食べているものについての知識が増えると、食生活がもっと楽しくなるものです。今回は、私たちがよく食べる果実の分類と、それぞれの特徴についてわかりやすく解説しましょう。
果実とは……果皮による果実の分類
生物学的には、「果実」とは、被子植物の、中心に種子(seed)があってその周りを果皮(pericarp)が覆った構造のことです。果実と聞くと、モモやブドウ、スイカなどのようなジューシーなものを思いつく方が多いと思いますが、クリやヒマワリの種などのように乾いているものも果実です。果皮が水分をたくさん含んでいる、いわゆるフルーツの類は、「湿果(しっか)(液果、多肉果とも)」と総称されます。湿果は、さらに「石果(せきか)、(核果(かっか)とも)」、「漿果(しょうか)」、「ミカン状果」、「ナシ状果」などに分類されます。一方、成熟すると乾燥した果皮になる果実は、「乾果(かんか)」と総称されます。乾果は、さらに「堅果(けんか)」、「痩果(そうか)」などに分類されます。
果実を構成する「果皮」と「種子」の関係を意識しながら、それぞれの分類の果実のつくりを見てみましょう。
石果(せきか)、核果(かっか)とは……特徴・つくり・代表的なものはモモ・サクランボ
湿果のうち、「石果」または「核果」の代表例は、モモやサクランボです。私たちは、モモのジューシーであま~い果肉の部分を喜んで食べます。残ったタネは、普通食べません。歯で噛み砕こうとしようものなら、歯が欠けてしまうくらい、そのカラは堅いです。サクランボも、果肉を食べた残りのタネが堅く、まったく歯が立ちません。
上で「タネ」と書いたのには、理由があります。多くの人が堅いカラに覆われた固まりを「タネ」と呼んでいますが、本当の「種子」は、カラを割ったときに中に見つかる比較的柔らかい部分です。さらによく観察すると、種子は薄い「種皮」に覆われており、それを剥ぐと中に白い「胚」(受精卵から発育した幼い植物体)が入っています。 本当の種子を覆っている堅いカラの部分は、実は果皮の一部です。つまり、石果では果皮が3層に分かれ、外果皮がいわゆる「くだものの皮」、中果皮がいわゆる「果肉」、そして内果皮が木質化して堅いカラを形成しているのです。モモを食べるときに果肉が「タネのカラ」に絡みついてはがれにくいことがあるのは、カラが果皮の一部という証です(あま~いモモの果肉がカラにくっついて残っているのを必死でしゃぶって食べようとしたことがあるのは、筆者だけではないでしょう)。
ちなみに、私たちがタネと呼んでいるもの(やわらかい本当の種子とそれを覆う内果皮を合わせたもの)は、専門用語では「核」と呼ばれます。
中に「石」のように堅い「核」が入っている果実なので、「石果」または「核果」と名付けられたというわけです。
「漿果(しょうか)」とは……特徴・つくり・代表的なものは柿やブドウ
「漿果」の代表は、柿やブドウです。皮をむいて果肉を食しますが、タネは普通残します。しかし、それほど堅くないので、小さめのタネならガリッと噛んで食べてしまうこともあるでしょう。実は、これらのタネのカラは、内果皮ではなく、種皮が堅く変化したものです。その証拠に、カラを剥ぐと白い裸の「胚」があります。なので、これらのフルーツのタネは、本当に「種(種子)」と呼んでいいのです。『柿の種』というおつまみがありますが、大正解です。
「堅果(けんか)」とは……特徴・つくり・代表的なものはクリ
「堅果」の代表は、クリです。クリの「実」は、フルーツと同じ「果実」ですが、すっかり乾いています。外側にあるカラ
の部分は堅く、「鬼皮」とも言われますが、馬鹿力を入れれば手で割ったり、剥くことができます。 実はこのカラの部分は、果皮に相当します。そして、果皮を取り去ったときに中に見つかるのが、種(種子)です。いわゆる「渋皮」は、種皮に相当します。種皮である渋皮を取り去ると、中に胚が入っています。筆者は毎年秋になると、栗ご飯を楽しみにしていますが、そのとき食べているのはクリの「胚」ということです。
「痩果(そうか)」とは……特徴・つくり・代表的なものはヒマワリ
「痩果」を実らせる代表例は、ヒマワリです。下のイラストを見て、みなさんは何と呼ぶでしょうか。おそらく大多数の人が、ヒマワリの「タネ」と答えるに違いないでしょうが、正解は、ヒマワリの「実(果実)」です。 外側にあるカラの部分は比較的薄く、そこまで堅くないので、少し力を入れれば手で割ることができます。実はこのカラの部分は、果皮です。そして、果皮を割ったときに中に見つかるのが、本当の種(種子)です。ただし、種皮が果皮と密着し分離しにくいため、中から取り出した種が、胚だけになっていることも少なくありません。
つまり、ヒマワリのような植物の果実は、果皮部分が“ドライフルーツ”のように乾いて痩せた構造をしていると見ることができるので、「痩果」という名で分類されています。「痩果」が「タネ」に間違えられるのは、果皮と種皮が薄く、一体化してタネのカラのように見えるからでしょう。
同じ果実なのに、湿果と乾果では果皮と種子の構成がかなり異なっているのは、それぞれの植物が子孫を残すためにとった戦略の違いが関係していると思われます。「どうしてこんな形をしているんだろう」などと考えながらフルーツや木の実を食べると、今までと違った趣きが味わえるかもしれませんよ。