種なしフルーツの代表格! 種なし柿・種なしブドウ
デラウェアは基本的に種なしなのに、巨峰には種が混ざっていることも……。種なしブドウの作り方を理解すれば、この理由がわかります
やはり、種なし果物の代表は、柿やブドウではないでしょうか。種ありよりも食べやすく、よりおいしくなった品種が発売されれば、皆さんはそちらを選ぶでしょう。そして、食べながら「これってどうやって作ったんだろう」という素朴な疑問をもちながら、答えを知らないまま過ごしてきたという方も多いのではないでしょうか。
今回は、種なし柿と種なしブドウの作り方、そのからくりを分かりやすく解説しましょう。
種なし柿の作り方は「自然まかせ」? 温州みかんやきゅうりも
一般的には、植物の花のめしべ中にある卵細胞と、おしべの花粉中にある精細胞が合体し、受精が成立すると、めしべの下部にある子房の中に種ができるとともに、子房が大きくなって果実となります。しかし、植物の中には、受精が成立しなくても、子房だけが発達して、種なしの果実を生じる性質をもったものがあります。この性質を「単為結果性」または「単為結実性」といいます。
さらに詳しく解説すると、単為結果性にも2種類あって、花粉やその他の刺激があれば受精しなくても実がなるという場合は「他動的単為結果」、花粉を含め一切の刺激がなくても実がなる場合は「自動的単為結果」と呼ばれます。一部の柿には、自動的単為結果性があるために、特別なことをしなくても、自然と「種なしの果実」を得ることができるのです。
ちなみに、自動的単為結果性をもった食用植物の代表例がバナナです。「種なし果物はどう増える?「倍数体」をわかりやすく解説!」で解説した「種なしバナナ」が簡単に栽培できるのも、バナナに自動的単為結果性があるからです。他には温州ミカンがあります。キュウリも、自動単為結果性が強く、はやく生長してどんどん実をつけるので、私たちが食べるキュウリには種があまりないのです。
それに対して、「種なしスイカの原理・作り方」で解説した「種なしスイカ」の場合は、3倍体スイカに他動的単為結果性があるので、別の2倍体スイカを使って刺激を加えないと実ができないという点で、手間がかかります。種なしバナナより、種なしスイカが高価なのは、当然でしょう。
単為結果性をもつ種なし柿の品種「平核無(ひらたねなし)」
自然まかせとは言っても、すべての柿が、種なしの実をつけられるわけではありません。品種によって性質が異なります。平核無(ひらたねなし)という新潟県原産の渋柿は、その名前の通り種がないのが特徴です。「たねなし柿」と一般に呼ばれているのは、たいていこれです。平核無柿は、単為結果性が強く、種子形成力が弱いです。受粉しないで実がなる場合もありますし、受粉していったん小さな種ができ始めてもその後退化してなくなる場合もあります。結果的に、自然に大きくなった果実を切ってみると「種なし」であることが多いのです。
一方、江戸時代末期に岐阜県で誕生し、甘柿の代表的な品種として知られる富有柿(ふゆうがき)は、単為結果性が弱く、受粉すると種子形成力が強いので、しっかりと種が入っていることが多いです。
種なしブドウを作る薬「ジベレリン」とは
一部のブドウにも、単為結果性があり、自然に「種なしブドウ」が得られることもありますが、もともと単為結果性が少ない品種でも確実に種なしの果実を得られるようにするために、「ジベレリン」という薬を使って単為結果性を高める処理が行われています。いま「薬」と書きましたが、ジベレリンは、もともと広く植物の体内で合成される成長ホルモンの一種ですが、その作用が農薬としても応用されたのです。
イネの苗が異常にはやく生長し、葉色が薄くひょろひょろして倒れやすい個体となってしまう「馬鹿苗病」という感染症があり、その原因が研究された結果、植物に付着した子嚢菌の一種であるイネ馬鹿苗病菌によって産生される物質がイネを伸長させるためと判明しました。その物質は、イネ馬鹿苗病菌の学名Gibberellaに因んで、ジベレリン(gibberellin)と名付けられました。さらに研究が進むと、ジベレリンは、多くの植物の体内でも産生されており、成長に必要な役割を果たしていることが分かりました。具体的には、伸長成長の促進に加え、発芽の促進、花芽形成と開花の促進、そして単為結果の促進といった生理作用をすることも明らかになりました。
そして、ジベレリンは、農薬として浸漬や噴霧散布等で用いられるようになり、種なしブドウの生産、果実の落下防止、成長促進などに役立てられました。
ただし、ジベレリン処理で種なしブドウが作れることは、偶然の発見でした。1950年代後半の日本で、ジベレリンを用いてデラウェアの果粒を大きくする試験が行われていたときに、種ができずに大きくなることが見出され、種なしブドウ生産の実用化につながりました。
家庭でも作れるジベレリン処理による種なしブドウ
昔は、ジベレリン処理の簡便法として「散布」が行われていました。具体的には、開花前に1度ジベレリンを散布して種をつくれないようにし、開花後にもう一回ジベレリンを散布して、実を大きくさせます。ただ、この方法は確実ではないので、近年は、ブドウの房を、カップ状の容器に入れたジベレリンの水溶液に「浸漬」するのが、一般的になっています。たくさんのブドウを栽培している農家さんなどが、ブドウの房一つ一つに対して手作業でこの処置を行うのは、かなり手間がかかります。最近は、園芸店に行くとジベレリンが「ジベラ錠」という商品名で売られていますので、家庭でブドウを育てている方でも、種なしブドウ作りにチャレンジすることができます。
また、農家さんが使うジベレリン溶液には、真っ赤な色がついています。これはジベレリンが赤色をしているからではありません。本来、ジベレリンの水溶液は無色透明です。園芸店でみなさんが買ってきて用意できるジベレリン溶液も透明です。ただし、たくさんのブドウを育てている場合、透明なままの溶液を使ってブドウの房に処理を施す作業を行っているうちに、どの房を漬けたのかがわからなくなってしまい、処理漏れが生じる可能性があります。そこで、あえて食紅等を加えて真っ赤な溶液にしておけば、処理したブドウの房が赤色でマークされるので、処理漏れが防げるというわけです。
巨峰はデラウェアよりも種が残りやすい? 品種による薬の効きやすさに違いも
柿の品種によって単為結果性の強さが違うように、ブドウにも品種差があります。デラウェアは、ジベレリンが効きやすいので、この処理によって種なしにできますが、巨峰などは、ジベレリンが効きにくいです。いま市場に出回ってる巨峰の多くがジベレリン処理をされていますが、それでも種が残ってしまいがちなのは、このためです。上で紹介した、種なしにしにくい富有柿に対しても、ジベレリンが使用されます。ジベレリン処理によって、種なしの甘柿が作れるだけでなく、落下防止や実の量を増やすことで生産性を高めるのにも役立っているようです。