マスクを“はずせない”若者たち
そんな中で、マスクに慣れてしまったために外せないと考える若者たちが増えている。「うちの高校生の息子は、当分、マスクを外さないと言っています。高校入学時からマスクをしていて、今は高校3年生になりました。考えたらかわいそうですが、ずっとマスクと一緒の高校時代。高校の卒業アルバムを生徒たちで作ることになり、クラスのスナップ写真を撮るときも『今だけマスクをはずそうよ』と言った写真部の子に、『やっぱりはずしたくない』という子が続出したそうです。感染がどうというより、今や顔の一部になっているので恥ずかしくて素顔をさらけ出せないようですね」
この子たちの将来は大丈夫なのかしらと苦笑したのはサチカさん(46歳)だ。中学生の娘も同じようにマスクのない生活は考えられないと言っているそうだ。
「私は、いつになったら口紅がつけられるのかしらとマスク解除を楽しみにしているんですが、子どもたちにとってこの2年数か月は長かったんでしょうね。私の人生の2年と、彼らの2年とでは重さが違いますから」
おそらく、マスクをとる日がくれば、若いだけにまた慣れていくはずだとサチカさんは楽観していたのだが、つい先日、娘の言葉にびっくりした。
「娘が、もう一生マスクをしていてもいいと言ったんですよ。友だちもマスクをした上で顔を認識しているし、『目だけでいろいろなことがわかるよ』って。目の表情だけで気持ちを読むようになっているんですね。マスクをはずして顔の全体像がわかるようになったら、むしろ表情が読めなくなるのかも。そう考えたら、たかがマスクとは言えないなと」
大人はともかく10代の若者たちにとっては、今後、大きな壁が待ち受けているのかもしれない。
マスクをはずすのは怖い?恥ずかしい?
湿度の高い日本の夏に、マスクは確かに苦しい。この2年でそう感じた人も多いだろう。「私はすでに、出勤するとき最寄り駅まではマスク片手に歩いています。しまっているとわざわざ近寄ってきて『マスクしなさい』と言ってくる人もいますから、マスクを手にしたまま駅まで行く。駅が近づいてきて人が増えてきたら着けます。昨年の夏に、マスクつけっぱなしでひどく肌荒れしたので、少しでもそれを防ぎたい」
そう言うのはマリさん(36歳)だ。着けたり外したりするのは手間がかかるが、それでも「着けっぱなしはつらい」と言う。
「不織布マスクは会社にも置いてあります。私は外回りの仕事が多いので、汗をかいたらマスクはつけ替える。マスク代がバカになりませんがしかたない」
マリさんは今も、大勢での会食は避けているし、会社からも禁止されているという。仲のいい同僚数人で、会社近くの居酒屋へ寄る程度で、それも2時間程度でお開きとなり、二次会はしない。
「それでも同僚や上司の素顔を久しぶりに見て、妙に感激したりしました(笑)。隣の部署の人と久々にランチしたときは、この人、こんな顔してたっけと思ったこともあります。先方も同じように思っていたみたいで、ふたりで笑ってしまいました。それほど長い間、他人の素顔をまじまじとは見ていないということですよね。ただ、その彼女は入社5年の20代なんですが、『マスクをとるのがとにかく恥ずかしい』と言っていました」
今や“顔パンツ”とも言われているマスク。はずすのが怖いと感じるのは10代のみならず、20代にも広がっているのかもしれない。
「感染状況を見ても、まだ気持ちを緩めるわけにはいかないですよね。マスクの解除はまだまだ時間がかかると思う。あとは場所や状態に応じて、自分で判断するしかない」
少しずつはずす時間が長くなっていけば、いつか恥ずかしい気持ちも払拭できるようになるのだろうか。