妻がダイエット、食事作りは誰がする?
「今年に入って、妻が突然、『私、ダイエットするから。私と同じ食事でいい人は私が作るけど、あとはみんな勝手にして』と言い出したんです」マナブさん(45歳)は困惑したようにそう言う。29歳のときに結婚した同い年の妻との間には、15歳、13歳、8歳の子がいる。妻は週に3回ほどパート仕事をしているが、マナブさんの仕事が多忙なため、週末以外、家事はほとんど妻に任せていたのが実情だ。
「育ち盛りの子がいるんだから、ふだん通り作って、きみが食べる量を減らせばいい。子どもの栄養をまず考えたほうがいいと言ったんです。でも妻は、『じゃあ、焼きそばは春雨にするし、肉は大豆ミートに変える。それなら作る』と。そもそもそんな急にダイエットしたらきみの体にもよくないよと言ったんですが、妻は食材から肉やオイルをなくし、揚げ物もいっさいしなくなりました。子どもたちはコンビニで何か買ってきているようですが、そんなことが続くわけもない」
マナブさんは三代続く「小さな」会社の経営者。自宅から5分ほどのところに職場があるため、それからは食事を作りに、夕方いったん自宅に戻ることにした。仕事の関係上、どうしても夕方から夜にかけては会社にいなければいけないのだが、昼休みを返上して仕事をし、夕方4時頃会社を抜けて食事を作り、5時半にはまた会社に戻る生活となった。
「そこから3時間ほど仕事をして帰宅、自分が夕食をとるという生活です。週末は作り置きもしています」
妻とは長い時間をかけて話し合った。もともと、そんなに太っているわけでもないし、健康に問題があるわけでもない。だが昨年暮れに出席した高校の同窓会で、誰かに「貫禄が出たね」と言われ、ひどく傷ついたようだった。
「そんなの気にする年かと言ったら、その僕の言葉にまた傷ついたようで。年をとったんだからという意味で言ったわけじゃないんですよ、同い年ですしね。外見にとらわれるほど子どもじゃないでしょと言いたかったんだけど、妻はそう受け取ってはくれなかった」
妻は最初の1カ月で4キロ落とし、さらにあと5キロと勢いづいていた。
過度なダイエットに意味があるのか
男女問わず、外見を重視する人は少なくない。会うたびに「太った?」「痩せた?」と挨拶代わりに、そんな言葉を投げかけてくる人もいる。だがマナブさんが言うように、健康に大きな問題がないなら、外見を気にするより「生活を楽しむ」ことに比重を置いたほうがいいと考える人も多いだろう。「妻は20代のころの洋服をもう一度着るんだと張り切っていました。目標をもって努力するのは悪いことじゃないけど……。僕自身が疲れ果てて3キロ痩せましたよ。笑えないけど笑えるでしょ」
朝食は妻が作る。サラダとトースト。毎日同じだ。マナブさんはそこに卵料理をつける。ときにはスープを作ることも。いちばん上の子はごはんが食べたいと自分で魚を焼くときもある。子どもたちの自立には悪くないのかもしれないが、自分たちで食べるものを作るには、子どもたちは忙しすぎるとマナブさんは感じている。
「上ふたりは部活動が忙しいし習い事もしている。いちばん下はまだ、日常的に料理をするには幼すぎる。5年もたてば状況は変わるでしょうけどね。逆に言うと、あと5年もこれが続くのかと思うとちょっとつらい」
しかもこれは偏見かもしれないけど、とマナブさんは続ける。
「妻は栄養士ではないので、付け焼き刃の知識しかない。人間の体は食べ物でできているんだから栄養はまんべんなくとらないとダメだよと言ったら、『あなたに何がわかるの』って。我流ダイエットはかえってよくないと思うんですが、彼女はとにかく言い出したら聞かない。最近、妻は常にイライラしているんですが、栄養不足なんじゃないかと思うんですよね。体が心配です」
そんな夫の愛ある言葉も、ダイエットに固執した妻の耳には入らない。きれいでいたいと思う女心をわからないわけではないが、「一家揃っての楽しい食事タイム」が抜け落ちてしまった家族関係を彼は憂えている。
「今も週末くらいは一緒に食べようと妻を誘うんですが、以前はよくやっていた、お好み焼きやたこ焼きパーティーも妻はところてんを食べながら見ているだけ。なんとなく子どもたちがしらけています」
妻は4カ月で7キロ落とした。目標に達したら、今度は体型維持のため、食事制限は続けるらしい。
「僕の体力がいつまでもつか、子どもたちの気持ちは大丈夫か。今は少し妻のことを恨んでいますよ」
冗談めかして言ったが、最後の一言は彼の本音のようだ。