亀山早苗の恋愛コラム

「結婚」とは何か?婚姻届は出さない・同居もしない男女が子育てを通して発見したこと

「結婚は無理」という彼と婚姻届を出すことなく出産し、近距離別居のまま子育てする女性がいる。結果として普通とは違う生き方をする彼女の率直な思いは……

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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「結婚」とは何か。大多数は「婚姻届を出すこと」と考えるかもしれないが、なかには「同居すること」「形はともあれ一緒に生きていくこと」などをイメージする人も少なからずいる。
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いつも「結婚は無理」と公言していた彼

27歳のときに出会った彼とずっとつきあってきたヒカリさん(35歳)。つきあい始めてから3年ほどは月に2回ほど会えればいいほうだったという。

「2歳年上の彼は当時、ものすごく仕事が忙しいと言っていて、私もそれを鵜呑みにしていたんですが、どうやら本当はちゃんと彼女を作るのが嫌だったみたい。そういえば、つきあってほしいと言われたこともないし、なし崩し的な関係だったんですよね」

それでも彼女が30歳になったころからは、お互いの友だちに会ったり「公的な彼女」として周囲に認知されるような関係に発展した。彼は自分が抱える“特殊な状況”についても初めて話してくれたという。

「5歳のころ両親が離婚、はじめは母と一緒に暮らしたけど母の再婚に伴って父と生活。でも父も再婚して10歳のときには親戚に預けられたそう。中学に入ってまた母と生活するようになったけど継父とそりが合わず、高校からは父母の援助を受けてひとり暮らしをしていたそう。がんばって大学へも行って就職もして。そういう彼だから好きになったんですが、やっと心を開いて話してくれたのがつきあってから3年もたってからだった、それだけ彼の傷は深いんだなと思いました」

彼自身は「別に傷ではないよ。人にわかってほしいと言うのは傲慢だから言わないだけ」と軽やかに言ったという。
 

結婚したいと思ってはいるけれど

その後、ヒカリさんは彼と結婚して家庭をもちたいと思うようになった。ところが彼は「結婚」については渋るばかり。

「彼の友だちの結婚パーティに一緒に招待されたことがあるんです。彼はニコニコしてうれしそうに祝福していました。その友人に『次はおまえも……。ね、ヒカリさん』と言われたとき、彼は『いやあ、オレは無理だよ』って。彼はやはり自分に結婚は向いていないと思ってるんだなとわかりました」

何度か打診もしてみたが、「結婚は無理。責任ももてない」と言われ続けた。誰も責任なんて押しつけない、一緒に生きていきたいだけだとヒカリさんはあるとき激しく言い返した。

「あなたは怖がってるだけ。私はあなたが好きだからそばにいたい。いろいろなことを一緒にやって、一緒に感じて、一緒に生きていきたいと心のうちをぶつけました。すると彼、『もうじきアパートの更新なんだ。ヒカリの近くにいっていい?』と言うんです。同居するのは彼にとってハードルが高いんでしょう。15歳からひとりで暮らしてきたわけだし」

彼はヒカリさんが住んでいる賃貸マンションの向かいに越してきた。そして昨年、彼女は長女を出産した。彼は認知したが、婚姻届は出していない。

「婚姻届を出したいと言ったら、彼に『何のために?』と言われたんです。そこで私も考えてしまって……。結局、私が婚姻届にこだわったのは、『結婚できたと安心したかった』だけなのかなあ、と」

子どもが生まれてからは、彼は仕事から帰ると着替えてヒカリさんの家に来ていた。有休を使って連休を作り、子どものめんどうを見ているから映画でも観てくれば、と言ってくれたこともある。彼自身は子育てが「最高におもしろい」と言っているそうだ。

「私もすでに職場復帰していますが、保育園の送り迎えも連絡をとりあっています。地域の保育ママ制度とか、ときにはベビーシッターを頼みながらふたりでがんばっている感じ。週末は彼が泊まりにきますね。最初は婚姻届も出さないこんな生活、不安すぎると思っていたんですが、今は結婚とか家庭という枠にとらわれなくてもいいのかもしれないと感じるようになりました。結婚した友人が『夫が何もしてくれない』とか『夫のモラハラがひどい』とか愚痴るたび、私にはそういう不満はないなあと思うんです」

彼とは子どもができてから、本当に親密な関係になれたとヒカリさんは感じている。彼の心の壁はかなり崩れたのだろう。彼自身も、ひとりになれる時間と場所が確保されているから、必要以上に気負わずにすんでいると言ったことがある。

「どうしても寂しければ夜中に連絡しても来てくれますしね。ただ、私は私で強くなったので、彼を頼ることもほとんどありません。彼ときちんと向き合えている実感がある。こういう関係でよかったと今は思っています」

この先、何があるかはわからない。いつか彼が婚姻届を出したいと言う日がくるかもしれない。そのときヒカリさんは出さなくていいと思うかもしれない。それでもきっと、その都度、じっくり話し合ってふたりで子どもの成長を見守っていけるという確信だけはあると、ヒカリさんは明るい笑顔を見せた。
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