亀山早苗の恋愛コラム

「義実家」との距離感は、男だって辛いもの?ある日突然「引っ越したい…」と言い始めた夫

結婚して十数年、夫からいきなり「少し遠くに引っ越さないか?」と言われたら……。結婚後、妻の実家近くに住む夫婦は少なくないが、それが夫にとって快適とはいえない環境になることもあるようだ。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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娘は義両親より実両親のほうが気楽、親も息子の妻より実娘に近くにいてほしい。そのため、結婚すると妻の実家近くに住む夫婦も増えている。ところが働き方が多様化している現在、夫は外にいるのが当たり前、妻は家にいる時間が多いとは限らない。夫が妻の両親と必ずしもうまくいっているわけではないのだ。
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ある日突然、「引っ越したい」と言った夫

半年ほど前、結婚して12年たつ夫からいきなり「少し遠くに引っ越さないか?」と言われたのはヤスミさん(41歳)だ。

「どうして、と思いました。11歳と8歳の子がいるし、突然、転校させるのもかわいそう。転勤でもないのに。夫も私も職場まで近いし、賃貸マンションは3LDKでちょっと手狭だけど私の親戚が所有している物件なので家賃も安くしてもらっているし。近所づきあいも特に問題ない。いったい何が原因なのかと聞いたんですが、夫はなかなかはっきり言わないんですよね」

気になるから話してとさんざん言ったところ、夫はようやく「実はきみのご両親がちょっと気づまりなんだ」と打ち明けた。

「話を聞いてびっくりしました。私はひとりっ子なので、父は息子とお酒を酌み交わすのが夢だったんですよ。だから結婚したとき、それはそれは喜んで……。夫も今の場所で生活するのを承諾していたし、共働きだから子どもたちのためにも実家近くはありがたかった。だけど夫に言わせると、『毎週末、義両親のもとを訪ねて一緒に食事をとるのがつらくなってきた』と。そりゃお互いに気を遣うかもしれないけど、私にとっては今さらそんな、という感じです。だったら早く言ってくれればよかったのに」

とはいえ、夫は共働きの妻が実家でのんびりできる週末を楽しみにしているとわかっているから言い出せなかったのだ。家で一日ごろごろしていたいと夫が言ったこともあるが、ヤスミさんは聞く耳を持たなかった。

「いろいろ話しているうちに、逆の立場だったらどうよと夫が言い出したんです。確かにいくら大事にされていても、毎週義両親と顔をつきあわせるのはちょっとつらいかも。『きみの両親が嫌いなわけじゃない、むしろ好きだよ。だけど毎週はきつい』と言った夫に、今まで気づかなくてごめんと言うしかありませんでした」

以来、一家で実家に行って食事をするのは月に1度。子どもたちとヤスミさんは今まで通り出たり入ったりすると両親に告げた。夫の仕事が忙しいからと言うと、「それなら私が行ってご飯をつくってあげようか」と70代の母が言う。ヤスミさんは「ああ、これが夫の嫌がるところかも」と感じたという。

「母はけっこうお節介なんです。私は慣れているから適当に断ったり受け流したりできるけど、夫はそうはいかなかったんでしょうね」

週末をのんびり過ごせるようになった夫は、家族のために料理を作り始めた。これがなかなかの腕前なのだそう。

「私たち夫婦と子どもたちだけで過ごす週末も悪くない。特に夫にとってはリフレッシュできる週末になっているのがわかる。今まで申し訳ないことをしたなと思っています」
 

妻の両親になじめない

同じように妻の実家近くに家を購入したのはケンジさん(45歳)だ。結婚16年の妻との間に15歳と13歳の子がいる。

「妻の両親はいい人なんですが、特に義母が子育てや家計にまで口を出してくるので困っているんです。最初にびっくりしたのは、0歳児から塾へ行かせたほうがいいと言い始めたとき。妻も仕事をしているから、自分が連れていくって。さすがにこれは義父も反対していましたが。小学校から私立に入れたほうがいいとも言ってましたね。『お金なら私たちが出すから』って。僕の稼ぎが悪いと言っているようなものですよね。確かに高給取りではないけど妻とふたりで働いていれば、子どもたちが望むなら、高校までは公立、大学は私立くらいは行かせてやれますからと言ったら、ため息をつかれました」

だからといって険悪な雰囲気になるわけではない。義両親は「孫と娘に不自由をさせたくないだけ」なのだ。自分の娘には仕事を辞めて、もっと子どもたちに尽くしなさいと言ったこともあるそうだ。

「そこは妻も譲らない。私はお金のためだけに働いているわけじゃないと断言していましたね。ただ、妻は実の親だから言いたいことも言える。僕はそこまでは言えない。しかも義母は週に半分くらいはうちに来るんです。『おとうさんの分は用意してきたから、私はここで食べていくわ』と食事もする。なんだか監視されているような気がしましたね」

家に帰れと妻が言ってくれるのを望んでいたが、妻もそこは言いづらいようだ。「おかあさんには生きがいがないから、かわいそうなのよ」と妻は言う。だが子どもたちに、妙に古い価値観を吹き込んでいるのも気になる。

「娘には、ちゃんとお手伝いしないといいお嫁さんになれないわよ、なんて言うわけです。今どきそれはないでしょと思わず反論してしまいました。義母がうちに来る弊害を考えてほしいと、つい先日、妻にも言ったところです。排除したいわけじゃないけど、僕は男だから女だからという考え方で子どもを育てたくない」

妻はわかったと答えた。どう言ったのかはわからないが、その後義母はふっつり来なくなった。ケンジさんは自分が罪を背負わされたような気になっている。

「夫婦であっても親は他人。僕たちも親たちもそう思っていないと、なかなかいい距離感でつきあえないのかもしれませんね」

そのうち義両親を誘って、おいしいものでも食べに行くつもりですと、ケンジさんは苦笑いを浮かべた。
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