デジタル時代に小銭を使う意味って?
父親が語ってくれた忘れがたいエピソード
私自身、仕事柄たくさんのお金持ちを見てきました。継続的に業績を上げている経営者の方々のほとんどは、誰しもお金に対するリアリティが確立しています。そして共通するのはたとえ1円だろうと、大切なお金であるという認識があること。私の父親はビルの内装工事を請け負う中小企業の経営者でした。父の取引先で東京都内にいくつもビルを持つオーナーがいました。その方と内装途中のビルを訪れた時のことです。玄関前に埃まみれになって落ちていた1円玉に気がついたオーナーは、大切にその1円玉を拾い上げ、埃を手で拭うと大事そうに小銭入れにしまったそうです。
成功している経営者は落ちている1円玉を拾う!
父親からこの話を聞いたのはいまから20年以上前のことです。その後、私がいまの職業になってふとこの話を思い出し、成功している経営者の方々に「道端で1円玉が落ちていたらどうするか?」と聞いたところ、全員口をそろえて「拾う」と答えました。そして、そんな当たり前の質問をなぜするのか不思議がる経営者もいました。お金を稼ぐ人、お金に好かれる人は、1円というお金もないがしろにしない。それはケチということではなく、お金の大切さを骨身に沁みて感じているからでした。
彼らにとって、お金は単なるポイントでも数字でもありません。それは人格とか法人格という意味での「格」を持った存在なのです。1円だろうと、1万円だろうと1億円だろうと、お金である存在の重みは変わらない。
むしろ、小さなもの、ささやかなものに対するまなざしこそ大事なのです。たとえ泥にまみれた1円玉でも、だからこそ不憫な境遇にある1円玉を拾い上げる。
その姿勢はお金に対してだけでなく、あらゆる物事や、人に対しても自然と及ぶはずです。小さなことをおろそかにせず、どんな立場の人にも公平に真摯に向き合う。当然ですが、多くの人から信頼を得るでしょう。それがビジネスの成功につながり、結果としてお金がついてくるのです。
私自身も、お金を大事にする経営者やお金持ちの人たちに影響され、自分なりのお金に対するリアリティを持つことができるようになりました。それが仕事に対する向き合い方や人間関係にも大きな変化をもたらしたと思っています。
デジタル時代にあえてアナログを取り入れる
そういう意味で、お金持ちの人たちのお金に対する向き合い方はとことんアナログです。長財布と小銭入れの二つを使い分けるというやり方もその一つでしょう。これも私が若いころに年配のクライアントの方に教えてもらったやり方です。手元の小銭を分け、500円玉は貯金し、5円玉、1円玉は別にしてまとめて募金に回します。そして残りの100円玉、50円玉、10円玉を小銭入れに入れています。
このひと手間をかけることで、小銭に対する意識が強くなります。それが無駄遣いを減らすことにつながる。
さらにコンビニで買い物をする際、まずは小銭入れを出し、小銭をチェック。そこで足りない時は財布からお札を取り出すという手間が掛かります。「お札を崩してまで買わなくていいか」という気持ちになり、その結果無駄な買い物を控えることにつながります。
キャッシュレスでお金がデジタル化されると、確かに支払いはスマートで便利になります。実際にいま、現金を持ち歩かない方も増えています。しかし、その半面、お金を使う手応えは薄まります。その手応えのなさが時に、無駄遣いにつながります。
もしも、最近、無駄遣いを自覚しているのなら、あえてアナログ方式に徹してみてはいかがでしょうか。支払いを現金で行い、長財布と小銭入れを分け、お札と小銭のしっかりとしたリアリティを確保する。デジタル時代にアナログな部分を組み込んでみる、それがこれからの時代の、お金に好かれるための秘訣だと考えます。
★第3回『税理士・亀田潤一郎さんのお金哲学。危機は「ミニマム化」で乗り切る』に続きます
教えてくれたのは……
亀田潤一郎さん 亀田潤一郎税理士事務所。税理士。学生時代、中小企業の経営者だった父親の会社が倒産。その悲劇を目のあたりにする。一時はホームレス状態でうつ病になるが「中小企業の経営者をお金の苦労から守りたい」という使命感から、苦節10年を経て税理士になる。数字に苦手な経営者に向けて預金通帳を活用した資金繰りをよくするためのコントロール術などを指導する。ほとんどの顧問先から高評価を得る。数々の経営者と付き合う中で、持続的に成長している企業の経営者の財布の使い方に共通点があることを発見。それを実践したところ年収が飛躍的に伸びた。その経験をまとめた『稼ぐ人はなぜ、長財布を使うのか?』(サンマーク出版)がベストセラーに。そのほか『通帳は4つに分けなさい』(経済界)、などがある。
取材・文/本間大樹