イラスト:かとひと(@33_hito)
初めて知った、夫の「親への仕送り」
結婚して12年。10歳と7歳の子がいるサツキさん(41歳)。3歳年上の夫とはずっと共働きを続けている。近くに住むサツキさんの両親が全面的に協力してくれたからこそできたことだ。「でも夫はうちの親にはなにもお礼をしようとしない。私が気を遣って、夫からだと言ってたまにお小遣いをあげるくらいです。うちは家計も分担しているので、夫の詳しい年収などは知りません。夫のほうが稼ぎは多いはずなので、家のローンと食費の半分は夫、あとの生活費と光熱費は私が負担しています。雑費としてお互いにお金を出し合っている預金があるので、子どもの習い事などはそこから出しています。私としては決して楽な生活ではありませんね」
お互いにその他の使い道については詮索しないことにしているが、このコロナ禍で2年ほど一緒にいる時間が増え、家計費も見直さなければいけない状態だったため、結婚してから初めてきちんと「家計費会議」をふたりで開いた。
とはいえ、相変わらず互いの収入を前面ガラス張りにはしなかった。そこは互いを尊重しあおうと結婚当初からの約束だったから。
「ただ、夫が『コロナ禍で残業も減って苦しい』というんです。だいたいどのくらい減ったのかというと『仕送り分かなあ』という答え。仕送りってなに?となりました。夫はしまったという顔をしていましたが、そこで初めて『結婚してからずっと実家に8万円くらい仕送りをしていた』と。貯金はほとんどないそうです。夫の実家は義父母が共働きだったし、それぞれ退職金ももらっているはず。義父は年金があるのに、今も健康のためにアルバイトをしているような人ですから、そんなに生活が苦しいとは思えない。すると夫は『育ててもらったんだから恩義がある』と。いや、苦しいなら助けるのもわかるけど、あちらよりこっちの家庭のほうがずっと苦しいよと言いました」
大人になったら親孝行をしなければいけない。夫はずっとそう思って生きてきたそうだ。
子どもたちのために
親の資産状況を知っているのかと尋ねるとまったく知らないとのこと。「年に100万円近くも援助しなければいけないほど困っているのかどうかと何度も言うと、めったに怒らない夫が怒り出しました。『オレの親にオレが何かしてあげたいと思うのが、そんなにいけないのか』と。いけないわけじゃない、でも私たちも親なんだよ。自分の子どもたちに何かしてやりたいと思わないの?というと憮然としている。夫は子どもたちをどこかに連れていったりすることに積極的ではないんですよね。私はできるだけ親との思い出を作ってやりたいし、彼らの視野を広げることにつながる体験をさせてやりたい。そこでいつも意見が異なるので、私は子どもたちを連れて週末、よく出かけるんです。水族館だったり理科系のイベントに参加させたり。そのたびに子どもたちは目を輝かせて新たな発見があるように見える。何より楽しそうにしているのを見ると幸せだし」
夫はそういうことは、「無駄」と切り捨てるタイプ。もっと大きくなって本当にやりたいことが見えたときに援助するならわかるけど、という。だが、本当にやりたいことを見つけるためにも今は選択肢を多くしてやりたいのがサツキさんの言い分。客観的にはどちらも間違っているとは思えない。
「子どもがもし私立中学を受けたいとか、高校から留学したいとか言い出したら、私はその思いを叶えてやりたいと思う。お金がないからダメと言いたくない。そう言うと、そんな贅沢はさせないって。論点が違うだろと思いました。結局、夫との家計費会議は平行線。食費を削りたいというからそれだけはしないでと。育ち盛りの子には栄養が不可欠ですから」
ただ、それを機に夫への信頼感が揺らぎ始めた。夫にとって、自分の子より親への奉仕のほうが大事だという事実がサツキさんには衝撃だった。そしてそれを黙って受け取っている義両親にも不信感が募る。
「うちの親はお小遣いをあげても頑なに遠慮する。最後はいつも玄関に置いてくるような状況です。おそらく夫の親より質素な生活をしていると思う。コロナ禍前、義両親はよく海外旅行なんかしていましたからね。そういう贅沢も夫が出していたのかと思うと複雑な気持ちですね」
そして10年以上、親への仕送りを隠していたことにもショックを受けている。この先の夫婦関係に影響を落とすのは必至だろう。