ポジティブ発言を心がけていただけなのに?
仕事一筋だったモエさん(42歳)が、この人だけは失いたくないと思ったのがタカオさん(35歳)。7歳の年の差を乗り越えて結婚したのはモエさんが33歳のときだった。「すぐに子どもに恵まれ、共働きをしながら一家3人、忙しいけど楽しく暮らしていました」
40歳を過ぎてから第二子を思いがけなく妊娠。流産、早産の危機に瀕しながらもなんとか出産。長女のときにはほとんどとらなかった育休を、今回はとっている。自身も体調を崩しがちになっているからだ。
「仕事をがんばってきたことに意味はあると思っているけど、このあたりでちょっと一休みという感じ。長男はもうすぐ1歳。今は思い切りママ業を楽しんでいます」
長女のときにはできなかったママ友もできた。ところがママ友との人間関係が「仕事の人間関係とは違っていて困惑することも多いですね」と苦笑する。
「私はあまりネガティブな言葉を言わないようにしてきたんです。仕事でも家庭でも。夫もそういう考え方。だからママ友たちから夫の悪口や愚痴が飛び出してくることにびっくり。なにげなく『うちの夫はできた人だから、不満なんてないなあ』と言ったら、夫自慢をしていると言われてしまう。
私は義母とも仲がいいんです。たまたま遊びに来た義母と子どもたちと4人で近所のショッピングセンターにいるところを見られたようで、『お義母さんのお守りも大変でしょ』とあとから言われたので『義母は一緒にいてとっても楽しい人だから』と言ったら、今度は『義実家に媚びてる』と噂されたみたい。うちは仲良しですとも、私がいい人間ですとも言いたいわけじゃないんです。だけどネガティブな言葉を口に出すと、さらに自分がネガティブになるだけ。問題があるなら当事者間で話し合って解決すればいい。第三者に愚痴るのは建設的じゃないと思うんです」
ただ、近いママ友たちにはその考え方を理解してもらえないようだ。
LINEのママ友グループで私の噂話も?
噂というのはどこまでも尾ひれがついていくもの。モエさんの夫はマメな人で、週末にはひとりでスーパーに買い出しに行くこともある。冷蔵庫を眺めながら大まかな1週間のメニューを考え、必要なものを買っておいてくれるのだ。ときには下ごしらえも手早くすませてくれる。「あるときLINEのママ友グループの中で、誰かが『さっき、モエさんのダンナさんにスーパーで会った』と書き込み、それに反応して『モエさんって、けっこう夫遣いが荒いんじゃない?』なんて話で盛り上がったと、そこに参加している人が私にチクって来たんですよ(笑)。
もうそういうのも面倒なのでどうでもいいんですが、伝えてきた人はしたり顔で『気をつけたほうがいいよ』と言うし、そう言われればありがとうと言うしかないし。ああ、めんどくさいと思ってしまいました」
私が“孤高の人を気取っている”と話題になっているわよと、わざわざ教えてくれた人もいる。どこでなにを噂されても構わないと思いながらも、「いいこと教えてあげる」と言わんばかりに伝えてくる人がいることにモヤモヤがたまるとモエさんは苦笑する。
「顔見知りに会えば挨拶もするし、話しかけられれば返事もする。立ち止まられたら少しは話さないとと思う。だけどその結果『結局、あの人、自慢話しかしないよね』と言われてしまうのが不思議でならないんです。私は悪口や愚痴を言わないだけ。意見を求められても『人にはそれぞれ事情があるしねえ』と悪口合戦には乗らないようにしてる。そうすると『孤高の人』になっちゃう。なんだか理屈に合わないことばかりだなと思っちゃう」
どうしても仕事で培った合理性や能率などからあらゆることを考えてしまうモエさんを、周囲は少し煙たい存在だと思っているのかもしれない。
「言われてみれば、私は小さいころから友だちと一緒にトイレに行ったりするのが苦手だったんです。自分が行きたいときにひとりで行く。女の子たちとつるむのが好きじゃなかった。男兄弟にはさまれた長女で、幼稚園から大学まで公立の男女共学だったことなども影響しているのかもしれません」
さっぱりしすぎた性格ゆえ、ドライすぎてつきあえないと女友だちに言われたこともあるという。
「しょうがないですよね、それが私なので。自慢じゃなくてポジティブなのだと誰か気づいてくれるといいんですが(笑)」
もうしばらくは育休を楽しもうと考えていたが、「仕事に戻ったほうが楽かも」と最近は思い始めているとモエさんは笑った。