北野天満宮のご神木「飛梅」を守る
学問の神様・菅原道真公を祀る京都の北野天満宮は、梅の名所としてもよく知られています。中でも「飛梅」は、道真公が平安時代に育てられた紅梅を受け継ぐ唯一の梅で、道真公を慕って京都から太宰府まで一夜のうちに飛来した「飛梅伝説」を伝承すると言われるご神木です。薄紅色の可憐な花を咲かせる飛梅
しかし、梅の木には怖い感染症があることがわかっています。2009年に東京都青梅市で「ウメ輪紋ウイルス(PPV)」の感染が確認されると、緊急防除のために、各地で何万本もの梅の木を伐採するという事態に。そのような不慮の事態や、地球温暖化などの影響に備えて、飛梅を後世まで大切に守っていくための手段が必要となっていました。
そこで注目されたのが、木のスペシャリストである住友林業のバイオテクノロジーです。このご神木を保護するプロジェクトを担う住友林業 森林・緑化研究センター 中村センター長にお話を伺いました(以下コメントはすべて中村さん)。
「北野天満宮と住友林業は、飛梅を末永く継承するために、2009年より共同で研究開発プロジェクトを進めています。『組織培養』という技術を使ってこのご神木の増殖に取り組み、2015年に世界で初めて増殖に成功。そこから7年の歳月を経て、ついにもとの木と同じ美しい花を咲かせることができました」
ご神木と同じ色・同じ形の花を咲かせることに成功!
組織培養でウイルスに感染していない若い苗を作る
増殖した木から、観賞用の梅が開花したのも世界初の快挙となるそう。その組織培養とはいったいどんな技術なのでしょうか。
「バイオテクノロジーのひとつの手法で、もとの木とまったく同じ苗を作る技術です。挿し木や接ぎ木でも同じように増殖はできますが、もとの木がウイルスを持っていたときは一緒にうつってしまいます。しかし、組織培養で生まれた苗であれば感染症は受け継ぎません。
また樹齢100歳の木であれば、接ぎ木自体も100歳のままで年を取っています。組織培養ならもとの木よりも若返り、活性化した苗にすることができるというメリットもあります」
●極小の芽から、神木の苗ができるまで
(1)冬芽を採取して、芽の先端の分裂組織(茎頂部)を顕微鏡下で取り出す。
(2)培養液を入れた試験管で茎頂部を培養し、芽のかたまり(多芽体)を作る。
(3)多芽体を、寒天でできた固体培地に移して成長させる。
(4)芽を切り分けて人工の土に植えつけ、根を張らせて苗にする。
「人工の土に植えつけると、3~4週間程度で根が張ってしっかりとした苗になります。ここまでは無菌状態で大切に育て、その後は外の条件に慣れさせるために温室に出して、次に畑に植えることでぐんぐん成長していきます」
顕微鏡で見るレベルの芽から、こんなに大きく成長する
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