亀山早苗の恋愛コラム

高偏差値の「いい子ちゃん」がたどり着く未来…女優並みの演技力で見事に媚びる彼女の“無”の顔

親や教師にとって「いい子」であることが重要だというのは、一般的な認識だろう。だが、「いい子」の内容については言及されないことが多い。大人にとって都合のいい「いい子ちゃん」は、将来どうなっていくのだろうか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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親や教師にとって「いい子」であることが重要だというのは、一般的な認識だろう。だが、「いい子」の内容については言及されないことが多い。大人にとって都合のいい「いい子ちゃん」は、将来どうなっていくのだろうか。
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高偏差値だったいい子ちゃん

「今、私の勤務先の部署にマリンという子がいるんです。都内の超難関私立の中高一貫女子校から超有名私立大学を出て入社して3年目。飲み込みも早いし、上司にも見事に媚びるオヤジキラーなんですが、相手に応じてあまりに見事に態度を変えるので最近ではカメマリンと私たち女子社員の間では呼んでいます。カメレオンマリンの略で(笑)」

そう言って苦笑するのは、ユウコさん(38歳)だ。マリンさんは、女子社員たちに衝撃を与えたのだという。

「うちの会社、わりとのんびりした雰囲気が漂っているんですよ。いい意味でアットホームというか、時代の流れに逆らっているというか。男女問わず、のし上がろうとする人や出世欲で凝り固まっている人もいるにはいるけど、全体的にはおっとりしてる。私のいる部署は特に穏やか。

そこへやってきたマリンについた指導社員が、これまた超おっとりだった。マリンは『あの先輩のアドバイスでは、この仕事の全体像が見えません』と直属上司に掛け合ったそう。それでいて、その上の課長には、女全開で媚びまくり。さらにその上の部長には、適度に媚びながら優秀さをアピールしてる。見ているとおもしろいくらいです」

人によって態度がくるくる変わるのだが、興味深いのは本人が緻密な計算の上にそうしているのではなく、「息をするように態度を変えること」だという。

「お茶くみ作業なんてないんですが、重要な取引先が来ると、彼女はなぜかとっておきのお茶を淹れてもっていく。もちろん、相手がそういうことを重視しているとわかった上でですが。そして応接室で自分をさりげなくアピール。取引先が『彼女、なかなかできそうだね』と言うのを見越しているんです」

毎日が女優並みの演技なので、ユウコさんはときに感動しながら見ているのだが、周りの女子社員たちはあっけにとられているばかり。

「男性社員に対する態度も見事ですよ。仕事一途な堅い社員には、テキパキと対応、ちょっとチャラい社員と仕事をするときはまとめていた長い髪をはらりととく。それもといたときに彼が話しかけてくるのを予測していたみたいに。相手はドキッとしますよね。それを見ながらまた髪をまとめるんです」

どうしたら相手が自分に興味をもつのか、どうしたら自分の領域に相手を引きずり込めるのか。そして社内でどうやってのし上がっていくのか。そんなふうに考えている、彼女の裏の顔が見えてくるという。
 

「いい子」は人の心を読むのがうまい?

つい最近、ユウコさんは姉の娘である姪とゆっくり話す機会があった。姪はごく普通の公立校に通う中学2年生だ。

「小学校の同級生が有名私立などにも行ったようですが、『いい子ちゃんたちは、私とは違う道をいく子たちだから』って。どういうことか尋ねたら、『先生によって態度を変えるんだよ。力をもっている先生かそうではないかを見抜いて態度を変えるの』って。学校内で力をもっている先生には“いい子”として媚び、そうでない先生には裏でバカにした発言をしているとか。『いい先生はいっぱいいたのに、いい子ちゃんたちは生徒の気持ちをわかろうとしてくれる先生をバカにしていた』というんです。親の影響なのかもしれませんね。そんな話を聞いて、私は会社のマリンのことを考えていました」

マリンさんが中高一貫の難関校に入るためには、相当な努力をしたことだろう。親も一丸となってがんばったはずだ。だから彼女は今も仕事に前向きにがんばっている。

「ただ、受験や勉強でがんばる一方で、“人の気持ち”に関してはどこか鈍感になってしまったのかもしれません。自分ががんばれば、人の気持ちさえもコントロールできると思い込んでいる可能性も。姪の同級生だった“いい子ちゃん”たちが、みんなマリンみたいになるとは思わないし、マリンの生き方がいけないわけでもない。ただ、マリンが日々、楽しく過ごせているのかなとも思うんです」

というのも、ある日、ユウコさんは仕事終わりに他社の友人と会うため、会社近くのカフェに寄ったことがある。そのカフェの隅でぼんやりとコーヒーを飲むマリンさんを見かけたのだ。わざわざ声をかけたりはしなかったし、マリンさんもユウコさんには気づかなかったようだが、あのときの放心したようなマリンさんの表情を忘れられないという。

「放心というか、疲弊しきっていたというか。誰かを待っている様子でもなかったので、ひとりでその日の疲れを癒やしていたんじゃないかな。ふだん見ない、“無”とか“空”とかいう言葉が合っているような雰囲気でしたね。長年、彼女はそうやって無理してきているのかもしれない。自分の本当の感情を見ないようにしながら。姪の話を合わせて、なんだかマリンが気の毒にもなりました」

がんばれば何でもできる、他人にいい子だと思われるためには何でもする。そうやって生きてきたマリンさんが、これからどういう局面を迎えるのか、ユウコさんは少しハラハラしながら見守っている。
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