以前は別に作っていたけど
「夫がひどい偏食だというのは、つきあっているときからわかっていました。野菜をほとんどとらない、食べるのは肉ばかりなんです。結婚しても共働きを続けるつもりだったので、食事はどうするのかと聞いたら、『オレは牛丼でいいから』と。そのまま勢いで結婚したんですが、当初は時間があればビーフシチューを作ったときに野菜を煮出したスープを入れるなどいろいろ工夫しました。野菜の形が見えていなければ食べてはくれる。でも手間がかかるんですよね」カオリさん(42歳)は苦笑した。3歳年上の彼と結婚して12年、10歳と7歳の子がいる。子どもができてからは、夫のために料理を作るのは週末くらいになった。
「まずは子どもの栄養面が大事ですから。でもいくら料理を作っても、夫はほとんどパス。乳製品も食べないし、刺身もダメ。鮮魚類はイカやエビのフライなら食べるんですけどね」
せめて野菜ジュースでも飲んでほしいと言っても、夫は「わかった」といいながら飲んでいないのが明らか。昼食もほとんど牛丼や蕎麦ですませているようだ。
「アレルギーなどではないんです。ただ、味が好きじゃないという理由。義母に聞くと、子どものころから食べ物にはきむずかしくて、離乳食も苦労したそうです。『あの子の偏食は筋金入りだから、もう無理よ』と苦笑していました。それでもやはり健康面が気になるので、今はサプリなどをとるようにしてもらっています」
もともと食にはほとんど興味がない人でもあるようだ。
「このところ寒いので、鍋料理が多いんですよ。子どもたちは野菜をもりもり食べているけど、夫はその様子を見ながら牛丼をかっこんでいる(笑)。すき焼きのときだけは夫も肉を食べますが。おでんでさえ、あまり箸が進まないんです。さつまあげとはんぺんを食べて終わりという感じ」
ただ、夫の偏食が子どもたちに影響しなかったことだけはほっとしているとカオリさんは笑った。
「夫は自分の食事は自分でなんとかするので、今はもう関与しません。ただ、家族で外食するのはむずかしいですね。たまにファミレスに行くくらいかなあ。海辺に旅行したときは、夫はわざわざ車を借りて遠くのコンビニまで行ってましたね。おいしいお刺身がたくさんあったのに」
救いは、夫がそのことでイライラしないこと。子どもたちは「同じものは食べられないけど、それがおとうさん」だと認識しているようだ。
「別献立」を要求してくる夫
一方、妻に自分用の献立を要求してくるような夫だと、妻はだんだん疲弊していく。「遠い親戚から紹介された人と、つきあって3カ月くらいで結婚を決めました。会ったのは数回。有名企業に勤めていて専業主婦になれるからと、急いで決断してしまったのが間違いでした」
そう言うのはユウミさん(38歳)だ。30歳のときに10歳年上の人と結婚したが、結婚生活は3年しかもたなかった。
「最初は親と別居という話だったのに、半年ほどで親元に引っ越そうということになった。義両親は元気なのに。夫が言うには家賃がもったいないと。最初からそのつもりだったのかもしれません」
同居してみたら、台所はすべて任せると義母に言われてしまう。ところが義両親も偏食。だが義両親が好きなものは夫が苦手ということが発覚。そのため義両親用、夫用とそれぞれのメニューを考えなくてはならなかった。
「毎日、なんだこれの連続です。私は義両親と夫の好きなものを少しずつつまむような食生活でした。自分の好きなものを作る余力はなかった」
義両親は仲がいいとはいえず、それぞれが勝手に出かけることはあっても、ふたりともいない時間があまりない。どちらかがいるので、ほぼ毎日、誰かのために3食作らなくてはいけない。ユウミさんは家を自分好みのインテリアにしたい、さらにインテリアの勉強をしたいと思っていたのだが、それどころではなかった。
「夫はじゃがいもは好きだけどタマネギが嫌い、みたいな人。だからカレーライスはタマネギ抜き。でも義母はにんじんが嫌い、義父は肉が苦手。3人の嫌いなものを紙に書いて冷蔵庫に貼っておき、何か作るときはいつもその紙とにらめっこでした」
1年たったとき、ユウミさんは5キロも体重が減っていた。実家に帰ると母親が心配したというほどだ。
「性格も暗くなっていきました。朝起きると憂うつなんです。この家は今までどうやって暮らしてきたんだろうと思ったら、食事はみんな勝手にしていた、と。だったらそうしてほしいと言うと、義母は『買ったものはおいしくない。あなたがいるんだから、やってよ』と。私は食事を作るためにこの家に来たんですかと言いたくなりました」
それでも結婚したのだから自分が我慢しなくてはいけないと彼女は思っていた。だが3年目に入ると、彼女自身が心身ともにまいってしまった。
「ある日、立ちくらみで倒れて入院。過労とストレスだと言われましたが、義父母からも夫からも『働いてないじゃないか』と面と向かって言われて。退院して婚家に戻らず、実家に戻りました。母は親戚に文句を言っていましたが、そこまで知らなかったと言われて終わりです。結局、私が結婚を焦ったのがいけなかったんですね」
離婚を承諾しない夫とは裁判にまでなり、ようやく離婚が成立したのが2年前だ。現在、健康状態も復活したユウミさんは、アルバイトをしながら実家で暮らしている。
「ここから人生、やり直せるのかなと不安ですが、なんとかがんばって就職したい。結婚はもうこりごりです」
偏食そのものが夫婦仲を悪化させるわけではなく、そこにともなう当人や家族のありようが問題となる。ただ、偏食が激しい人との食事は「あんまり楽しくはないですね」とユウミさんは苦笑した。