「僕は気をつけていますが、うちの妻はまったく無神経に傷つけてくる」 そんなふうに言う男性たちが増えているようだ。
「どうしてできないの?」という否定
今や男性も家事育児をするのが当たり前の時代。「うちは共働きだから、もちろんふたりで協力しあっています。ただ、僕自身はあまり家事が得意ではありません。特に片付けが苦手。妻はそこを突いてくる。しかも言い方がよくない。傷つくんですよね。『どうしてそんなに段取りが悪いの?』『この前も言ったじゃない、どうして覚えられないの?』という具合。こうやったほうがいいよという前向きな言葉ではなく、否定するだけなんです。まるでおまえは無能だと言わんばかり」
ため息をつくのはサトルさん(39歳)だ。同い年の妻とは結婚して8年、6歳と4歳の子がいる。妻は「本来、私は会社を辞めたかったけど、あなたの収入じゃ一家4人暮らしていけないの。そこだけ覚えておいて」と言ったそう。
「どうしてそこまで妻が強気なのかわからないけど、結婚前は強気な彼女が好きだったんですよ。だけどそれは攻撃が僕に向いていなかったから。毒舌な女性がおもしろいと思えた。結婚後はその毒舌が自分に向いてくるとは想像していなかった」
強気な妻は、どうやら仕事もできるらしい。勤めている企業の給与体系が違うこともあるが、今は妻のほうが収入も高い。それが妻の強気に拍車をかけているとサトルさんは言う。
「妻の実家は父親が教育者、母親は薬剤師。親戚も弁護士やら医者やらがいる。うちのオヤジは工場勤務の職人です。僕はオヤジを尊敬しているけど、妻はたぶん、かなり下に見ている。『教養と収入は比例する』とよく言っています。それは確かだろうけど、いろいろな生き方、いろいろな職業があると僕は思いますけどね」
だが、サトルさんはそのように妻には言えずにいる。一言口にすると百言、反論が帰ってくるからだ。
争おうとは思わない
「僕は妻と争うつもりはまったくないんです。ただ、子どもの前で人を侮辱するような言い方はやめてほしい。それは伝えました。でも妻には理解できていないみたい。そこが問題なんですよね」サトルさんは、家事の中では料理が好きだという。先日もパスタを作ったのだが、アルデンテに茹で上がったのでザルに上げようとすると、妻が『そんなに固いものを子どもに食べさせるの?』と言い出した。
「子どもたちだってもう食べられますよ。グダグダに茹でたパスタなんてうまくない。なのに『あなたは子どもたちのことを考えてない』と一刀両断。実際、子どもに食べさせたらおいしいと言ってましたけどね。子どもにはこうすべきという思い込みにとらわれているんです、妻は」
自分の思い込みだけで突っ走る妻に、サトルさんは最近、疲れてきたと本音を漏らす。なんでも自分で決めないと妻は気がすまないのだ。
「料理を僕に任せたなら、彼女は何か違うことをするとか子どもと遊ぶとかしていればいいのに、いちいちチェックしに来るわけです。僕が『いいからあっちに行ってれば』というと、『放っておくとろくでもないことをしそうだから』と。先日、とうとうムカッとして『もうちょっと言い方に気をつけたほうがいいよ』とつぶやいてしまいました。すると妻は知らん顔でしたね」
妻の実家に行ったとき、母親がサトルさんに「あの子、最近、ますます言い方がキツくなってる。あなた、ちゃんと娘にやさしくしてる?」と言ってきたそうだ。まるでサトルさんが冷たいから、自分の娘がストレスを抱えていると言わんばかり。母と娘、よく似ているとサトルさんは感じた。
「なんでしょうね、あの敵視のしかた。義母も妻も、よく『まったく、男ってやつは』と言うんですよ。義父は知らん顔していますが、妻の実家では女性ふたりがそういう言い方を昔からしてきたんでしょうね。男であることが罪悪みたいに感じさせられることがあります。うちは娘ふたりなので、ああいう女性にはなってほしくないけど、どうしたらいいかわからなくて困っています」
皮肉を吐き、毒舌であることが「頭のいい証拠」と思っているような義母と妻。そんな環境で否定的な言葉を聞き続けて成長する娘を、彼は案じている。
「僕はとにかく肯定的、前向きな言葉を使うようにはしています。いつかタイミングを見て、妻とはちゃんと話したいのですけど……」
タイミングを見計らっていては遅いかもしれない。否定的な言葉や皮肉の数々が人の気持ちにどんな影響を与えるか、本などを通じて早く妻に知らせたほうがいいような気がしてならない。