悪い人ではないのだけれど
「私はそそっかしいので、私生活でもおかしなことをしてしまうんです。先日も、子どもが学校に出かけてすぐ体操着を忘れているのに気づいて、あわてて追いかけた。『ダメじゃない、忘れちゃ。はい』と渡したのが、なんと夫のパジャマ。子どもの体操着はちゃんと袋に入っているのに、それを横目に夫のパジャマをとっさにつかんでいたなんて、恥ずかしくてたまらない。子どもにも大笑いされました」照れながらそう言ったのは、ヨウコさん(40歳)だ。結婚して11年、9歳になるひとり息子がいる。
「その話を職場でしたんですが、子どもが体操着を忘れてと言った瞬間、同僚のミチコが『あるあるだよねー、うちの子も忘れ物がひどくて』と話を取ってしまった。彼女の話がひとしきり終わってから、先輩が『それで?』と私を促してくれたんですが、話す気力がなくなりました」
ミチコさん、決して悪い人ではないのだという。仕事も早いし、何かあると親切に調べ物もしてくれる。だが、そういう雑談の場ではどんな話題も「自分のこと」に転換させてしまうのだ。
「仕事だけのつきあいなら気にならないけど、ミチコのところとうちの子が同い年だし、彼女は情報通なのでいろいろ教えてもくれるんです。今どきの小学校事情とか私立中学の受験のこととか。だから距離を置いてつきあっています。ただ、職場の女性たちからは嫌われているみたい。彼女自身、そのことは気になっているようで、『私、あの人に何かいけないことを言ったかしら』とつぶやくこともたまにあるんです。本人、たぶん話を盛り上げようとしているだけなんだと思うけど、いつの間にか自分が自分がになっている。それを正直に言ったほうがいいのかなとも考えるんですが……。恨まれたくないし」
女性の多い職場だから、女性同士、なるべく仲良く仕事を進めたい。だが、周囲には彼女と親しいヨウコさんに「なんとかしてほしい」と思っている人が少なくないという。今はなかなか食事にも行けないが、いつかミチコさんとゆっくり食事にでもいって話してみたいと思っているそうだ。
義妹がやたらと口を挟んでくる
夫の実家が近所なので、子どもを預けることも多く、義実家とのつきあいが濃厚なレイコさん(43歳)。3年前に離婚して子どもふたりを抱えて実家に戻ってきた義妹のフミカさん(39歳)が、「話を盗っていく人」だと言う。レイコさんの子が、12歳と9歳。フミカさんの子も12歳と10歳でほとんど変わらないため、いとこ同士は仲がよく、必然的に顔を合わせる機会も多い。
「たとえば、うちの子が転んで怪我しちゃってと言うと、普通は『あら、大丈夫?』となりますよね。ところが義妹は『うちの子も。どこそこで転んでそのとき誰がいて……』という話を延々とするわけです。めんどうだからこちらの話は引っ込めるんですが、それが義実家でみんないるときだと、さらに面倒なことになる。うちの子が話し始めたことにやたらとチャチャを入れたあげく、話を盗っていくんですよ」
長男は歴史が好きなので、祖父に戦国時代の話をし始めたことがあったという。義妹は「あら、そんなこと知ってるの?」に始まり、自分の知っている戦国武将の名前を列挙した。「そういうことじゃなくて武田信玄がね」と長男が話を戻そうとすると、「ねえ、おとうさん、明智なんとかっていたじゃない?」とまったく違う名前を出す。義父も困惑しているのだが、義妹は離婚した当初、かなりうつ状態になっていたこともあり、両親はいまだに腫れ物にさわるような扱いから抜けていないのだ。
「長男を促して自宅に戻りました。ただ、義妹は昔からそういう人だったみたいで、むしろうつ状態を抜けて本来の彼女に戻っているのだから、普通に対処したほうがいいと思うんですけどね。今度はおじいちゃんがひとりでいるときに話したほうがいいよと長男に言ってしまいました。『おばちゃんはいつも邪魔するんだ』と落ち込んでいましたね」
誰かが気づかせなければいけないのだろうが、誰も猫の首に鈴をつけようとしない状態。義実家とのつきあいは断ち切るわけにもいかないので、レイコさんは困り果てている。
「夫にその話をしたら、『オレ、あいつが苦手なんだよ』って。自分の妹でもやはり苦手だったりするんだとちょっとホッとしましたけど。折りをみて話すよと夫は言うけど、いまだになんら手を打ってはくれません」
義妹に会うたびストレスが増えるとレイコさんは苦い表情になった。