義妹がかわいそうになって……
「久しぶりに夫の実家に2泊したんですが、義母の恐ろしさがエスカレートしていて、さすがの夫までドン引きしていました」そう言うのはマイコさん(40歳)だ。結婚して10年、3歳年上の夫との間に8歳のひとり娘がいる。マイコさんの仕事があったため、義実家に到着したのは大晦日の夕方。
「着くなり、義母に『遅い』と一喝されました。義母は1年前まで食堂を経営していた、肝っ玉母さん系の人。本人は『私は言いたいことを言うけど、腹の中には何もないからね』とさっぱりした人間をアピールするけど、実はけっこうドロドロ系なんですよ(笑)。昔のことを持ち出してネチネチ言ったりするんだから」
すぐにみんなで夕飯にしようと義母はマイコさんを急き立てた。当日、集まったのは義弟一家5人と、マイコさん一家3人、そして義母の弟夫婦。義父母と合わせて12人だ。
「田舎の家だから大広間があるんですよ。そこにテーブルを3つくらい並べて宴会状態。広いけど途中でちょっと不安になって窓を開けたんです。『換気しましょう』と言って。すると義母が、『あんたは相変わらず頭がいいね』と。こういう言い方はよくする人。嫌味なのか本気なのかわからないんですが、まあ、スルーしました」
すると義母は、『あんたも勉強しなさい』と突然、義弟の妻であるミカさんに話を振った。義弟は再婚で、義母は前の妻のほうが気に入っていたらしく、ミカさんには冷たい。突然言われたミカさんがきょとんとしていると、『ほら、みんなにご飯をよそって。気が利かないわね』と義母に怒鳴られていた。
「だけど前の奥さんって、義母が無理矢理結婚させたんですよ。義母にはよかったかもしれないけど、義弟自身が妻を愛せなかったらしい。ミカさんは3人も子どもを産んで仕事も続けてがんばっている女性。義弟は40歳ですが、これがちゃらんぽらんなヤツで、再婚してからも転職したり無職の時代もあったり。ミカさんは8歳も下なのにしっかり支えてる。義母ももっと感謝してもいいはずなんですけどね」
義母は次男である義弟を溺愛し、今も小遣いを渡しているとか。マイコさんの夫がいいかげんにしろと怒ったこともある。
「ミカさんがかわいそうだから、ご飯は私がとよそうと、義母は『長男の嫁は気が利くのよね』と自分の弟夫婦に自慢。ミカさんの顔が歪んだので、こっそり『気にしない、気にしない』とささやきました」
元日に義弟一家が逃げ帰る事態に
翌日、義母は日の出を見たいと義弟に車を出させた。義母の弟夫婦もついていった。「ミカさんは疲れたような顔をしていました。子どもたちがまだ小さいので、慣れない場所で寝てくれず、彼女もほとんど休んでいないみたい。あとは私たちがやるから少しでも寝なさいと休ませました。起きてきた義父も『みんな、すまない』と言う。義父が優しいから義母がどんどん権力者になっていくんだけど、70代になった義父にそんなことを言ってもしかたがない」
マイコさんが夫とおせちの用意などをしていると義母たちが帰ってきた。まだ準備できてないの、すぐに食べましょうと義母は号令をかける。
「ミカさんはまだ寝てるの? あんた、そういう女房でよく我慢できるねと義母は義弟に言うと、ミカさんたちの部屋にずかずか入っていきました。追いかけて『ミカさんは眠れなかったからつらそうで』と言うと、『この家では私のルールを守ってもらうから』と。なんだか義母の独裁者ぶりが怖かったです。前はもうちょっとおっとりしていたのに」
夫によれば、コロナの影響で食堂を閉めてから、義母はかなり変わってしまったようだ。エネルギーを持て余してもいるのだろうし、「やることがないから人の一挙手一投足をあげつらうようになった」という。
「そう聞くとかわいそうですけどね。私への嫌味と義妹への罵詈雑言はさすがにつらい。義妹はとうとう元日の夜には帰っていきました。もちろん義弟も一緒に。義母は『あんたは嫁の言うことを聞くわけ?』と迫っていましたが、さすがの義弟も『かあさん、少しおかしいよ。病院に行ったほうがいい』と吐き捨てていきました。夫を見ると、夫も私に目配せ。私たちも翌日朝には帰ることにしました」
ところが義母は納得しない。誰もいなくなる、私はひとりだと大泣きし始めた。義母の弟夫婦も去った。マイコさんも帰りたかったが、だんだん義母がかわいそうになっていった。
「お義母さん、去年、何かいいことありました?と話しかけたんです。するといいことなんて何もない、と。今年は何か楽しいことをしましょうよと言いました。でも義母はむすっとしたまま。歩み寄ってもこちらを向いてくれないなら、とあきらめて帰りました」
それでもマイコさんは気になり、義父に、たとえば老人施設などで義母が食事の支度を手伝えるようなことはできないかと聞いてみた。
「仕事をしていた人が何もやることがなくなると、精神的にバランスを失いますよね。義母は生きがいがなくなったんだと思う。ボランティアならいつでも歓迎と言われ、義母は正月休みが明けてすぐ、近所の老人施設に足を運んで料理の手伝いをしていたそうです。とはいえまたコロナ禍で、それも休止になってしまったようなんですけどね」
コロナは人の運命を変えている。柔軟に対応しながら終息を待つしかないのだが、高齢者にはその苛立ちが自分できちんと分析できないのかもしれない。少し周りが本人の「生きがい」を手助けしてあげないといけないんじゃないかなと、マイコさんは静かに言った。