どんなに遠く離れていたって……
不倫関係の中には、「超遠距離」ともいえる関係を築いているカップルもいる。離れていても愛は消えない、相手に会うことが生きていく励みになると言う人も。日本とヨーロッパで「超」遠距離不倫
「お互いに既婚、さらに超がつくほど遠距離。それでも関係を解消したいとは思いません。彼も同じ気持ちでいてくれます」10年にわたる恋愛を続けているのは、ナルミさん(45歳)だ。知り合ったのは日本だが、2年ほどたったところで彼は仕事の関係でヨーロッパへ。たまに彼が帰国したときと、ナルミさんが過去に2度ほど会いに行ったことがあるだけだ。コロナ禍でこの1年半はまったく会えていない。その前は6年半で10回ほど。
「彼は個人事業主ですね。私もそう。結婚して15年たつ夫は会社員です。うちは子どもがいないので、それぞれがひとりで旅行するのも自由。私も仕事関係で海外出張をすることはあるので、夫はまったく疑っていないと思います」
今はお互いの顔を見ながらオンラインで話すことも普通にできるが、それでも3歳年上の彼には18歳と14歳の子がいる。一家で海外にいるので、彼が時間をひねり出して話す時間をとってくれるそうだ。
「知り合ったころは本当に三日にあげず会っていました。こんなことしていて、私は大丈夫だけど彼は疑われるのではないかと思っていたら、『うちは大丈夫。妻は僕に過剰な期待をしていないから』って。どういう意味かよくわからなかったんだけど、お互いに自立した夫婦みたいです。それでも嫉妬はしますよね。そのあたりを彼はわかってないみたいだった」
大丈夫かと思いながらも会わずにはいられない。そんな気持ちが最高潮に達したころ、彼は「どうしてもヨーロッパで仕事がしたい」と言い出した。
「仕事柄、ヨーロッパに行くことは彼にとっていいことだとわかってはいましたが、今までのように会えなくなるのが寂しくて……。発つ前は3日連続で会いました。もうこれで会えなくなると思って。でも半年後には私があちらにいました(笑)」
世界をまたにかけた不倫である。
不倫という意識はなかった
「夫とは仲のいい友だちみたいな感じ。でも彼に対してはいつまでたってもドキドキする。恋愛感情だけなんですよね。だから万が一、彼と結婚できることになったとしても結婚はしないような気がします」夫婦はもっと気楽な関係がいいとナルミさんは言う。安心できるのは夫。心をかき乱されるのは彼。彼女の中ではある種の『棲み分け』ができているようだ。
「今となっては、彼が海外に行ってくれてよかったという気さえします。彼ともそういう話をするんですよ。これでこの恋は一生終わらないねって。一生終わらない恋があるのかどうかわかりませんが、私たちがそれを実証しよう、と。バカップルかもしれませんが、私は彼がいてくれるから、生きている実感があるし、これからもがんばろうという気になれる。そんな恋であっても、バレたら大変なことになるんでしょうけどね」
夫に対して申し訳ないという気持ちはないとナルミさんは言う。現実である結婚生活と、どこか浮世離れした恋愛とは同じ土俵では語れないらしい。
「ヨーロッパのとある国に彼に会いに行くと、空港で迎えてくれる。そこで抱き合ったときに『夢物語が始まるんだ』と思えるんです。私も少し仕事関係で動かなければいけなかったりするのですが、彼はそのアシストもしてくれるし、夕飯も毎日一緒にとる。1週間ほどですが、おそらく日本から大事な仕事関係者が来ていると妻には言っているんでしょうね。人は仕事だと言われたら何も言えなくなる。それを利用して会っているのだから、彼の妻に対して悪いという気持ちはあります。だけど悪いと思うなら別れればいいわけで、それも偽善的ですよね……」
結局、彼の背景にある家族のことは考えないようになった。そして次はいつ会えるかを楽しみにするだけにした。
「それだけにこのコロナ禍は痛手でした。そろそろ来ても大丈夫だと彼はいうけど、もう少し様子をみたいと思っています。こんなに長い間、会わなかったことはないので、ますます恋愛感情が高まっているんですが」
ナルミさんの仕事もコロナで影響を受けた。今は立て直しに必死だという。
「それでも会わずにはいられない。今すぐにでも駆け出したいくらい」
秘め事をもっている人ならではの密やかな艶めきを振りまきながら、ナルミさんは去っていった。善悪で語りきれないものが「人の営み」には隠れている。