私は「遠距離恋愛」でいいんだけど?
長くつきあっていると相手か自分が転勤になることもある。遠距離恋愛は向き不向きがあり、「去る者日々に疎し」という側面もあるだろう。相手のことは好きだが、遠距離だからといって結婚を急ぐ気にはなれない女性も今の時代、いるようだ。寂しいけれど犠牲にはなりたくない
「学生時代の友人と卒業から5年後に再会、そこからつきあいだしてもう7年になりますね」そう言うのはリオさん(34歳)だ。同い年の彼とは30歳になったころからもう4年間の遠距離恋愛が続いている。当初は3年で彼が戻ってくる予定だったのだが、コロナ禍で会社の方針も含め、すべてが変わってしまった。
「彼は今、関西方面にいます。コロナの影響でいくつかあった営業所が統合されたりして、帰るに帰れない状態になっているみたい」
そう言いながら、リオさんは特につらそうではない。コロナ禍は別としても、彼との遠距離恋愛はそれなりに楽しいという。
「テレビ電話で顔を見て話せるから、それほど寂しくないですよ。私は在宅ワークができない仕事なので、コロナ禍でもほとんど関係なく、むしろ忙しいくらい。彼も営業所の統合で多忙を極めている。お互い、週末に家でくつろぎながらだらだらしゃべって、リモート飲み会して。それなりにおもしろかったです」
だが彼は遠距離恋愛が2年目に入ったころから、「寂しい」を連発していた。もともと実家暮らしだったこともあり、人のいない家に帰るのがたまらなく嫌だったようだ。
「私は大学時代からひとり暮らしですから、彼がこちらにいるときも、『週末のどちらかは一緒にいよう、でも土日ずっとべったりは困る』と言っていたくらい。だって貴重な週末ですよ。平日できないことをひとりで、あるいは友だちとしたいですから。彼は『リオは冷たい』と言っていましたけどね」
ただ、同じ関東地方にいて週末が来れば会えるから、彼もリオさんの淡々とした態度に怒りはしなかったが、今回の転勤では「ひとり暮らし」が本当につらいらしい。
「わからないんですよね、私には。気楽でいいじゃないですか。彼が転勤した最初の年、彼が2週に1回は会いたいというから行ったこともあるんです。でも結局、彼は土曜日に仕事が入ったり、せっかく行っても日曜の午後は仕事だったり。行く意味ある?とゴールデンウィーク明けから9月ごろまで行きませんでした。忙しいときは仕事に集中したほうがいいんですよ」
すると彼は、「オレのこと嫌いになった?」と聞いてきた。彼女は「そういうことを聞かれるのがあまり好きじゃない」とはねつけたという。
「仕事を捨てて来るのが愛だ」という彼
コロナ禍に入ってからは、ますます彼の「寂しい」が止まらない。仕事は慣れてきたし、コロナ禍なりに業績を上げているようだし、行きつけの定食屋さんもできて、リオさんから見れば「なんだか楽しそう」な生活なのだが、彼は楽しんでいないようだ。「今月に入って、彼は『仕事を辞めてこっちに来ない? 結婚しよう』と言い出しました。なぜ今なのかと尋ねると、寂しいからって。思わず笑ってしまいましたよ。だってなぜ私が仕事を辞めなければいけないのかわからないから。『オレのほうが収入が高いし、オレ、男だから』と彼は不機嫌そうに言っていました。まったく意味がわからない」
彼はリオさんの仕事にはあまり興味を示したことがない。それは大人だから相手の仕事に介入しないように、つまり自分が尊重されているとリオさんは感じていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
「まったく逆で、彼は私の仕事を軽んじていたんですよね。仕事に向かう私の姿勢もね。確かにそんなに給料がいいわけではないんですが、仕事の価値や誇りって給料だけで示されるものでしょうか。仕事を捨てて男性のもとへ行くことが“愛情”だと思っているのかと、なんだか情けなくなってしまいました」
この7年は何だったんだろう、と彼女は彼にメッセージを送った。わかりあうのはむずかしいけれど、あなたは私が「人のために仕事を辞める選択をしない人間」だということくらい知っていると思っていた、とも書いた。
「そうしたら彼は、『冷たい性格は変わらないか……』と。そもそも私は冷たいわけじゃない。実際、彼が精神的にかなり参っていた最初のころはせっせと通っていましたし。来てほしいと言いながら、行くと一緒にいる時間を作れなかったのは彼のほう。彼はそれでも『リオが来てくれただけで満足』と言っていましたけど、貴重な時間を使って私は彼の部屋を掃除したり洗濯したりしただけ。あまりに不公平ですよね。愛情を試されているようで、とても不快でした」
勢いあまって、そんなこともぶちまけてしまった。それが10月の初めのころ。以来、3週間ほど彼からは連絡が来ない。7年の関係がこのまま終わってしまうとしたらあっけないが、リオさんは「それならそれでいいと腹を決めた」そうだ。どちらかが一方的に甘える関係、言葉の裏にこめられた“上から目線”に、長年の信頼感が一気に壊れてしまったのかもしれない。